作品タイトル不明
第308話 彼女は二期生とゴブリン討伐を見学する
第308話 彼女は二期生とゴブリン討伐を見学する
中央は伯姪と赤毛娘。その背後には黒目黒髪が、魔力を込めた煙玉を次々に洞窟の中に飛ばしている。
その左には、いつもの蒼髪ペア、右には茶目栗毛とその後方に赤目銀髪が弓を構える。
『右側薄くねぇか』
「ゴブリンならハンディでしょう。あの子の成長も確認しておきたいから」
居残り組は茶目栗毛に伯姪、赤毛娘と黒目黒髪。蒼髪ペアと赤目銀髪は彼女ともに帝国に潜入することになる。
「さあ、気合入れて行きましょう!」
「はい」
「ゴブリンはぁ!!……み・な・ご・ろ・しぃぃぃ!!」
「ま、魔力壁展開しまーす」
ゴブリンが逃げ散らないように、洞窟の前面に魔力の壁を形成する。その中に入っているのは、居残り組の四人。残りはフォローするつもりで待機中と言えるだろうか。
洞窟の中では、喚き声が鳴り響いており、外に飛び出してくるゴブリンが、一、二、三、沢山である。
伯姪はバックラーを左腕に構え突き出す。そこに向かい、飛び掛かってくるゴブリンを体を入換えて躱しながらファルシオンを叩き込む。魔力を通した魔銀製の曲剣はゴブリンの体を斜めに斬り落とし、そのまま背後のゴブリンへとバックラーを掲げる。
その横では、次々と目を血走らせ、鼻水と涎まみれとなって飛び出してくるゴブリンを、戦太鼓を叩くように小柄な赤毛娘が体の勢いのまま次々と叩きのめしていく。魔力量の増えた彼女の力任せの一撃で、次々と同じくらいの体格のゴブリンは洞窟の入口に向け吹き飛ばされていく。
その殴られた箇所を粉砕され、時に爆散させながらである。
『怖いなあのちっせぇの』
「すっかり姉さんのノリの影響を受けてるわね。まるで 狂戦士(berserk) のようね。少し心配だわ」
ムードメーカーからの進化した姿がベルゼルクとは少々育成方法を間違えた……いや歪められたかもしれない。が、その勢いに二期生もゴブリン達も慄いている。
洞窟前には既に十を超えるゴブリンの死体が転がっている。
『あいつはあくまでスタイルを変えないな』
「一人の方が生きるのよね」
茶目栗毛は暗殺者のスタイル、気配を隠蔽し赤毛娘の暴風の渦の如き動きに躊躇しているゴブリン達をチョンチョンと首を刎ねて行く。単独でもよし、チームに入ればなおよし。地道でありながら俯瞰する立ち位置で、フォローが効いている。
三人でガリガリとゴブリンの群れを削り倒すように討伐が進む。
「……大きいのでます……恐らくは三体!!」
「本命参上!!」
「ツッコむのは無しね。一人一匹ずつ公平にね」
「「了解!!」」
ホブとチャンピオン若しくは、ナイトとジェネラル。組織的に行動していないこと、ナイトは騎士の捕食が前提だが近年被害が出ていないことから、前者の組合せが想像できる。脳を喰って技を身に着けることがゴブリンには可能だと知り、騎士団は不用意な討伐を避けるようになったからだ。
GWOOOO!!!
空気を振動させる咆哮も、魔力壁で遮られ、二期生と彼女までは届かない。
「魔力壁解除。少し本当の討伐を見てもらいましょう。遠征組はフォローを。居残り組の四人で仕留めて貰いましょう」
「うへぇー! 頑張ります」
「で、できますよ当然」
「良く言ったわ、では早い者勝ちで、一人一匹ね」
赤毛娘の軽口に黒目黒髪が自信無さげに応え、伯姪が念を押す。既に、茶目栗毛は気配を消し、洞窟の出口近くに潜む。
出てきたゴブリンは、人の頭蓋骨を首飾りのように纏めている三体。中央のそれが、頭蓋骨の数も多く頭一つ大きい。
「デカいの貰います!!」
「あっ、任せたわよ」
出遅れた伯姪を尻目に、赤毛娘が一番の大物、オーガのような身体つきのチャンピオンと思しき個体に接近する。メイスを魔法袋にしまい、魔銀のサクスに持ち変える。一撃で倒せないと判断し、手数でダメージを積み重ねやすい魔銀剣に持ち替えたのだ。
Gwaaaaa!!
姿勢を低くした赤毛娘の頭の高さは、チャンピオンの膝程でしかない。手に持った棍棒を振り下ろすが当たる気配もない。足を振り回し蹴り上げようとすると、サクスがチャンピオンの膝裏を切り裂く。
独楽のように体を回転させ、膝の裏、足首と傷を与え動きが徐々に鈍くなるゴブリン。
GeeeeAaaaa!!
