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作品タイトル不明

第998話 彼女はワスティンの森を掃除する

第998話 彼女はワスティンの森を掃除する

『聖霊騎士団』の発足と顧問・幹部の選任。騎士団構成員は、全て王太子=騎士団総長の専任事項となっている。誰を騎士にし,誰を幹部とし、あるいは退任させるかは、王太子の判断のみで決定する。

王太子の側近として、騎士団員は行動することを前提に選抜されると言い換えても良い。連合王国の青帯騎士団などは、リンデの市幹部や大貴族・軍幹部、あるいは議会の元老が選ばれており、政治顧問団のような存在でもある。名誉職でもあり、海都国でいえば十三人委員会のような存在であると言えばいいだろう。

今後、王太子が国王となり親政を行うのであれば、手足となる存在が

この聖霊騎士団ということになる。今は加えられていないが、王都や

南都の市議会幹部などもそこに参列する可能性はある。

「……あれは、父だわ」

第二部が始まる前、百名の騎士団叙任の構成員の中に、彼女の父親の姿が見える。王都の管理人、王太子領の代理総督に内定しているのであるから、王太子の側近集団・聖霊騎士団員に叙任されてもおかしくはない。むしろ当然。

リリアル三期生年少組(十歳)と四十過ぎの彼女の父親が同格というのはどうかと思わないでもない。いや、未来には優れた官吏か軍人に俺たちはなる!!

彼女の背後には、ずらりとリリアル生が並んでいる。三分の一はリリアル生。サラセン遠征の論功行賞が含められているとはいえ、これでよいのかと思わないでもない。

「嵩増し要員なのかもね」

伯姪の呟きが意外と正鵠を射ているのかもしれない。

カエル殿下の背後には、ギュイス公とその子息が「ご近所様」として立っている。大貴族をあえて排除するのは、今の時点で得策ではないということだろう。モラン公の背後にはどこかで見た「軽騎兵隊長」。五男坊だけでなく、次期モラン公長男フラン、ロマンデ総督の次男エンリ、近衛連隊幹部の四男シャルがいる。

モラン公家の王国、特に軍畑での威勢は非常に大きい。王太子の権力の支柱として、近衛連隊は大きな力を持っている。その周辺には彼女も顔を見知っている、近衛騎士団・王国騎士団の幹部の面々が立っている。

ベテランから中堅が多く、リリアル生の親世代が騎士団組には多い。王太子の背後を固める者たちであり、国王・王宮のお目付け要員といった立場なのだろう。

騎士叙任は速やかに終了。人数も多いので、名前を読み上げた上でせーので終わり『聖霊騎士団員』を示す『記章』を与えられた。後日、身分を示すローブ・マント・ケープなど一式が贈られるという。

三期生の大部分と女性たちはダブダブになりかねないので、受領したのち、補正も必要となるだろう。

因みに、王太子は総長としてすべて身につけた状態で叙任式に臨んでおり、黒地に金の精緻な刺繍が施された枢機卿の如きローブを身に着けていた。『聖』霊騎士団であり、顧問に王国の御神子教の高位聖職者を招いているのであるから、宗教的側面も強いのだろうと理解する。

「聖エゼルの記章に似ていましたね」

「マルス十字がベースのデザインね」

三角の頂点を十字に重ねたようなデザインのマルス十字。その形に様々な大小の魔水晶で飾り付けているのが「総長」の記章であった。幹部はそれよりも飾りが少なく、平団員は魔銀製の記章となる。全魔銀なので、それだけでも相当高価なものであるとわかる。

「これ、魔力通すと、武器になりますね」

「身に着けてよければ、帯剣できない場所でも使える」

「……それは、そうかもですけど……」

魔銀製=武器として使えるかと直ぐ考える脳筋前衛組の反応に、少々ドン引きする黒目黒髪。使うなよ!!振りじゃないからな!!

わちゃわちゃする三期生たちを遠目に見つつ、リリアル生は最後の退場となりそうだと彼女は周囲を見回す。既に王太子や他の幹部は回廊を出ているのだが、彼女は「引率」としてリリアル生たちと共に退出するつもりなのだ。

「リリアル公爵、話をしてもよろしいか」

話しかけてきたのはブルグント公。当然、大貴族として聖霊騎士団員となっている。

「この場の方がよろしいでしょうか」

「……いや。君の仮役宅で話をしたい」

「承知しました」

『仮役宅』とは新王太子宮へ王太子が引っ越した際、旧修道騎士団本部の王太子宮の敷地を二分し、王太子宮をリリアル公爵の王都邸として譲られることとなったからだ。公爵が指揮することになる新設の中隊規模の兵舎もその近くに建てられる。

