軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第955話 彼女は黄金魔導騎士を確認する

第955話 彼女は黄金魔導騎士を確認する

商船としての運用を前提に、あまり外装に手を加えずに使用する『聖フローチェ号』にたいして、移動城塞として魔装銃兵を配置し、さらに魔導騎士を搭乗させる『聖ブレリア号』は、銃兵を守る防壁の類をどうするかという問題が上がる。

これまでは、魔装荷馬車や城塞の壁を銃座にして射撃を行っていたのだが、艦舷に木製の盾を並べたようなガレー船の装備では正直不安しかない。

魔装布は魔力を通し続けることで防御力を発揮するのであるが、銃兵に配置する薬師組・二期生の大半は魔力量が少なくあてにすることができない。

「どうしようかしら」

「魔導外輪の覆いを防塁にするのはどうだ」

彼女の悩みに対し、老土夫が提案する。魔導外輪を露出させておくと、水車がかきだす海水が後方に飛び散るのと直接外輪を攻撃された時に破壊されないように魔装布の防御を船体と同様施している。これは、操舵手が外輪を動かす際の余剰魔力を用いて張り巡らされるので、魔装馬車の幌や客室の防御と同等である。

「足場を城壁のように組んで、外輪を盾にする感じじゃな」

「なるほど」

彼女は理解を示し、一先ず『聖ブレリア号』に配置してみた上で、効果があるようであれば、『聖フローチェ』『聖エゼル海軍』『サボア大公座乗船』にも同じ艤装をすることを提案する。

ニースはともかく、サボアの聖エゼル女子騎士団も魔装銃兵が存在し、射撃陣地として魔導外輪の背後を活用するのは良いことになるだろう。

「日陰になると最高です!!」

「寝やすい環境になると予想」

足場の柱にハンモックを吊るして風を受けながら寝られるのではないかと赤毛娘たちが夢想する。

「もう決まりみたいなものね」

「あなたたちは、聖フローチェ号組なのだから、必ず付くとは限らないわよ」

伯姪の予言の通り、おそらく、四隻とも装備されるのだろう。

魔導騎士は魔導具で強化された全身甲冑なのだが、問題が存在する。勿論、海に落ちたら御終い……ということではなく。

「先生、鎧が海水で錆びるようです」

「……それは……そうね」

一ミリ前後の薄鋼板を重ねて鋲で固定して隙間のできないように作る甲冑なのだが、鉄は錆びるのだ。

「剣も錆びますね!! やっぱり木の棍棒にトゲトゲを生やすのが正解です」

赤毛娘のトゲトゲアピールはどうでもいい。彼女は灰目藍髪の懸念を理解し、これまでは陸上の固定された拠点だけで運用されていた故に問題になりにくかった魔導騎士鎧のメンテナンスを考えなければならなくなる。

王国の新鋭兵器である魔導騎士を試験運用用の一機とはいえ一式ポンと王太子が供与した理由が理解できた気がする。塩害対応を考える駄賃というわけか。

「錆びにくくするあるいは錆びない素材で作り直す必要があるのね」

錆びない、錆びにくい金属というなら『魔銀』が相応しいが、全身甲冑一式分を確保するというならば、相当量が必要であり、実戦用に用いるなら国王あたりが儀礼用で仕立てるような途方もない金額のする甲冑となるだろう。つまり、その素材は使えない。そもそも、サラセン遠征には間に合わない。

彼女は老土夫に相談する。

錆対策は既にあるというのだが、いまだどれにするかは確定していないのだという。

「魔銀鍍金は、今の手持ちの魔銀の量では難しい。そもそも、錆対策に用いるなら、他に使いたい用途もあるでな」

魔装布に加工すれば、より広い範囲で防御力を高めることができる。海都国から、魔導具の紡績機・織機を手に入れることができれば製造コストも時間も改善されるのだから、使いたくないのも理解できる。

「魔鉛鍍金ではだめなのでしょうか」

「魔鉛は鉄以上にさびやすい。とはいえ、赤錆ではなく白く塩が吹いたように錆びるのだ」

魔鉛は自身が錆びることで膜を形成し、その下の鉄を守る効果があるのだそうだが、稼働する関節などの部分では宜しくない。胸鎧や兜の動かない部分だけなら問題がなさそうだが、そうすると動かない部分と動く部分で錆びる錆びないが出てしまう。

