軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第957話 彼女は修道女騎士団と合流する

第957話 彼女は修道女騎士団と合流する

「ご無沙汰しておりますわリリアル閣下」

「ええ、皆さん、ご壮健なようで何よりです」

その昔、姉がリリアルに連れてきた四人の修道女。その時は冒険者の見習いのようなことをさせたと記憶している。それが今では、修道女騎士団の幹部としてサボア公領で活動しているということなのだ。

挨拶を交わした騎士団長『アレッサンドラ・バレーノ』は元は伯爵令嬢。そのほか、見知った顔には副団長兼軍務官『アンドレイーナ・ヴェント』元男爵令嬢、財務官『アンナリーザ・フォンテマーレ』元子爵令嬢、内務官『ベネデッタ・ベンジーナ』元子爵令嬢が騎士団幹部であり、リリアル体験をした四人でもある。

「魔導船、すごいらしいな」

「そうね。ちょっと驚くと思うわ」

アンドレイーナこと『イーナ』が待ちきれないとばかりに伯姪に話しかける。とはいえここはいまだトレノ宮、大公妃殿下の部屋の一つ。聖エゼル修道女騎士団の幹部とリリアルを招いた王太子日主催の昼餐を取ることになっている。

その後、夕方までに騎士団の本拠地である『ファジャーノ』城塞へ移動。翌日から魔導船の操船の練習をしつつ、海都へと向かう。

城塞前の『ドーラ川』の船着き場に魔導船を出し、乗船。その後、ジジマッチョ団と三期生年長組の補助の下、実際に操船しながらの習熟訓練となる。

「なあ、この手前のパダノ川桟橋から出航しないか?」

「しないわ」

「むぅ……」

魔導船に乗りたくて仕方のない大公妃殿下がいつもの通りの無茶を言う。

「流石に、動かす前にそれなりに訓練は必要だ」

「そうよ。剣を初めて持つのに、いきなり魔物と戦わせるような者よ。下手に操船して、浅瀬に乗り上げたり、転覆させたらサラセン遠征に参加できなくなるわよ」

「それは困るな。ここは我慢のしどころか」

魔導船に乗って聖王同盟艦隊に参加することもカトリナの目的の一つ。魔導船はその為に不可欠な要素であり、それが欠けたなら大公妃が戦場に向かうなどという暴挙は許されないのだ。

今回、「魔導船」で「リリアル」とともに向かい、操船その他はジジマッチョ団がアシストするということで、大公も許可したという背景もある。王国の王家一族であり、サボアの大公妃という身分の高い者が聖王同盟に参加するというところで、小なりとはいえサボアの存在感を高める意図があるのだ。

食事を勧めながら、魔導船についての聞き取りを進める。操舵手を確認すると、魔力量がそこそこ多く水の精霊の加護を持つアンナリーザこと『リザ』が主に勤めることになるという。

「魔力操作で少しずつ魔力を継続して流すのがポイントなのよね」

「それは大丈夫だと思います。身体強化を弱めにかけたり、魔力走査の要領ですよね」

「それは、私は向いていなさそうだな」

「イーナはどかっとパワー系なのです」

「雑とかいうなよ、少しは傷つくんだぞ」

ベネデットこと『ベネ』の突っ込みに、困った顔で言い返すイーナ。その奥では「そうなのか」とばかりに、焦った顔をする大公妃。そう、イーナとカトリナは魔力量の差はあれども、雑さではキャラ被りなのである。

カトリナの背後で、「だから言わんこっちゃない」とばかりにスンと無表情になるカミラ。散々注意したのだが、我儘公女殿下は聞き入れなかったのだろうと彼女は推測する。

昼餐ののち、二台の箱馬車と荷馬車に分乗し、リリアルとカトリナ、そして聖エゼル修道女騎士団は騎士団の城塞へと馬車を進ませる。

「それで、なぜカトリナがこの馬車に乗っているのかしら」

「ふはは、旧友との親睦を深めようと思ってな」

「絶対違うわよね。キュプロス行の詳細を聞きたいんでしょ?」

「勿論それもあるが、連合王国で女王陛下に会ったりしたのだろ?その辺りも聞きたいぞ」

カトリナとは連合王国に向かう前に会ったきりであったか。話には聞いているのだろうが、彼女たちがあちこち行っていることが少々うらやましいのだろうか。何なら変わってあげたい。結婚したい!!