元納骨堂の跡地に。バンシーが守ってくれるから、夜でも安心。

(安心できるとは限らない)

一先ず彼女と伯姪、そしてマリーヌと灰目藍髪は、再び魔導船に乗りリリアル生たちとは別に王都へと戻るのであった。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

リリアル公爵王都邸へと移動すると、しばらくしてブルグント公とヌーベ領駐留の王国騎士団の幹部が数人現れた。

『ヌーベ絡みか』

「さあね。面倒でなければ良いのだけれど」

『魔剣』の予想通り、旧ヌーベ領からワスティンの森に潜む魔物や野盗の類を排除したいという相談であった。

「ブルグント領からヌーベに至る街道はブルグント領軍が掃討する」

「旧ヌーベ領で討伐しきれず、ワスティンの森に逃げ込む魔物や野盗をリリアル閣下の手で排除していただくことになります」

タイミングを合わせて三方から包囲しなければ、ワスティンの森を隠れ蓑に魔物や野盗が北に南に移動して逃れていまう。それを逃さないため、時期を合わせての討伐を行いたいということなのだ。彼女にとっても願ったり叶ったりであるが、ブルグント領軍・王国騎士団と比べると、リリアル勢はデルタの民や冒険者ギルドを通して人を借り受けたとしても二百程度。森全体をどうこうするには心もとない。

『あー あいつらを動員すればいいんじゃねぇか』

『魔剣』は中等孤児院の兵士・衛兵希望の者たちを実習名目で借り受け、その上に、リリアル一期生の四つの部隊を士官として配置すればよいのではないかというのである。

『隼鷹隊』『水瓶隊』『馳鴉隊』『灰被隊』の四部隊に、それぞれ二十名ほどの中等孤児院の生徒を当てる。遠征の間は交流がなかったが、それでも、王都城塞の警備などで年長の者はリリアル生と交流がある。同じ釜のパンを食べた仲でもある。当てにしてよいだろう。

デルタの民、冒険者、中等孤児院衛兵組にリリアル生。総勢で四百人ほどとなる。リリアル生の魔力持ちたちは魔力走査で、魔物の出現も居場所特定も可能であるから、そうそう、不意を打たれる可能性もない。

「準備に二週間ほどいただけますでしょうか」

「勿論だ。こちらも直ぐに体制が整うわけではないからな」

「王国騎士団も兵士の予備人員の動員や騎士の移動にそのくらいの準備期間を頂けるのは正直有難い」

ということで、ワスティンの森浄化作戦は、二週間後開始される運びとなる。

「セバスさん!! やれます!! できるんです!!」

「セバス、無理・できないは嘘吐きの言葉」

「オイラ嘘吐きだから、別にいいんだよぉ!!」

歩人はヌーベから元盗賊村・避難村跡地に向け街道を整備していた。二週間で支度しな!!

ヌーベ・ブルグント・リリアルの三領協同の魔物・賊徒討伐。ワスティンの開拓と領内の通称炉の安全確保の為に、ぜひとも成功させたい。その為、街道の見通しと安全性を高める為に、新規の街道には一工夫加えることにしていた。

馬車二台がすれ違える道幅の街道でありながら、周囲から1mほど高く見通しが良くなるように『堤』上に敷設していく。また、街道の両サイドは幅2mほど1mの深さで開削し、空堀としておく。

街道自体がリリアル領を区切る「防塁」となり、外部からの侵入を防ぐとともに、ワスティンの森から逃げ出す魔物・賊徒の類を足止めする柵として機能させることを狙っている。

馬が暴走すれば、空堀へ荷馬車が落ちる危険性はあるが、人が歩くほどの速度で本来荷馬車は移動するのであるから、そこまで危険とは言えない。

「この辺りで休息エリアへ降りるアプローチを作って頂戴」

「荷馬車が登れなくならないようになだらかな傾斜にするのよ」

「わかってまーす、でございます、ご領主様!!」

街道上で休息させるわけにもいかない。とはいえ、何か所も休憩場所を設けるのもよろしくないので、警邏兵の集合場所兼野営地として二か所ほど街道から降りられるスロープと広場を開削しておくこととしている。

開拓村が発展すれば、こうした休息地に臨時の市場などが開かれ、商人と近隣農民が商品と作物を交換するようになるのであろうか。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