「鎖帷子みたいに砂で磨けば錆が落ちるような雑な装備ではないからな」

鎖帷子は良く錆びる。なので、常に砂で磨き、油を塗布して錆びないように整備する必要がある。騎士見習や小姓らはこれを毎日やらされて大変なのだという。

老土夫は「鍍金の腹案はある」と答え、彼女がその内容を問うと「観てのお楽しみ」と明言を避けたのである。

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「なんですかこれは」

「ふむ、良い鍍金の仕上がりだろう?」

老土夫は満足げであるが、彼女をはじめ、実際に使用する灰目藍髪もその異様な姿に仕上がった魔導騎士に少々驚きを隠せないでいる。

「王国の象徴として、サラセン海軍に殴り込むに申し分ないと思うが」

「そういうことではありません」

「あら、かっこいいじゃない」

彼女はやれやれと頭を振るが、伯姪は『かっこいい』と評価する。

「目立ってます!!」

「戦場の華に相応しい」

「いやー国王陛下でも、こんなすげぇ甲冑身に着けねぇだろ。これ、金鍍金だろ?」

そう、老土夫は「儂使わんから」と、自分の持っていた金を鋳溶かし、これに何かしらの金属を混ぜてメッキ仕上げにしたのだという。

「純金ではないぞ」

「……そういう問題ではないのだけれど」

「やはり、金なのですか……」

老土夫曰く、十八金となるように四分の三を金とし、残りの三分の一を『鉄』『魔鉛』『魔銅』を配合して金の合金として鍍金に仕上げているのだという。

「魔鉛合金並みの硬度でしあがっておるし、魔装の効果も若干あらわれているのでな。鉛の弾丸程度なら、魔導騎士運用時は弾いてしまうな」

「実験したのですか」

「もちろんじゃ」

どれだけ金を使ったのかは知らないが、金鍍金に銃弾を撃ち込むのは気が引けなかったのだろうかと思わないでもない。

「それにだ。これは、回収できる資金となる」

老土夫曰く、この魔導騎士が王国の象徴として聖王同盟艦隊のサラセン討伐に参加し武勲を上げる。その後、帰国の報告の際に黄金の魔導騎士を王家に戦勝記念の武具として献上する。

サラセン討伐に公には参加していない王国だが、その中で、王国から参加した義勇軍が王家の承認の元戦った証となるわけだ。そして、おそらく世界で唯一の『黄金の魔導騎士』を王家が保有することになる。

『魔導支援船』による移動拠点が公になっていない今の時点において、魔導騎士は王国国防の象徴であり、『国を護る』という意思の具現化であるとされる。王家がその象徴を持ってサラセン海軍を征伐した証を示すことは重い意味を持たせることができる。

「つまり、いくらでお買い上げになりますか、言い値じゃ……となる」

「では、報奨金含め、精々、高く売りつけられるよう戦いましょう」

「頼んだぞ、アリー。わしらの金庫を守ってくれ!!」

どうやら、鍍金に充当した黄金は、老土夫の老後資金であったらしい。冗談めかしているが、目がマジであるのは隠せていない。大事な老後資金で博打を打つなと言いたい!!

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「いい名前を付けましょう!!」

「名は態を表す」

赤毛娘が騒ぎ出し、赤目銀髪もそれにのっかる。確かに、何らかの名称があった方が良いかもしれない。『金鍍金魔導騎士』とか、『黄金魔導騎士』のような胡乱な名前で呼ぶのにはいささか抵抗がある。

