軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第961話 彼女は爺のおねだりを断る

第961話 彼女は爺のおねだりを断る

「魔導船欲しいのぉ」

「……魔力持ちが相当必要ですが、あてはあるのでしょうか」

「……ない。あるわけがない……」

自信満々に言い切るバス爺こと総司令官『バステア・ニエル』。水と森に恵まれている王国においては、多くの精霊がいたこともあり、魔力持ち・恩恵持ちが相対的に多い。

これは、連合王国・帝国・法国北部において似たような傾向があるのだが、反対に、水と森に恵まれない国では魔力持ちが相対的に少ない。例えば、神国が国土を回復するに至った起点は、北部の自然豊かな山岳地帯を本拠にする騎士団が中核となっている。王族・貴族も同様だ。

翻って、干潟の上の埋め立て地・島を本拠地として代を重ねてきた海都国の民には、魔力持ち・恩恵持ちが相対的に少ない。その根源が精霊の影響であるのだから当然かもしれない。

サラセン人も同様に魔力もち、加護持ちが少ない。故に、元御神子教徒の子供を奴隷とし親衛兵に宛がっている。また、有力な官僚・海賊首領なども元は元御神子教徒やその子弟であったものが少なくない。魔力持ちが含まれる確率が高い故であろう。

バス爺がいかに強請ろうと、魔導船は海都国にとっては主力になりえない。そもそも、大型船を動かせるほどの動力を魔導外輪では与えられない。外輪の大きさは素材の強度である程度制限されてしまう。『聖ブレリア号』サイズの魔導外輪を用いる場合、外輪の強度維持のための素材に魔力を消費しなければならなくなる。外輪が大きくなれば相対的に、補強のために消費する魔力量が増える。

故に、魔力持ちを十分に揃えられる王家所有の魔導船、『聖ブレリア号』と聖エゼル海軍用だけが、大型魔導外輪を装備している。

「本当に魔導船が必要なのであれば、王国の王家なり王宮に打診すれば良いことでしょう」

おそらく、近衛海軍・海兵のような組織を作り、魔導船と騎士・兵士・魔導師ごと、組織として貸し出す形であれば供与される可能性がある。要は、海都国に貸与により生じる費用で、自国の魔導船艦隊の実働部隊を整備し、東外海で活用しようということなのだ。

何か問題が起こったとしても、東内海からパダノ川を遡行しサボア領まで退避できれば、なんとでもなる。その辺り、王宮……王太子に提案して、最初は小規模な艦隊として海都国に派遣すればよいだろう。『聖フローチェ』と同程度の18m級魔導ホイス船であれば、人員も戦闘力も相対的に悪くはない。ガレー船同様高速商船であり、漕ぎ手が不要な分、頻繁に寄港せずにすむ。

王国の戦闘用魔導船の主力は30m級魔導キャラベル船であるが、純粋に操舵手として魔術師を数人単位で配置する必要があることを考えると、自前で海都国がそれを用意するのは難しいだろう。人口は王国の十分の一以下。魔術師の比率はさらに低い。それも考え、商船兼用のホイス船サイズの魔導船の方が良いだろう。

海賊の出没する海域への移動と実際の接敵行動以外は、普通の帆船として活動し、海賊を誘き寄せることになる。海賊船を拿捕した後は、牽引して最寄りの海都国の港湾へ向かう際にも魔導外輪は有効だろう。

「話、聞いてくれるかのぉ」

彼女は、王宮経由で『傭兵』として借り受ける方が可能性が高いだろうとバス爺に伝える。とはいえ、三隻ないし四隻程度で戦隊を編成することを考えると、魔導外輪は小型のもの故に比較的短期間で製造できるであろうが、編成と訓練は多少時間がかかる。早くて半年、長ければ二年ほどはかかる。騎士団から魔力持ちの騎士を戦闘員兼予備操舵手として借り受ければ良いだろう。新大陸への進出を王宮も検討していると聞く。騎士や近衛連隊の中で、魔導船乗りを育成する計画も弾みがつくかもしれない。

「それでも、今回のサラセン艦隊との決戦が終わってからになるでしょう」

「そらぁそうじゃな。、まずは勝たないと意味がない」

今回、サラセン艦隊・海賊は東内海を西進し、海都国が領有する港湾都市を何度か襲撃している。海都国のガレー船戦隊が充実していた過去にはなかった現象であり、このままであれば、早晩、キュプロス以外の地域もサラセンに奪われることになる。

まずは、サラセン海軍に勝利し、戦意を挫かなければならない。海都国ではその意志が固く、上から下まで一丸となっている。教皇庁艦隊も練度は劣るが、戦意は十分だと思われる。

『神国のケツを蹴り上げねぇとな』

『魔剣』に言われるまでもない。サラセン海軍を蹴散らし、海賊を打倒し、さっさとリリアル学院へ戻るのだ。もう一生分、船に乗った気がしている彼女であった。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

