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作品タイトル不明

第716話 彼女は賢者学院の変化を確認する

第716話 彼女は賢者学院の変化を確認する

火派を除く、各派の授業や研究室に顔を出し、あるいは、領主館を自分たちの拠点として活用しつつ、彼女達は徐々に賢者たちとの交流を進めていた。

よく顔を出すのは、土派木組のクノクリの研究室からの帰り。リリアル勢は、とある話題で盛り上がっていた。

「ラ・クロスの大会です」

「やっぱり、私たちもぉ出るんですかぁ」

「折角練習したのだから、出たいわよね!!」

四つの精霊毎の会派で代表を選出する「賢者杯」という年に一度の大会があるのだ。最近は、土派のなかの三つの分派『草組』『木組』『石組』に分かれ、計六チームで行われるのだという。

「最初は三チーム毎のリーグ戦で上位二チームが準決勝進出になって、勝ち抜き戦で勝者同士で決勝、敗者同士で三位決定戦を行うみたいね」

「なんか、それで上下関係が決まるみたいなんですぅ」

「世知辛いですわぁ」

食堂の利用の優先順位から、研究予算の割り振り迄、様々な場面でこの戦いの結果が影響するのだという。

彼女は「常敗無勝」と呼ばれる『木組』のクノクリから「助っ人」依頼されているのである。名目上は、四会派の中で王宮に近しい「風派」に参加することになりそうであったのだが、火派との模擬戦結果から「それはない」とされた。

その上で、『最弱』であり比較的王宮との距離も近い土派木組に参加することでバランスをとることになったのである。その辺もあって、クノクリは彼女達に好意的であったのだろうかと、今になって思わないでもない。

「好意には裏があるのよね」

「悲しいけど、これ、現実なのよねぇって感じですぅ」

「ですわぁ」

『最弱』故に、様々な者を受け入れるという面はあると思う。計算だけで良くしてくれていたわけではないと……思いたい。

「まあいいわ。それで、ようやく伝わったみたいね」

「ええ。煩いのが沈黙して清々したわ」

火派は彼女達に「リベンジマッチだぁ!!」と意気軒高に顔を合わせるたびに煩かったのだが、ノルド公捕縛の知らせがようやく「孤島」賢者学院にまで届いたようである。意気消沈してくれて、なによりだ。

「でも、北王国と連携してって話が、単独になるだけかもしれないじゃない?」

ノルド公がなぜ傭兵を含めた軍備を整えていたかというと、王宮から北部遠征の軍を派兵する命を受ける予定であったからなのだ。その命令を逆手にとり、北王国と北部貴族が結託した遠征軍が南進し、ノルド公は北部に進軍すると見せかけそのまま西進し、迎撃のため軍を北上させていたリンデ周辺の空白地帯を痛撃し、女王を退位させる予定であったと推測される。

おそらくは、今は「寡婦」となっている北王国の女王の王配兼、連合王国の国王あるいは国王代理に就任して神国・リンデとの関係を強め自領の権益を高めるつもりであったのだろう。

それが、瓦解したとしても、北部諸侯らが南進する事自体は単独でも可能のままである。

賢者学院の中では『水派』が親密であり、担当地域としている北部貴族・諸領が北王国軍に呼応すれば、十分に女王の軍と対峙することができる。北王国と長年戦ってきた北部貴族の諸侯軍は、連合王国内でも有数の武威を誇る集団でもある。

未だに、鎧はメイル、槍はウイングド・スピアのような軽装騎士が主力であるのだが。その分、機動力や継続した戦闘能力は勝るだろう。

「この島はどうなるのでしょうか」

「表面上は中立を維持するでしょう。賢者の集団相手にこの海上の城塞に等しい学院を攻めて得る物もないでしょうから」

風派はそこまで女王を支持しているわけではない。王宮の主が変われば新たな王なり女王を支持する。土派は不干渉、水派は表立って何かする事はないだろうが、幾人かは「魔術師」として従軍させるかもしれない。それであれば、この島を攻める必要性は皆無だ。

賢者も会派は存在するものの、それはあくまでも自らの精霊魔術の研鑽の為の寄り合いに過ぎない。権力闘争を『内戦』に便乗して行う必要性も少ないだろう。

「そんなことより『ラ・クロス』だ!とか言いそうだよね」

「それは、そうなんですが」

賢者学院の主導権争いに内戦を利用するという事は考え難いと言って良い。

内戦の発生の有無にかかわらず、賢者学院においては『ラ・クロス』の対抗戦の結果が最重視されていると言って良い。

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領主館は、長期滞在に備えてすっかり彼女達により整えられていると言って良い。特に、食の内容に直結する調理場などについては、帝国のメインツに造ったアトリエ同様、魔石による調理器具や温水の供給できる浴室などを備え付けることにした。美容と健康に食事同様入浴も大切である。いつまでも若いと思って怠けてはいけないという、祖母の教訓の賜物でもある。