「キンメちゃんとかどうでしょう?」

「「「……」」」

「あ、やっぱり駄目ですか……」

赤毛娘の『トゲトゲ君』と同じ並びの名づけセンスに、賛同の声はない。

「黄金の《chevalier》騎士《 d'or》では、捻りがないわね」

とりあえず見たまま過ぎるので保留。

とはいえ、リリアルは孤児の集まり。実務はともかく、史書などに因んだ含意ある言い回しなどは不得意である。彼女の祖母でもいれば、良い名づけをしてくれたのであろうが。

「お、いいね、この金ぴか甲冑」

「……姉さん。どこから沸いたの」

「ダーリンの実家なんだから、ずっといますぅ。妊婦さんなんだから、であるかないんだよ」

そういいつつ、彼女の姉は水晶の村に魔装馬車で爆走していったと記憶している。安定期は多少運動した方がいいらしい。

「へー 王国を守る象徴に仕立て上げるんだ」

「……人聞きの悪い」

「でも、その方が高く売れるじゃない?」

正確には、報奨金をはずんでもらえるということだが。

「そうだね……黄金の炎『 オリフラム(Oriflamme) 』はどうかな」

『オラフリム』は、王家の示す軍旗の一つ。古代語で『黄金の炎』を意味する名称であり、その起源はカル・ス大王の時代に黄金のランスを持った騎士がサラセンを聖地から焼き尽くし追放するという預言に基づき戦うと記された書に由来する。

国を挙げての戦争。私戦ではなく、国運をかけ戦いを示す旗でもある。

姉の提案にしては良い名である。騎士槍の先端にこの旗を靡かせた場合、「捕虜は取らない、皆殺しだ」という王命になる。百年戦争においては幾度となく使われたとされる必勝を期する旗でもある。

純金よりも明るく、輝く金色の鎧に「太陽」を意匠とする旗の名称をつけるのは悪くない。サラセンを滅する炎というのも良い。サラセンの旗は月と星があしらわれることが多い。月を滅する太陽という構図になるだろうか。

「良い名前だな。わしの老後資金をオールインしただけの意味がある」

「無慈悲な一撃」

「……絶対返してくれよ。フリではないからな」

そして、必ず帰って来いと悲壮感を漂わせる老土夫。お金は大事だよ。勿論、勝って帰ってくる!!

「あー お姉ちゃんも行きたかったなー」

「姉さんが妊婦でよかったわ」

「子供の名前はフラムちゃんにしようかな」

「……やめなさい」

黄金の炎に、確かに姉は『大魔炎』が大好きであるから、子供の名前に『炎』に因んだ名前を付けてもおかしくはない。が、子供に名前の由来を聞かれた場合に嫌われる覚悟があるならつけるといいと思う。

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黄金騎士の名づけで盛り上がったしばらくのち、王家からなにやらリリアルに渡したいものがあるという手紙とともに荷物が送られてきた。

「……これは……」

「オリジナルではないわよね」

『聖ブレリアに掲げよ』との言葉とともに、件の意匠の旗がもたらされたのである。

「うわぁ」

「かっこいいです!!」

本来、戦場に立つ騎士の騎槍の先端にバナーとして掲げるものなのだというが、真紅に黄金の太陽と光の波を描いた『黄金の炎』の軍旗が収まっていた。

「早速掲げようじゃねぇか」

「馬鹿ね、こういうのは、決戦直前に相手に見せつけるように掲げるのよ。こんな日差しの中でずっと広げていたら、色が抜けて褪せた軍旗になるじゃない!!」

蒼髪ペアも、サプライズプレゼントに興奮気味となる。

「はぁ」

「これも黄金魔導騎士と一緒に返さなければね」

彼女のため息と伯姪が確認するかのように口にした言葉。王家や王宮はリリアルがサラセン軍との戦いで黄金鎧騎士やこの旗を失うような戦いはしないと確信して寄こしているのだ。この旗もそれなりの状態で持ち帰れば王宮のどこかに鎧とともに飾るか、あるいは、迎賓館の一角にでも展示し、「サラセン軍への勝利の証」とでもするのだろう。

神国国王を煽るようなないようで、「ジロラモを戦場にちゃんと送れよ」とくぎを刺す内容で国書なり親書を送るように王太子には頼んでいたが、まさかこちらにもそのトバッチリが飛んでくるとは思ってもいなかったのだ。

「これも力に変えましょう」

「ええ。それに、この旗の意味を神国や教皇庁も知っていると思うわ」

すなわち、サラセンに対してこれ以上ないほどの正義の鉄槌を下すという意思を示していると理解されるだろう。

無様に戦うつもりはないが、周りに戦功を認められる程度には戦ってみせなければならない。できないとも思わないが、できればほどほどで止めておきたいのだが。

『あの鎧に黄金炎旗と魔導船だろ。目立たない方が無理だな』

『魔剣』の言う通り、ここはあきらめて、最大戦果を目指してやろうではないかと彼女は思うのである。