軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

166・質問攻め

何かしら? この状況に既視感を覚える。

部屋を出た時、廊下には従者のヴィレムが待機していたけど、殿下はなぜか彼を先に馬車へと向かわせた。私と一緒に見送りに出ようとした執事やメイドにもついて来なくてよいと言い、二人で玄関に向かっている。

「あっ……」

何に既視感を覚えたのかに気づき、思わず声が出てしまった。私はパッと手で口を押える。

「何だ、どうした?」

ウィルフレッド殿下は何事かと周囲に目を走らせ、何も異常が無いとわかると私の方を見た。

「いえ、失礼致しました。何でもありませんわ」

既視感も何も、昨夜フレッドを名乗るウィルフレッド殿下がお帰りになる際に、同じように頼まれて門までお見送りしている。

その時、後ろをついてきたシンを廊下に残して二人きりになるという流れが今とよく似ていたのだ。

殿下は誰かと二人になりたい時にいつもこうしているのだろうか。無意識に普段の癖が出てしまう怖さを感じた。

自分は女将の時と同じ反応をしていなかったかと急に不安になる。多分初めから容姿が似ているとは思っているはず。違うところは料理の腕と性格だけど、この違いはかなり大きい。

でもボロが出ないように、宿に戻るまでの間はウィルフレッド殿下とは極力関わらないようにした方が良さそうだ。

「ところでエレイン、少し尋ねたい事があるのだが……」

「はい、何でしょうか」

パッと殿下に顔を向けると、並んで歩く彼の目線は私の顔よりも少し下の方を見ていた。

まさか、先ほど抱きしめられた衝撃でブラウスのボタンが飛んだ?

実は今朝着替えた時、胸の辺りが少し窮屈に感じていたのだ。私は慌てて下を向き、胸元を手で押さえてボタンが付いているか確認した。

「マリア・カルヴァーニとは今でも連絡を取り合っているのか?」

「……マリア?」

なぜ今マリアの話題に? それを知りたいだけならわざわざお人払いをする必要はないと思うけれど。

「いいえ。買い物へ出た時に偶然会った事ならありますが、それきりですわ」

「そうか、会ったのは事実なのだな……」

「もしや……マリアに私の居場所を尋ねたのですか?」

「情報を持っていそうな者に尋ねるのは当然だろう」

「……!」

マリアは転校して今は殿下と同じ学校に通っている。それから二人は親しくしているようだし、私の事を尋ねるのは簡単だ。

でも殿下は何も知らなかった。

つまり、マリアは殿下に問い詰められても口を割らなかったという事だ。

どうしよう……そのせいでマリアの立場が悪くなっているかもしれない。

「……だが彼女は、エレインはとても幸せそうにしていたとしか話してくれなかった。つい先日も、今起きている事件解決の為にどこで会ったのか教えるよう何度も言ったが、それでも答えなかったのだ」

「殿下、私がマリアに内緒にしてとお願いしたのです。詳細を話さなかったのは、私との約束を守る為ですわ。どうか彼女を悪く思わないでください……!」

私が必死にお願いをすると、それまで険しい顔をしていた殿下がフッと笑った。

「王子である俺より友人を優先するのか……お前達の友情は思ったより固いな。こうしてお前の無事な姿を見られた事だし、マリア・カルヴァーニが情報を隠していた件は不問にする」

「ありがとうございます、殿下」

ああ、マリアにお礼を伝えたい。パーティーが待ち遠しいわ。

彼女は殿下に不信感を抱かせてまで私との約束を守ってくれていたのだ。宿に遊びに来ないのも、自分の行動を監視されている可能性を考えたなら当然の事だった。

何も知らず、マリアが遊びに来てくれないと拗ねていた自分が恥ずかしい。

彼女は私などよりずっと賢く聡明だし、王太子妃となるのにふさわしい女性だ。ウィルフレッド殿下はなぜ夜会のパートナーにマリアを選ばなかったのだろう。

国王陛下がまだ若く健康な為、結婚を焦る必要がないのもわかるけれど、王太子というお立場上婚約くらいはしていた方がいいに決まっている。

殿下は政略結婚などしたくないとお考えなのだろうか……。

国王陛下は政略結婚をした直後、当時恋人だったレイラ様を側室として迎えたという話は有名だ。お母様を見て育った殿下には、何か思うところがあるのかもしれない。

まあ、それは私が心配する事ではないのだけれど。

何の希望もなく政略結婚の相手として使われた自分を思い出し、胸がチクッと痛んだ。

そんな事を考えていると、また殿下の視線が私の胸の辺りに注がれているのに気づく。

「エレイン、あー……その……」

まだ何か私に尋ねたい事があるのか、殿下は急に落ち着きを無くし、何度も私の顔と胸に視線を向けてくる。

先ほど確認したらブラウスのボタンはまだ飛んでいなかった。なら何が気になるのかしら?

「その黒い石、今流行っているのか?」

「黒い石……? ああ、このペンダントの事ですか? これはアルフォードの曾祖母の形見ですわ」

「アルフォードの……?」

「ええ、曾祖母の手を離れて数十年間ある方が持っていたのですけど、つい最近運命的に私の手に戻ってきたのでお守りにしています。この石が流行っているかどうかは知りませんが、どなたかへのプレゼントをお考えですか?」

「いや、知り合いが似たようなのを身につけていたから、流行っているのかと思って聞いてみただけだ。そうか、男からプレゼントされた訳ではなかったか……」

後半は独り言のように呟いていて聞き取れなかったけれど、殿下の知り合いで黒曜石を身につけているといえばヒューバート? でも流行っていると思うくらいだから、他に何人も居るという事よね。

じゃあ私が普段から身につけていても、流行りだと思われるだけで済みそうだわ。

「じゃなくて、エレイン!」

「は、はい!?」

ウィルフレッド殿下は突然大きな声で私の名を呼んだ。私はビックリして目を瞬く。

話をしたいけど今日のところは帰るのではなかったの?

二階の居間から玄関までをゆっくり歩き、恐らく会話する時間を稼いでいたと思われる殿下は、とうとう玄関ホールで足を止めた。

何か変だと思ったらここへ来るまで誰とも会わなかった。どうやら使用人達は空気を読んで隠れているらしい。余計な気遣いのせいで静かすぎる玄関ホールに妙な緊張感が漂う。

「お前は……今誰か……その……」