「そういえば、女王陛下の王配候補に、王弟殿下を親善大使役にして訪問したのだけれど、簡単にはいかなかったわね」

「女王様は気を持たせておきたいのでしょうね。国内情勢は不安定だし、自分の側近たちもどこまで忠誠心を持っているのかわからないようだし」

「そうか。なかなか女君主というのも大変そうだな。もういい年なのだから、早々に相手を見つけないと、子を産む前に婆になってしまうのではないか」

うっ、くっと声にならない声を出す彼女と伯姪。既婚者の余裕なのだろうか、上から目線でカトリナが言い切るは少々二人にとって面白くない。いや、出会ったころから上から目線であったか。

「そこで、今回の遠征の総司令官に恐らくなる神国のジロラモ閣下とも顔を合わせているの」

「おお、なかなかの戦上手らしいではないか。年も、王太子殿下と同世代だったか。若く才能ある王族が指揮を執るというのは、聖征らしくて実に良いではないか!!」

歴史的に有名な聖征の中で、三人の君主が揃って聖王国を目指した三回目の聖征。途中、陸路を向かった当時の帝国皇帝は途中で病に倒れ、王国の尊厳王と、連合王国の英雄王が供にサラセンと戦った有名なお話。その後、とっとと国に帰った尊厳王は、英雄王がいぬ間に王国内にあった連合王国に属する諸領地を攻略。サラセンの君主と死闘を繰り広げた英雄王は、帰国途中で帝国を通過する際に、とある君主と諍いをおこし何年か幽閉されてしまった過去がある。

因みに、英雄王の母である王大后が身代金を工面しようやく自由の身になることができたのだが。

「なるべく早く、速やかにサラセン海軍を討伐して、王国に帰りたいわ」

「王国というか、学院でしょう?」

もう数か月は旅の空である。不満があるわけではないが、落ち着かないのだ。彼女はそもそも、部屋スキー・自宅スキーでもある。

「ガルム、ちゃんと働いているかしらね」

「セバスよりは安心できるわ」

「歩人は生来、のんびりしているからな。向いていないのだろう」

のんびりというよりは、隙あらば怠けよう、サボろうとしているといった方がいい。そんな良性の資質ではないのだ。サボりーマンがしっくりくる。

「その歩人殿は、今回どこにいるのだ?」

「魔導船の操舵手をやらせるつもりで、監視要員付きで今頃荷馬車で不貞腐れているんじゃない?」

「馬に乗れないのだから、荷馬車に乗らざるを得ないのは自業自得よ」

そう。歩人は足がみじか……短足……鐙に足が乗らないので、馬車の御者をするしかないのだ。そう、身体的特徴上、致し方がない。

そんな話をしつつ、一行は『ファジャーノ』城塞に到着するのである。

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しっかりとした昼餐であったこともあり、夜は質素な修道院飯で済ませ、翌朝からの魔導船操船訓練に備えて早めに就寝する。

「いいわねこの城塞」

「そこの川の渡場を監視する施設だったんでしょ?」

北法国をパダノ川と並行し東西に大きな街道が走っている。東に向かえばミラン、西に向かえばトレノ。その中間にある『ドーラ川』を防御線として生かすための監視場所兼兵溜として建設されただろう古い城塞を改築し、周囲の村と養鶏などで協力して生産拠点を兼ねる修道院に改装したのがこの修道騎士団本拠地である。

「養鶏も進めなければね」

「羅馬に兎に鶏、果樹園もでしょ?」

「ええ、それでリンゴのシードルを作って王都で売るのよ。リリアル印のリンゴシードルとしてね」

銀貨銅貨がチャリンチャリンである。

「元々あった村を騎士団領にしてもらったのよね」

「そう聞いているわ。ゼロから始まる開拓村とは、その辺り少々違うわね」

「小麦や野菜以外の現金収入の種になる養鶏なら、割と協力的にしてもらえたのでしょうね」

村の若者から自警団や衛兵の雇用も可能である。農地を広げることができなくなっているならば、余剰の労働力を騎士団で吸収すれば村も騎士団もWIN-WINとなる。これから、村を築いていく開拓村ばかりのリリアル領ではそうはいかない。別の方法で、労働力を増やさねばならないだろう。

「そうなると、孤児院かしらね」

「全員が中等孤児院へはいれているわけではないのですもの。勉強は苦手でも、力持ちや体力があってまじめに仕事をできる人を受け入れるというのも一つの手だと思うわ」

全員が兵士や職人になれるわけではない。性格的に争いごとが苦手であったり、愚直にしかふるまえないものもいるだろう。受け入れられる余地があるとすれば、そうしたものの受け皿としてか。

「急ぐことはないわ」

「そうね。少しずつ、いま進めていることを確実にしていきましょう」

彼女と伯姪は、そういうと話をやめ眠りについたのである。

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翌日、聖エゼルの修道騎士たちは、修道士の日課ののち、魔導船の引き渡しとなるのだったが……

