作品タイトル不明
第309話 彼女は灰色乙女に帝国行を打診する
第309話 彼女は灰色乙女に帝国行を打診する
二期生は全員、冒険者等級が『薄白』から『濃白』に昇格していた。リリアルゆえの優遇措置という面もあるが、冒険者として活動できるかどうかの信用度を計るための依頼達成の可否と考えると、リリアル生が逃げることは考えられないのだから、特別扱いも当然であると言えるだろう。
「私は最初から濃白スタートだったから、同じようなものではないかしら」
「……なんかズルい気がするのだ」
茶目灰髪『ターニャ』のツッコミを受け流し、彼女は帝国遠征の話を進める事にした。既に商品に関しては姉が手配済みであり、ラベルもルリリア商会と分かるデザインで刷り上がっている。
「サンプルってこれなのよね」
「そう。剣と百合という組み合わせは王国らしくて良いと思うわ」
「帝国でこれを堂々と販売するってやっぱり強いわね」
伯姪が彼女のことを改めて『強キャラ』扱いするのは少々思うところがあるが、彼女の考えはいたってシンプルだ。
「調べられたときに、子爵家とニース商会の線は隠せないでしょう。であれば、最初から王国の特別な商品を扱う商会であるとアピールする方が、相手の反応も得やすいと思うのよ」
「隠せないくらいなら、最初からアピールしようと思える自信が素直に驚くところではあるわね」
彼女自身はリリアル男爵であるという事を隠すつもりであるし、商人とその護衛の冒険者として帝国には入る。そして、帝国内のオリヴィのコネクションを伝って、貴族と取引をする中で『伯爵』が吸血鬼ではないかと考えている者たちと接点を作る。
出来れば、相手から攻撃してくれるのが一番有り難い。二三度返り討ちにすれば、黒幕が登場するだろう。彼女の中では、自身が後れを取るという可能性を全く感じていなかった。
『あの女魔術師がどの程度信用できるかだな』
「あの人には王国と敵対する理由がないのだから、気にしないでも大丈夫だと思うのだけれど」
『それは頭の隅っこに置いておくべきだろう。完全に安心できるほど、あの二人のこと俺らは知らないからな』
姉も懇意にしているのは、裏を取っているからだと彼女は考えている。今のところ不審な点に関して、姉からの注意喚起もなく調子よく遊んでいる……仕事の話をしているようなので問題はないだろうか。
「一旦、王都で別れてメインツで合流するのか、他の場所で合流するのか確認しなければね」
数日で商品の初回分の準備が終了する事を考えると、帝国に向け出発することはそう先の話ではないのである。
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「中々素敵なラベルですね」
「高級感があって、量も適切だと思うわ。多すぎるのも少なすぎるのも良くないから」
「でしょ!! まあ、ほとんどうちのスタッフ任せなんだけど、妹ちゃんの好みに仕上がっていると思うんだよね」
子爵家に集まる姉とオリヴィとビルと彼女。商会頭である母は、商品を見てニコニコしている。
「久しぶりに社交に出ようかと思うのよね。商会の商品を紹介しないとね」
「……お母さん、ダジャレかな……」
姉が流さなかったので微妙な空気になるのは否めない。母も久しぶりに社交界でアピールするべきものを得て、張り切っているのである。姉程ではないが、母は父の為に社交に励んでいた時期があり、それなりの能力を持っている。
「一度、王妃様に商品をもってご挨拶するのよね」
「アポイントは取ってあるから、私とお母さんと妹ちゃん、次いでにヴィーちゃんも会わせようかと思うんだよね。ビル君はだめだよ。王妃様にイケメンを会わせると陛下が後で煩いから。リリアルで立ち合いにでも付き合ってあげていて」
「はい。正直助かります」
帝国の冒険者が王国の王家の人間と関係をもつのはあらぬ疑いを持たれかねないので遠慮したいのは理解できる。女魔術師は姉同様、好奇心の強いタイプのようで、恐らくネコを殺すことになるだろう。
「じゃあ、王家に献上用の準備をして、みんなで行こうか」
「馬車は子爵家ので行くのよね」
「ええぇ、ルリリア商会の馬車ではないのかしら」
「ルリリアのは荷馬車よ母さん」
「……嘘……」
母の野望は脆くも崩れ去ったのである。