「お風呂、羨ましいです」

「折角ですから、私たちが滞在中は是非いらしてください」

「ありがたいねぇ」

クリノリ、芝居がかっていて若干うっとおしいが、悪い奴ではない。木組の学生寮は『最弱』故に、予算も貧弱。各学生の力が拮抗していれば、『ラ・クロス』の大会の結果で、各年毎に予算の増減はあれど、相応に資金が提供されるはずなのだが、万年『最弱』であることから、常に最低の予算に押し込められた結果、見事に無いない尽くしの学生寮と化している。

土の精霊会派は他にも『石』『草』とあることから、木組を避けられる傾向がここ何年も続いており、戦力不足はより顕著となっていると言える。悪循環である。

「今年こそ、俺達『最弱』が他の会派を打ち砕く!!」

「できると良いですねぇ」

「ですわぁ」

普通に考えたなら、何年も研鑽を重ねている『賢者学院』の在校生に、最弱+リリアルで勝てるはずがない。普通なら。

「練習あるのみね!!」

「……やるからには勝利しなければね」

「「ですよねぇ(ですわぁ)」」

彼女と伯姪は、勝利至上主義故に当然の命題でもある。

では、どのようにして勝利するか。

「それぞれの組の戦い方を知る必要があるでしょう」

「それね」

「ああ、当然だな。とはいえ、精霊の力を利用した戦術になるから、それなりに予想できるだろう?」

直接選手を攻撃するような魔術の行使は当然反則である。が、例えば、選手を拘束するように鍛錬場の地面に植物を育成し捕らえたり、その拘束を『火』の魔術で焼き払う事は問題ない。

あるいは、『風』の魔術で自身を加速したり、向かい風を起こして視界を妨害したり、あるいは、仕合球を水で弾いたりすることは許容範囲と見做される。

「地面を転がる球を草で拘束するのは?」

「問題ない」

「選手の視界を『霧』で塞ぐのは」

「全く問題ない」

「何でもありですね」

「そうだ。直接、魔術で攻撃するのは不可だが、球や地面に影響を与えたり、身体強化なんかは認められる」

地面を変化させ、相手を拘束するのはどうなのだろうか。例えば、落とし穴のように地面を突然陥没させるなどは。

「できるなら問題ない。試合開始後に行うならな。但し、その落ちた穴に選手を埋めるような術の行使は反則だ」

「反則以前に犯罪になりそうです」

「……そうよね……」

『おい。気をつけろよ』

うっかりやりかねない彼女である。

『ラ・クロス』が賢者学院に導入されてまだ十数年の歴史しかない。そもそも、新大陸の先住民の文化を紹介された事に端を発しているので当然であるとも言える。

それ以前にも、先日の「模擬戦」のような腕試しは存在したのだが、参加する人数と規模、その試合の遺恨が残る事を懸念して、より多人数が同時に参加でき、勝敗のわかりやすい『ラ・クロス』による対抗戦が毎年行われるようになったのだという。

「優勝候補はどこになるのかしら」

「勢い、火派が優勢だったんだが、あんたらとの模擬戦騒動で怪しくなって、さらに、最近はな」

火派の賢者は、精霊の加護持ちが少ない半面、魔力量に優れた「魔術師」に近い者が多かったこともあり、身体強化による継続戦闘に優れていた。傭兵稼業で鍛えた闘争心と、チームワークも他の会派を大きく凌いでいた。それが、ノルド公捕縛以降、運気が下がっているように見て取れる。勢いが全くなくなり、練習もあまりなされていない。

「風派はパスワークに定評があるし、風の精霊魔術で火派の次に身体能力の向上が上手い。水派は攪乱や陣取りが上手いな。球を持っている選手を上手く孤立させ、球を奪ってからの速攻に見るものがある。それに、持久力は恐らく一二を誇ると思うぞ」

力押しの火派、技と連携の風派、奇襲と速攻の水派といったところか。

「で、土派の石と草はどうなのよ」

「石は防御重視で、相手の魔力が覚束なる後半に勝負する戦い方が多い。堅実だが、その展開を外れるとまず勝てない。草は後半狙いは石組と似ているが、防御して耐えるのではなく、敢えて隙を見せて攻めさせ、魔力を枯渇させる方向だな。集中力が切れると、大量失点で負ける展開も少なくない」