メッサーラに集結する日時まであと一か月少々。一度ニースに戻るか、あるいはリリアルに戻って彼女が考えているところ。先日の、魔導船貸与事業について、王太子殿下に打診したところ、海都国としては相当の対価を支払い派遣を受け入れることになることから、実際に運用実績を示して交渉に臨みたいとの連絡を受けた。

ようは、海都国の支配下にある港湾都市近郊に登場する『海賊船退治』を、海都国の政治的決定権を有する誰かしらを搭乗させた上で条約なり契約なりを締結したいとのこと。

王国側からすれば、より高い金額を要求できる実績を示して話し合いの席につきたいという意図であろうし、海都国側からすれば、実際に海賊船を討伐している場面を確認しているわけではないので、リリアル義勇軍の報告を鵜呑みにするような足元を見られる契約を結びたくないということだろう。

「アリー……すまぬ……」

「構いません、王国の魔導船運用の経験を蓄積する機会になるでしょうから。リリアルにもニースにもメリットがあります」

「そういってもらえると助かる」

どうやら、ジジマッチョに対してバス爺が『協力するよな?』と圧を掛けたようだ。魔導船を導入したニースの前聖エゼル海軍提督であり、今回のリリアル遠征にも同行しているジジマッチョの添状を王宮宛ての書状に加えることによって、海都国の海軍関係者を魔導船に乗せお試し航海に出ることを提案させられたらしい。

試供品があったほうが、安心して購入できるというものだ。

「サラセン海賊討伐の経験を、聖エゼル修道女騎士団の皆さんにも経験しておいてもらう方がいいから、丁度いいじゃない?」

「そうだな。今回は、儂もそちらに乗るとするか」

『聖フローチェ号』をおとりの艤装帆船として先行させ、後方のやや視界の外に、『聖ヨハネス号』を置いて海賊船の襲撃に対応する。海賊との接触後、『リリ急便』伝令で急行させ、二隻で討伐をすることになるだろう。

十五分ほど単独で粘れば、合流は可能となるだろう。

「というわけで、海賊狩りに出るわよ!!」

「「「「おお!!」」」」

伯姪が気勢を上げ、リリアル勢がそれに追従する。加えて、今回は海都国の海軍関係者が同乗すること、その目の前で実際に海賊討伐を行い、その結果が今後も継続して効果があると判断されれば、王国海軍に魔導船戦隊が編成され、近衛連隊や騎士団から騎士・魔術師を中核とする戦力が海都国に有償貸与されることになる。

「責任重大です!!」

「いつも通りで問題ない」

「派手に斬り駒ねぇとな」

「そうね。この船、衝角ないものね」

赤目蒼髪の言う通り、今までの海賊狩りの主力であった『聖ブレリア号』は黒目黒髪と魔装銃手組を乗せて、ニースから聖エゼル海軍と共に行動することになっている。もともと、偽装商船であった『聖フローチェ号』は喫水も浅く幅広で速度も出にくいこともあり、衝角攻撃向きではない。ガレー船は細長い船体をしており、刺突剣のような衝角攻撃に適した形をしているが、上から見れば葉っぱのような船体のホイス船ベースには向いていないのだ。

「そこで、今回用意したのは、お試しの「生石灰玉」を使っての斬り込みね」

伯姪が魔法袋から取り出したのは、油紙を正二十面体に張り合わせたものに生石灰を詰めたものを用意してもらった。これは、海都プレゼンツである。

「ギューギューには入ってないんですね」

「ポンと弾けるくらいの量にしてもらっているわ」

お試しは小麦粉で行ったようだ。流石に消石灰でも体に宜しくない。

「あんまり遠くからじゃ効果ないか?」

「まあ、ぶつけられる距離ならいいんじゃないの」

身体強化で視力と腕力を強化しても、50m程度だろうと思われる。弓や銃なら射程距離内なので、一応危険ではある。

「甲板の上では使わないようにお願いしておくわ」

「あー 自分や味方が被害被りそうですもんねー」

風向きにとって、あるいは敵味方入り乱れていれば、自身や味方へ悪い効果があるかもしれない。使いどころは接近戦に入る前ということだ。

「最初から全員使う必要はないと思うのよね」

「ツーマンセルのどちらかが使えばいい」

「それでいいわね」

伯姪と赤目銀髪の会話に、彼女が了承の意を示す。海賊討伐で、本来後衛につく『聖フローチェ号』が囮として先行。茶目栗毛と伯姪、赤毛娘と赤目銀髪、蒼髪ペア、そして彼女と『リリ』。

『リリもがんばるよ、アリー』

「ええ。あなたには、伝令や偵察とそれに、私の護衛をお願いするわ」

『わかったよー まもってあげるねー』

すっかり私お姉さん状態となりテンションの上がるピクシー幼女。

そんなこんなで、リリアル勢は出来上がっていくのである。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

そして、いよいよ東内海沿岸、海賊討伐ツアーの開催日となった。船が小さいということもあり、今回、海都国観戦団一行は数人ずつ、『聖フローチェ』と『聖ヨハネス』に分乗してもらうことになる。また、戦闘になることを考え自衛できる程度の戦闘力と、魔力持ちを入れる様に伝えてあった。