「むぅ、待てぬ」

「待てができないなんて、まるで駄犬のようですよ殿下」

「そ、それは、仕方がないではないか!! 楽しみで夜明け前から目が覚めてしまったのだ!!」

カトリナはカミラに『駄犬』呼ばわりされているのだが、いつものこと。リリアル勢は既にジジマッチョ団とともに三期生中心に魔導船の出港準備に出ている。

「朝食をいただいたら、みなで川までいきましょう。そこで乗船して、実際に動かしながら覚えてもらうことになるわね」

「そうか」

「……あなた、皆の邪魔になるから、私たちと『聖フローチェ号』に乗船するのよ。昨日の打ち合わせ聞いてたわよね」

「む、無論だ!!」

聞いていたが、忘れていただけだ!!。カミラは小さく「駄犬妃殿下」と呟くのであった。

短期間で操船できるよう、乗り込む聖エゼルの修道女騎士たちとその足下の兵士に学ばせるのだ。三期生やジジマッチョ団が付き添うとはいえ、即席の講習ののち川を下り、海都国経由内海に出て南下、メッサーラまで向かうさなかに船の操り方を身に着けてもらう算段だ。

この航海でジジマッチョ団の半数は『聖フローチェ号』の防衛戦力として三期生年長組と歩人とともに残ってもらい、もう半数は聖エゼルの魔導船に乗り込んで操船の補助をしてもらうことになっている。

今、別行動をしているジジマッチョ団がメッサーラで『聖フローチェ号』へ移乗することになる。

「邪魔なのよね」

「気が散るわよ、日ごろ一緒に行動していない上司がいるとね」

「わ、私は、けっこう気を使っているつもりなのだがな……」

カミラが首肯するようにうなずくが、騎士団幹部はともかく村人出身の兵士や従騎士格の修道女らはそうは思わない。帆の操作などを学ぶのは落下の危険などもあり、実際行うのは彼女・彼らなのである。なので、余計な負荷をかけるべきではない。

「あなたは、乗せてもらう側なのだから、おとなしくしていて頂戴」

「そうそう。天幕からでると日焼けするわよ。海の上は遮るものも無いんだから」

「ふふ、小麦色の肌の私も魅力的であろう?」

カミラは元々色白ではない。最近、大公妃稼業に勤しんでいるので、日焼けの度合いは減ったが、以前は騎士生活をしていたので、相応に日焼けをしていた。

「日焼けがひどくなれば、傷薬でも塗ればよかろう」

「そういう用途に本来使うべきではないと思うわ」

日焼けは軽度の火傷と同じこと。傷薬、とくに例の草から採取した葉を用いたリリアル印の傷薬は良く効くのだ。リリアル印の傷薬は、全国のニース商会で取り扱っております。どうぞよろしく(心の姉)

既に兵士たちは魔導船に乗り、停泊中に帆の上げ下げをジジマッチョ団とともに朝から練習していたのだという。この後、川を下りながらもそれを幾度と無く練習し、海に出てからは実際に風に帆をはらませて航行の練習をする。実際に、帆走する必要はないのだが、帆のある船が帆を一切張らずに進んでいるのは傍から見ておかしく見える。また、魔導外輪の故障や操舵手の魔力切れで自走できなければ、帆走も必要となる。

故に、帆走の練習は必要というわけだ。

「おお、帆が動いているな。では、私も……」

「ちょっと待った」

「あなたは、こちらよカトリナ」

さんざん確認しているにもかかわらず、聖エゼルの魔導船に乗ろうとするカトリナ。やはり駄犬。

「いや、乗り込むのではない!! こう、ち、近くでじっくり見たいのだ!!」

どうやら、サボア大公座乗船であ20m級魔導キャラベル船『聖ヨハネス』号から目が離せないのだろう。『聖ブレリア』をそのまま小さくしたような外観をしており、その隣に停泊している『聖フローチェ』よりも優美でスマートな姿をしている。速度が出やすいがその分、

バランスの良い小型船。大きな正方形の帆ではなく、三角帆を用いた操作性の良い二本の帆柱と簡易な船尾楼を有す。

このタイプの船を用いて、神国は外海の辺境行へと多くの冒険者を送り込み、新たな領土を獲得する尖兵としていた。

全長20m 喫水は2m幅は5m弱、排水量100t 外輪は中央よりやや後方に配置。速度は最高で14ノット程度。外輪はリリアル二番艦 ホイス船『聖フローチェ』号に準ずる。魔力の消費量が少なく、長距離航行に適していること、河川など浅喫水の場所での運用を前提とする小型の外輪を採用している。

商船としては積載量に問題があるものの、公家の御座船でありトレノ近郊の河川を遡ることを可能とする機動性と安定性に重きを置いた設計。商船としてはやや小さいものの、魔法袋などの活用で十分積載量不足を補えることを前提としている。機関部と喫水上・船尾楼のみ魔装防御している。

艦名はトレノの守護聖人『聖ヨハネス』から。王国では「ジャン」神国では「ファン」と称される。

「私の船はかっこうよいのだな」

「あなたの船ではないのだけれど」

そう。結婚祝いとはいえ、王国からサボア公家へ渡されるものであって、カトリナの私物ではないのである。