そして、偶然に蹴りが赤毛娘を捕らえたと思ったのだが、勝利を確信したチャンピオンの顔が苦痛に歪む。
『魔力壁張ったな』
「上手いものね。展開速度も速くなったわ」
複数展開ではない分、赤毛娘は一瞬で魔力壁を張り、敢えてチャンピオンに蹴らせることで膝にダメージを与えた。切り刻まれた足首と膝裏、そして痛めた膝のお陰で、動きを追いかける機動力をチャンピオンは失った。
「はあっ!!」
一瞬で武装をメイスに入換え、魔力を通し、チャンピオンの背中から首にかけてを滅多打ちにする。身体強化と魔力纏いを極限まで高めたその攻撃は二期生の目には何度叩きのめしたのか確認することも出来なかった。
『まじかよ』
「ええ、まじね。一瞬で八回は首と後頭部に打撃が入り、スピアヘッドが肺を貫いたわね。これでチャンピオンは終わり」
肺であれば呼吸困難で苦しむであろうし、心臓が動かなくなっても少しの間は体を動かすことができる。だがその前に、首の骨と脳の一部を破壊されたチャンピオンは倒れる他なかった。
「マジかよあいつ……でございますお嬢様」
「……凄いわね……」
チャンピオンを自力で討伐することが十三歳の彼女にはできなかった。一対一でもなく、村を守るための手段として橋から叩き落としたのだが、それでもできなかったことを十一歳の赤毛娘は成し遂げたのだ。
「素直に感心したわ」
『感心している間に、終わったぞ他の二人も』
相手がホブゴブリン程度では伯姪たちの敵ではなく、本命は赤毛娘の倒したチャンピオンであったのだから当然だろう。
二期生たちが氷の彫像のように固まっているのに気が付き彼女は止めを刺すように声をかけたのである。
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孤児生活の長かった者たちは、サクサクと首を斬り、討伐証明である耳を斬り落としていくことに躊躇が無かった。反面、孤児になって日が浅い者は戸惑い、忌避感を顔に出していたのは対照的であった。
「チャンピオンは回収するわよね」
「ギルドに報告かしらね。それと騎士団にも報告をしましょう」
「じゃあ、討伐した人が担当ね!!」
赤毛娘は「やっぱりですかぁうへぇー」と声に出しているが、黒目黒髪が手伝ってくれると声を掛けられ途端に明るい口調になった。
「チャンピオンは珍しい個体だから、二期生は近くでよく見ておくことね。ホブゴブリンも中堅冒険者位の腕はあるのだから、装備が良ければ苦戦は必至よ」
「……でも、さくっと倒してたね」
銀目黒髪『アルジャン』の言葉に二期生達が頷く。
「それはそうだよね。私たち冒険者としては中堅より上だもん」
「薄赤等級だと、指名依頼とか受けられるよね。一流の入口位だよね」
「実際、竜討伐に参加したり、食屍鬼討伐しまくってるんだから、実力的にはそれ以上なんだろうぜ」
「あまり自慢しない。弱く見えるから」
赤毛娘と黒目黒髪の言葉に青目蒼髪が乗っかると、赤目銀髪にぴしゃりと否定される。思えば皆、実力者になった者だと彼女は感慨深い。
この子達も一年、二年と経験を重ねれば……一期生の経験には及ばないだろうが、実力と自信を深めることができるだろう。但し、一期生と同じ時間では同じ実力には届かないだろうと彼女も思っている。
「先ずは、魔物に驚かないように、自分の為すべき事を為せるようになりましょう。それに、一朝一夕に実力は手に入らないのだから、できない事を見て落ち込むよりは、できる事を確認し、次にできそうな事を明確にすることが大切だと思うわ」
二期生達が一期生と自分たちを比較するのはあまり意味がない。将来像として見る程度で十分なのだ。それに、実際の魔物との対峙の仕方、仕掛け方を観察し自分でできるイメージを持つことが今回の課題とも言える。
それが分かるのは半年後か一年後か分からないが、時間がかかることは間違いない。
「ゴブリンは殺せるから良い」
「アンデッドは簡単に死なないからね。首を刎ねるか頭を叩き潰すしかない。痛みも感じないから、多少のダメージだと襲い掛かられるし。生きている魔物はやっぱいいよね」
赤目銀髪と赤毛娘の会話を聞きつつ、二期生は「今日は楽なんだ」と顔を強張らせるのである。
ゴブリンの潜んでいた洞窟は塞いだ方が良いのだろう。が、ここに来れば何度でもゴブリン討伐ができるようなスポットになるつつある気がする。ワスティンの森の魔物討伐は広範囲に行わねばならないだろうし、今すぐリリアルだけで行うにも無理があるだろう。