帝国に向かう為の時間も余り残されていないという事もあり、王妃様は直ぐにお会いするとのご連絡を頂いた。参内するのは彼女と姉、母にオリヴィの四人である。既に、献上する蒸留酒と香水は王妃様の元に届いている。その感想も伺いたかったという、ある意味商談会的な面談でもあった。
「久しぶりですね」
「ご無沙汰しております王妃殿下」
「あらあら、今日は随分と黒髪の女性が揃ったわね」
「本当ですわぁ」
目の前には子爵家の姉妹とオリヴィ。母である子爵夫人は直系ではないので、娘たちとは異なる、茶色い髪に薄い緑ががった灰色の瞳である。これはこれで、珍しいのだが。
「殿下方、紹介させていただきます。帝国の冒険者であるオリヴィ=ラウスです。今、リリアルの客として王国に滞在しております」
「始めまして、王妃様、王女様。オリヴィ=ラウスでございます」
「ふふ、素敵ね。これぞ『魔女』という感じかしら」
王妃様的には、ローブ姿の女性が珍しく『魔女』と呼びたいようである。今日は流石に三角帽子は被ってはいないが、光沢のあるビロードの黒地のローブで、ワンピースのように見えなくもない。
「素敵な織物ですわ」
「恐れ入ります」
王女殿下も既にローティーンとなり、大騒ぎこそしないもののオリヴィの存在には興味津々でもある。
「最初に、難しい話をしてしまいましょうか」
ルリリア商会の商品に関して、王妃様からの提案があるのだという。
「……王妃様御用達……ですか」
「そう。王家となると、権利の関係で少々難しいのよぉ~ でも、私が個人的に愛用しお勧めするという意味を込めて、王妃の紋章の使用を許可しようかと思うの」
王室の方には、王家の紋章の他に、それぞれ個人的な紋章が用意されている。王の配偶者として、王妃殿下もお持ちなのだ。
「それをね、ラベルにこう……ペロッと入れるのはどうかしらぁ~」
「素敵ですわぁ」
王女殿下の言葉には何の裏もないのだが、王妃様の言葉には裏がある。当然、利益の配当を必要とされるのだ。製造する数に合わせて、一定の額を王妃様に収める事になるだろう。
彼女は元々、ルリリア商会の利益を商品の供給先である姉、商会頭の母、営業の彼女自身で案分するつもりであったので、ここに王妃様が加わる事自体は問題がない。その分、売値を嵩上げし名前の利用料分を回収すれば良いだけなのだ。
「では、配当を母と私と姉と王妃様で四等分するということではいかがでしょうか」
「そんなに頂いてよろしいのかしら?」
彼女の提案に、王妃様も悪くない反応のように見える。すかさず、姉と母が話を詰めてくる。
「勿論です! この香りを身に纏うということは、王妃殿下に忠誠を誓うことでもありますし、この蒸留酒を飲む事も、王妃殿下の忠実なる僕である証左になりますから」
「夜会にはこの蒸留酒があるかどうか確認することから、始まりそうですもの。王妃様のお力添え、心から感謝いたしますわ」
と、四人があっという間に悪巧みを完成させ、横で聞いている王女様とオリヴィは驚いた雰囲気を漂わせている。
「これを帝国に持ち込むというのも、勇気がいるわね」
「威力偵察の範囲ですもの。刺激を求めて、そういう連中が接触してくる可能性も高まるというものよ」
「それはありだよね。まあ、妹ちゃんからすれば、たいして危険だと思ってないんでしょ?」
確かにその通りなのだが、姉に指摘されると少々面映ゆい。リリアルの同行組の安全確保の方が心配でもある。
「帝国に向かうのねぇ」
「受けて立つにも限界がありますので。少し、様子を見てこようかと思っております」
「オリヴィちゃんがガイドしてくれるんだよね?」
「そうですね。折角ですから、面白いところを見て回って頂こうかと思っております」
オリヴィとビルの二人では難しい場所に、彼女たち一行を連れて行くという事だろうか。帝国内で知名度も実力も高い冒険者である灰色乙女には、警戒している存在も多いのだ。
「帝国のお土産楽しみにしているわぁ」
王妃様が意味深に彼女たちの話に耳を傾けていた。
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王妃様から「社交の場にも出ていらっしゃい」と、商売絡みで王妃様の主催する夜会への招待を受ける事になる母と姉は、「親子でコーディネートしないと!」と張り切り始めた。最近思うのだが、母と姉の性格はかなりよく似ている。祖母を苦手とするところも共通。