「儂、こっちのほうがいいの」

「どうぞどうぞ」

ジジマッチョが、もろ手を挙げてバス爺を『聖フローチェ号』へと送り込もうとする。そして……

「国営工廠の総責任者が長らく船に乗っても問題ないのですか」

「勿論です。総監とはいえ、補佐役や次代の総監候補は幾人もおります。それよりも、魔導船をじかに体験したうえで、海都国でも建造できないか検討する方が大切な仕事でしょう」

暑苦しい老人と、冷徹な老人が乗船。それぞれ、従者兼護衛役を一人連れている。これで四人。

「やはり、斬り込みに参加するのはこちらが良いだろう。どうだろうかカミラ」

「……リリアル提督に頼むのが筋ではありませんでしょうか殿下」

どうやらカトリナは、久々に暴れたいのか『聖フローチェ』斬込隊に志願したいようである。いや、騎士団総長だけどお飾りだろあんた!!

「同じ釜のパンを喰った騎士学校同期の仲だ、いやだとは言うまい」

「ですので、ご確認を」

「うむ。だが、断られたらどうする。こ、これから気まずい関係になるのではないか」

そう思うなら、遠慮して下さるかしらといいたいのだが、カミラからちらっちらっと彼女に視線が送られてくる。

「どうしたものかしら」

「こっちで引き取った方が、修道女騎士の皆さんにはいいんじゃない?」

お飾りとはいえ騎士団総長であり、大公妃であるカトリナがちょろちょろするのはやり難いことこの上ない。そして、騎士団長である『ドラ』こと『アレッサンドラ・バレーノ』は気遣いの人。初の海賊討伐参加でただでさえ気ぜわしいのに、カトリナの相手までさせるのは忍びない。

「儂、大公妃殿下と一緒がいいぞ」

「……聞いておりませんよ閣下」

「あの、侍女の女性が好みだな儂」

「全く聞いておりません。降ろしますよ」

嫁ラブのジジマッチョと違い、バス爺は若い女が好きなようだ。ちょっと陰のある雰囲気の女性が好みなのかもしれない。カミラはそんな感じの女性である。

「カトリナ、こっちに乗りなさい」

「い、いいのか」

「ミラさんが困っているでしょ? まあ、あんたがこっちにいる方が、火力が増すんだから文句はないわ」

「ふははは!! そうか。ラ・マンの悪竜再びだな!!」

挙動不審から、一気にテンションが上がる大公妃殿下。そして、変なフラグが建ったかもしれない。いや、ほら、内海は浅いから海竜とかでませんよ。ああいうのは、深い海で出るんだからね。!!

実際、御座船仕様とはいえ積載量よりも速度と安全性に主眼を置いた20m級魔導キャラベル船『聖ヨハネス』号の収容能力は高くない。女騎士団とジジマッチョ団、そして視察団の半数を乗せるとそれなりに一杯となる。『聖フローチェ号』なら、箱馬車二台と荷馬車程度は出せる。それぞれが寝室となるわけだ。

箱馬車なら、屋根の上も居住スペース!!

そして、カトリナとバス爺一行を同乗させ、二隻の魔導船は海都の港を出航する。

「どういった航路を進めばいいのかわかっているのか」

「勿論」

昨日彼女が受けた依頼は、東内海の港湾都市周辺で海賊行為を行っている元御神子教徒のサラセン人が指揮する十二隻の船団の撃破。できる限りの損害を与え、商船の航海の安全を担保してもらいたいということ。

商船に護衛のガレー船をつけ行動することで、商船は帆船にもかかわらずガレー船の寄港を繰り返す航路を進むことになるので、航行に時間がかかるようになる。また、護衛に同行させるガレー船にも限りがある。これから対サラセン艦隊との決戦に戦力を集中するためにも海賊船からの護衛に回す余裕はない。故の依頼。

「サラセンの遊撃戦隊の迎撃ね。楽しみだわ」

「頼もしいですな、ニアス卿」

「頼りにしていますわ、総監殿」

『工廠総監』もクロス島の西に現れるサラセン海賊のことを大変苦々しく思っていた。作ったばかりの船を沈められ、奪われていたからだ。

クロス島以東はすっかりサラセンに制海権を取られてしまったが、キュプロスと海都の間もサラセンの海賊戦隊が遊弋していることは、海都国の支配下にある港湾都市がサラセン側に下りかねない状況にもつながる。

「落ち着かないので、討伐してしまいましょう」

彼女は行きがけの駄賃と、聖エゼル修道女騎士団の鍛錬に丁度良いと海賊狩りを前向きに考えているのである。