二週間ののち、なんとか街道型防塁を歩人が死に物狂いで完成させ、魔物賊徒討伐の実施日を迎えることができた。

「セバスさん、最後の方顔が土気色でした!!」

「ポーション飲むのは甘え」

「土木系魔術師だから、顔が土気色なのはその証拠!!」

「た、多分違うと思うよぉ」

歩人の尊い犠牲で、今回の討伐に何とかこぎつけられたということだろう。

「さあ、推して参りましょうか」

「「「おう!!」」」

領都側を彼女を指揮官とする『馳鴉隊』『灰被隊』に中等孤児院衛兵科の見習四十名が各隊二十名ずつ分かれて「勢子」の役割を果たす。長槍を構え、十人ずつ一列に並んで「槍衾」の壁を作り、魔物や賊をじりじりと圧迫する。簡素な革の兜に板金の胸当、革の小手と脛当をつけている。リリアルの冒険者初期装備より胸当が板金である分多少ましといったところか。

「皆張り切っているわね」

「最初だけですよ」

「疲れてからが本番」

大人数で押し進むのは、相手が反撃に出てくる前に逃げ出すことを期待してということもある。まずは、『ビト街道』まで魔物や害獣、あるいは賊を押し出す事から始まる。

「指揮は任せた」

「えー」

馳烏隊の長は赤目銀髪なのだが、村長の孫娘に指揮権を丸投げして先行して走り出した。赤目銀髪以外は全員魔装銃兵。槍兵が抑えたところを背後からズドンとする役割分担。

「あー あたしも」

「だ、だめだよ!! 灰被隊副長なんだから!!」

灰被隊の長は黒目黒髪。魔力は巨大だが、戦いは苦手。いざとなれば魔力壁で「動く城塞」を形成する能力はあるが、戦闘力は皆無。なので、赤毛娘が護衛についているというわけだ。絶対離さん!!

「先生、私も索敵に先行します」

茶目栗毛も赤目銀髪と対になる方向へと姿を消す。左右に分かれ、鶴翼のように展開し、こちらの正面に追い込むように動くのだろう。

『もう、大物は残ってねぇだろうしな』

「それもそうね」

ゴブリンの王や巨大な魔獣の類もいれば既に気が付き討伐している。開拓村のデルタの民らも、自営を兼ねて周辺の魔物や狼の類を討伐していると報告を受けている。

なので、今回は仕上げということになるのだろう。学院側のシャンパーに向かう街道沿いは伯姪を指揮官に、三期生十六名と『隼鷹隊』『水瓶隊』中等孤児院衛兵科の見習四十名が展開している。

三期生が勢子役で追い込み、前衛の壁役を見習が務め、二隊の魔装銃兵が止めを刺すことになるのだろう。

中央には『避難村』を中心に、デルタ兵二百が五組四十人毎に分かれ、街道の左右を広く掃討することになっている。ワスティンの森の最深部はモルブ山と呼ばれる深い森と湖を有する山岳地帯となる。ブルグント領との境目ではあるが、街道防塁があることから、その先はある程度掃討すれば定期的に討伐演習を行い、駆除を続けることで収めようと考えている。

全てを討伐するには、時間も人でも不十分だ。今回は街道の北側・領都とヌーベからリリアル領を抜ける「防塁街道(ビト街道)」を完全に討伐することで良しとすることにした。

急速に仕上げた「ビト街道」の効果もあり、賊は逃げきれないと判断して投降するもの、接近に気が付き姿をくらませるものが大半で、手向かってくる者は皆無であった。訓練ではともかく、実際に槍で人を突き殺すほど、腹の座っていなかった見習兵はホッとするものが大半であったが、一部のお調子者は悔しがっていた。

その者たちは、賊とは異なり棍棒やボロボロの剣やナイフを手に突撃してくるゴブリンには大いに腰が引け、口ほどもなく混乱する姿を見せた。反面、大口を叩かず肩を並べ、槍で壁を作り牽制し、隙をついて手足を傷つける者はよく訓練をしている者であったとか。

「大口叩いている奴らは、見込み薄ですね先生」

「反省して、次に生かせばいいわ」

「そうそう。ま、兵士や衛兵の仕事は地味で退屈、真面目を絵にかいたような人でないと務まらないんですぅ? 訓練、厳しくすれば嫌でも真面目になるから。問題ないんですよぉ」

赤毛娘が駄目だししたものの、彼女はこれも経験だと評価したものの、碧目金髪は「扱き倒せば皆真面目君になるから問題ない」とばかりに笑顔を浮かべる。この辺り、騎士団や近衛連隊に入れば、考える余裕もないくらい扱かれるので、改善されることだろう。

所詮学校の訓練は技術や心構えを身に着けるものでしかなく、実戦を想定した訓練程、厳しくはない。

ゴブリンとはいえ、自分を殺す気で向かってくる敵を初めて目にして、その殺意に身がすくむのも経験と言えば経験である。

因みに、ゴブリンの突撃は「止まって!!」と叫んだ黒目黒髪の魔力壁で止められ、動きが止まった隙に魔力壁を解除。「今!!」と彼女が叫んで、槍衾が動いてあっけなく討伐されていくのであった。