「たまにきて様子を確認するってところかしら」
「騎士学校で魔物討伐演習先にしてもらえばいいんじゃない?」
伯姪の言葉に彼女も「それだ!」と内心賛同する。今期の演習先にワスティンの周辺での魔物駆除をカリキュラムに加えるように騎士団に申し入れする事にしたいと思う。
「私たちの遠征は空前絶後の内容だったでしょうから、後輩には多少頑張ってもらわないと力の差がはっきりしてしまうじゃない」
「演習中に死亡事故でも起これば問題だから、リリアルで斥候を引き受けるくらいは応援してあげたいわね」
「それじゃあ、その件は残留組の課題という事にしてもらえるかな」
「うええぇぇぇ」
「いいじゃない、見つけるだけだもの。素材採取に来たついでに何人かで偵察すればいいんだから」
赤毛娘、意外と逃げ腰である。斥候は伯姪と茶目栗毛の担当になるだろうか。後はワン太も連れてきてもいいだろう。
「では、一度王都の冒険者ギルドに報告に向かいます。二期生は素材採取とゴブリンの討伐部位証明を提出することになるので、同行を。一期生はリリアルで別れましょう」
「「「「はい、お疲れさまでした!!」」」」
「「「「……お疲れさまでした……」」」」
久しぶりの討伐で体を動かして元気の出ている一期生と、精根尽きた二期生の反応は対称的なのだが、彼女は予定を変えるつもりは全くなかったのである。
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王都の冒険者ギルド、薬草の素材採取と常時依頼のゴブリンの討伐を二期生がそれぞれ窓口で報告を行っている間、彼女と伯姪はギルドマスターに、ゴブリンが潜む洞窟に再びチャンピオンが発生していたことを報告する。
「……またもやチャンピオンを含む大きな群れがいたというのか」
「先日カリナ達と討伐してから半年もたっていないので、偶然発生したというのは少々おかしい気がします」
チャンピオンの率いる群れを育成している存在について言及する。
「運河の掘削工事を進める前に、ワスティンの森全体の魔物排除を計画的に行う必要があります」
「……リリアルの冒険者では不可能だろうか」
「難しいです。ゴブリンは数がいますし、ワスティンの森は広大です。十人程度では狩り切れません」
彼女は、騎士団に『騎士学校の討伐演習をワスティンで行うように提案する』ということを伝える。
「それも一つの方法か」
「依頼人には、現状の報告を冒険者ギルドからしていただいた上で、王国に働きかけることを進めてはいかがでしょうか」
「……そうだな。冒険者が向かえば、向かっただけ未帰還になりそうな場所になりつつあるようだからな。それは対応する」
依頼を受けないというわけには行かないギルドの事情があるだろうが、冒険者として中堅まで育ったパーティーをワスティンで損耗するのは王国にとっても冒険者ギルドにとっても損失につながる。もはや、ワスティンの森のゴブリンの発生は、人為的な物の可能性があり軍や騎士団を投入してその工作に対応する規模に至っているというのがこの場での判断になるだろう。
「最終的には、騎士団を始めとする王国の治安を守る方達の判断になるのでしょう」
リリアルにまた仕事が振られる可能性もあるが、彼女を含めた戦力の半分は帝国に向かう予定だ。しかし、それをこの場で話す事も、また王国の防衛の責任者達以外が知る事もあってはならないだろう。
「いずれにしても、ワスティンの森は要警戒対象です。冒険者だけではなく依頼を受ける際も、依頼人にその旨を必ずお伝えください」
「そうだな。いや、その通りだ。ゴブリンに脳を喰われる冒険者を増やすなんてギルドとしても避けなければならないからな」
三年前、失踪した騎士団の先遣隊、そして、斥候のはずが功を焦った故に全滅した魔騎士の一団のことは既に風化し掛かっている。騎士達はともかく、平和になった王都近郊で活動する冒険者には、その当時冒険者でなかったか、見習レベルであったものも相当数いるだろう。
「では、よろしくお願いします」
彼女は頭を下げ、伯姪と共にギルドの受付で待つ二期生達の元に戻る事にした。
受付に戻ると、二期生達に絡む冒険者たちがいた話を聞いたのだが、リリアル生であり彼女が奥にいると聞いて、ものすごい勢いで謝罪すると、風のように立ち去ったという話を聞く。そして、ゴブリン討伐以上に彼女が尊敬されたのは言うまでもない。
『王都の冒険者ゴブリン以下かよ』という魔剣の呟きに、ワスティンで何か事件が起こらねば良いと懸念を感じるのである。