「王妃様の紋章入りのラベルに差し替えるのにどのくらいかかりそうかしら?」
「うーん、二週間……十日くらいかな」
「では、それが完成しだい、旅立つことにするわ」
「任せておきなさい。オリヴィちゃんも妹ちゃんをよろしくね☆」
帝国に姉が付いてきそうな勢いであったが、「ニース商会の顔」としてかなり顔が知れ渡っている存在が同行することで大いに目立ち、また警戒されてしまう。彼女の知らないところで姉は姉の計画があるようで、「今回は見送りだぁ」と一応の納得はしている。
出発までの期間が少し伸びたことで、リリアルで行う仕事も少し増やすことができた。
老土夫に呼ばれた彼女が工房に向かうと、新しい魔装短銃が用意されていた。今までのものとの相違は、銃身が魔銀の合金で作られていることである。
「これは……相当大変であったのではありませんか」
彼女の推測に、癖毛と老土夫が頷く。
「しかし、リリアルの盟主が帝国に自ら赴くのに、護身用の装備も整えねばならんだろう。今回は短期間かもしれんが、今後は分からん」
「そうそう。みんな心配してんだぜ。先生の事は信用しているけど、でも不死身ってわけじゃねえからな。その気持ちをこの銃に込めたって感じだ。餞別代りに持って行って欲しいってこと」
「……ちゃんと帰って来るわよ。縁起でもない」
いや、そういう意味ではなく、皆の心配する気持ちを汲んでもらいたい。
「この銃身が魔銀と鋼の合金だ。強度は剣より高めている。魔力を通しても通さなくても発砲できるが、通せば火薬を増やしたのと同じ効果がある。ダメージも大きくなるな」
火薬を多くすることで爆発力を高め威力を増すことができるが、その分、本来は銃身に負担がかかり寿命を縮めたり暴発の危険も高まるのだが、魔装銃はその限りではない。
「装飾部分に魔銀鍍金を施してあるから、これに魔力を通して殴ると、魔銀製メイスみたいな効果もある。アンデッド対策になると思う」
「実験しましょうか」
「……いや、一応あの吸血鬼たちで試した。先生がやると死んじまうから、やめて上げてくれ」
「そう……残念だわ……」
魔銀製ゆえに、鈍い光り方をしているのだが、それはそれでよいと思うのだ。
帝国に潜入するにあたり、装備を整えなおす必要も少しある。
「サクスやウイングド・スピアだと帝国では目立っちまう」
老土夫曰く、剣であれば『ハンター』と呼ばれる護拳のついた片手剣の系統が良いだろうという。
「魔銀製の刃に変えたものを装備すれば問題なかろう。所謂、街用の剣だが、拵えを少し重厚にする」
「どっちかって言うと、 ワルーン(Wallon) ・ ソード(Sword) に近い感じに仕上げるつもり。片手剣だけど刺突も斬撃もできる感じに」
それを五人分、揃えてもらう事にしようとか彼女は考えた。
「それと、バゼラードの短剣も魔銀製を用意する。こっちは鍍金だ。数は、それなりに多めに持たせるので、上手く使ってくれ」
「ありがとう。きっと役に立つと思うわ」
魔銀のバゼラードを使って石垣でも破壊するつもりなのだろうか。魔力を通して斬り裂けば、その程度の事は彼女にはできそうである。
「その他は、使い込んだ革手袋とか革鎧、それと長靴は今までの物を使う感じだろ」
「坊主、マントを忘れておる。帝国は寒いからな」
野営の際の毛布代わりになりように、厚手の毛織物……に見えて、内側にポケットが沢山つき、尚且つ魔装布を挟み込んだマントを渡される。見た目に反して、その着心地が良いのは魔装布の効果かも知れない。
「これを纏って寝ておけば、魔力持ちなら剣や銃弾の攻撃は防げる。
不燃ではないが、魔力がある間は燃えもせん」
燃えもしないという事だが、水も弾くのだろう。このマントをあと二つ追加で用意してもらいたいことを二人に告げる。当然、オリヴィとビルの分だ。
「ああ、勿論用意してある。そいつは、餞別みたいなもんだ」
魔装のマントの他に、手袋と頭巾、オリヴィにはコルセットも用意してあるという。
「急がせて申し訳ないのだけれど、お願いします」
「おお、任せておけ」
「バッチリ用意する」
暫く、工房ともお別れになる。帝国で長柄の武器というと何が流行りなのか。恐らくは、ハルバードなのだろうと見当をつける。これも、魔銀鍍金製で良いので、用意しなければと思うのである。