土派は防御重視で相手に攻めさせた後に、後半勝負する展開を得意とするようだ。ただし、がちがちに守りを固める石組と、攻めさせてあえて隙を作り余計に消耗させることをねらう草組とは展開が少々異なるようだ。

「それで、あなた達はどうなのかしら」

「やはり、防御重視なのでしょうか」

「……普通に弱い」

「「「はああぁぁ!!」」」

何の説明もせず、クリノリは「弱い、ただただ弱い」と断言した。

「なにそれ、やる気あんの!!」

「ば、ばっかやろー 俺達だって万年金欠な状態が嬉しい分けねぇだろぉ!!」

「逆ギレ良くないですぅ」

「ですわぁ」

言い訳することは潔くないが、「弱い」だけでは説明になっていない。

彼女は再度説明を要求する。

クリノリ曰く、土の精霊魔術、特に「木」に干渉する彼らの魔術は、森の中のような場所で真価を発揮するのだという。木々を操作し、あるいは森に棲む獣や鳥を使役し、敵を先んじて発見し強襲する。

「俺達は野外での少数による戦いであれば、それなりに戦果が期待できる。けどよぉ! あの鍛錬場の原っぱじゃあ、何も出来ねえだろ!!」

「だから、逆ギレするなって言われてるでしょ!!」

「す、すまん。だが、俺達の魔術を試合で生かす事が出来ないんだよぉ」

「だそうですわぁ」

確かに、木を操作することは木が生えていなければできない……かもしれない。

「例えば、競技に使うクロスの素材にこだわるのはどうかしら」

網の部分を操作可能な「蔓」で編み、魔力で操作して間合いを変えるであるとか、杖自体も曲げたり操作することは可能かもしれない。

「既定の条件で作成した後、試合中魔術で変形させるのは反則ではないのではないかしら」

「で、でもよぉ」

「あとは、魔術の基礎能力を高める鍛錬をするしかないわ」

「どんなことだよ。俺たち、魔力量も『最弱』なんだぜ」

精霊の加護あるいは祝福の力の効果が最も高い土派の中でも、木々に影響を与える『木組』は加護持ちの数も多い。加護持ちは魔力量に依存しないでも十分に精霊魔術が行使できるため、魔力量を増やす必要性がない。結果として、魔力量が学院入学後あまり伸ばさないまま過ごす結果となっているのだという。

「身体強化とか、出来る限り長い時間発動させられた方がいいのにね」

「ええ。実際、冒険者稼業で不測の事態に陥った時に、最後にものをいうのは魔力ですもの」

「先生は最初から魔力です」

「ですわぁ」

大は小を兼ねる。大きい事は良い事だ。その方針の結果、リリアル生の魔力量はこの三年ほどの間で随分と底上げされている。魔力量が増えた分、生存確率も高くなると彼女は考えている。

「魔力を増やす為の取り組みが不足しているのではないかしら」

「……」

「沈黙を以って肯定と見做すってやつね。その「最弱」の根性を叩き直してあげるわ。組内の選手たちに伝えておきなさい。あ、おっさんになっても鍛錬しただけ効果はあるから。あと、魔力量が増えると、老化も進まなくなるわよ」

伯姪はクリノリのやや薄くなった頭頂部に視線を送る。彼はまだ若いながらも、少々怪しくなりつつある。

「本気でやらせていただきます」

「よろしい」

彼女に頭を下げるクリノリ。その下げた頭には、薄い……憂いがあった。

クリノリが領主館を退出した後、伯姪は彼女に問いただした。

「リリアルの手の内を見せるような真似はしないのよね」

『ラ・クロス』の試合において、リリアルで冒険者としてあるいは騎士として頻繁に使用する技術を用いることは、潜在的な敵勢力にその実力を知らしめることになりかねないと危惧しているのだ。

「問題ないわ」

彼女は断言する。

「ですが、先生」

「重ねて、問題ないわ」

珍しく茶目栗毛が苦言めいたことを言い出そうとする機先を制して、彼女は再度その懸念を否定する。

「実際に戦う事を前提とするならば、リリアルの実力を隠しておくことは利があると言えるでしょう。けれども、それ以前に私たちの存在が、容易に王国に付け入るスキを与えるものではないと考えさせる抑止力になると考えることもできるわ」

相手を過小評価することで、自分たちは容易に目標を達することができるとかんがえ安易に戦争を始めようとする輩がいる。二度のガレオン船接収や、王国内における反王家勢力の討伐を重ねたリリアルを未だ軽視する存在がいるとは思えないのだが、敢えて彼女は「賢者」たちに力を示す機会を上手く利用しようと考えていた。

この親善訪問が終わったのなら、リリアル領でゆっくりしたいのである。