軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第54話 片田舎のおっさん、打ち合う

「どぉりぇええいっ!!」

ここはレベリオ騎士団の修練場。

まだまだ日が昇ったばかり、一日は始まったばかりではあるが、それでも決して少なくない人数が各々鍛練に励んでいる。

俺も大概早く来ている自覚はあるが、それでもここの騎士たちも随分と熱心だ。こういう武に対して勤勉な姿勢は、素直に褒められるべきだと思う。

「そうそう、いい感じになってきたね!」

勢いよくスイングされた剣先を避けながら、対戦相手を褒める。

俺は今そんな騎士たちを相手に模擬戦というか、打ち稽古をしているところだ。

互いに真剣を持ち出してしまうと万が一が起きてしまうので、使うのは専ら木剣である。俺は今木剣しか持ってないけどさ。

でも一度くらい、真剣を使った稽古もやってみるべきだと思ってしまう俺は、もしかしたら随分と剣の狂気に絆されているのかもしれない。

あの独特のヒリついた感覚、というのは可能であれば感じたくないものだが、一方で、戦いに身を置く者である以上、一度は体感しておくべきものだとも思う。冒険者などと違い、騎士団はそこまで実戦機会に恵まれているとも思えないからなあ。

いざという時に剣を振れません、では騎士団としても困るわけだ。ここら辺も今度アリューシアに進言してみようかな。却下されそうな気もするけど。

「んんんんにゅぬぅう!」

「うおっと」

おっと、いかんいかん。稽古中に考え事などするもんじゃないな。

俺の持つ木剣よりも数倍は質量のありそうなそれが、鼻先を掠める。確かに遠慮せずに振り回せとは言ったが、これは些か肝が冷えるね。

だがしかし。大振りの攻撃というのはそれだけ威力もあるが、隙もある。

まだまだ発展途上だが、その成長が目に見えて分かる分、教えている身からしても楽しさが垣間見えるというものだ。

「ほい」

「んぎゅっ!?」

振り終わり、ガラ空きとなった頭に木剣を軽く落とす。

その衝撃からか、可愛い悲鳴が修練場に木霊した。

「よし、一旦終わろうか。少しずつ良くなってきてるよ」

「本当っすか! え、えへへへ……」

一先ずの終了を告げ、体勢を崩す。先程まで俺と打ち合っていたクルニは頭をさすりながら、嬉しそうに顔を綻ばせていた。

うーん、犬。クルニはやっぱり癒されるなあ。

ただし、今で完成形というわけでは決してない。更なる技術の向上のためにも、出来ている点と出来ていない点はしっかり伝えるべきである。

「扱いにも慣れてきてるし、剣速も十分だと思うよ。ただ、同じように振り回すと当然間合いを見切られるからね。そういう時は前に詰めてリカッソを使ったり、もっと突きを出さないと。さっきみたいに隙を衝かれる」

「うぅー、分かりましたっす……」

しょんぼりと表情を曇らせるクルニ。

だが、俺はそこまで悲観していない。この短期間で、ツヴァイヘンダーという癖の強い武器をここまで扱えるようになるとは俺も思っていなかったからだ。嬉しい誤算というやつだな。

やはり元々パワーのあるタイプなのだろう、ツヴァイヘンダーの質量には最初からあまり苦戦はしていなかった。今振り回しているのは木剣だが、木材の塊なんて結構な重量である。これなら真剣でも問題なくパワーを発揮出来るはず。

それに、飲み込みも早い。

元々素直な性格だから、俺の教えを素直に吸収出来ているのは大きい。

無論、まだまだ粗削りな面は否めないものの、それでも一般的な剣士が相手であれば、暴力的なまでのリーチと質量で押し通せるくらいには成長している。だからこそ、俺と打ち合い稽古をしているわけだ。

勿論これは、ずっと長い間鍛え続けられたクルニの身体という土台があってこその成果だ。うちの道場を離れた後もしっかり鍛練を続けていた何よりの証拠である。

小柄な体躯から繰り出される超リーチの連撃。

小回りも利くし回転も速い。後はより実戦的な押し引きや勘所を体得していけば、もっともっと強くなるだろう。

「しょげることはないよ。クルニはしっかり強くなっているから」

「は、はいっす!」

俺の言葉に嘘はない。

少なくとも、ショートソードよりは合っている。これは近い将来が実に楽しみだと思わせてくれるには、十分な成果であった。

「あ、そうだ先生! そろそろじゃないっすか?」

「うん? 何がだい?」

はたと思い出したようにクルニが明るい声をあげる。

そろそろって何がだろう。何か予定あったかな。ここでの鍛錬以外、特に予定も約束もなかったはずなんだが。

「先生の剣っすよ!」

「……あー」

思い出した。忘れていたともいう。

そういえばもうそんなに経っていたか。毎日鍛錬を繰り返していると、ついつい忘れてしまう。歳のせいだとは思いたくないね。

「もう一週間経ったか。それじゃあ行かなきゃね」

「そうっすよ! 楽しみっすねー」

帯剣していない状態にいつの間にか慣れてしまっていたなあ。剣士としてはあまりよくない状態である。代わりに木剣差してたからってのはあるかもしれんけど。

俺の剣を打っているはずのバルデルからは、一週間欲しい、と言われていた。その期限はちょっと前に過ぎてしまったので、取りに行ってもいい頃合いか。

ミュイの一件から結局俺は、特に何も新しい情報を得ることもないまま一週間ばかりが過ぎている。

その間、アリューシアやルーシーが中心となって宵闇らに色々と聴取をかけていたらしいのだが、具体的な進捗までは聞いていない。

ちょこちょこと話し合っては難しい顔をしているのは知っていたが、俺から突っつく話題でもないしな。ただ表情から察するに、物事がそう単純ではないだろうくらいの予測はしている。

かといって、俺に出来ることは特にないんだけども。彼女たちもそれが分かっているからこそ、わざわざ俺に情報を共有したりしていないのだろう。

まあここは俺が関わる領分じゃないし、お偉いさん方にお任せだ。

それよりも、俺にとってはこっちの方が大事である。

「じゃあ早速、今日の稽古終わりにでも覗いてみようか」

善は急げじゃないが、折角出来上がったのなら早く対面したいというのが剣士の正直な気持ち。早速今日にでもお出掛けしようじゃないか。

「あ、じゃあ私も一緒に行くっすー!」

「ん、構わないよ」

バルデルの鍛冶屋に寄る旨を呟いてみれば、すかさず帯同を申し出るクルニ。いやまあ、断る理由もないのだが、わざわざ来る理由もない気もする。

「んっふふー、先生の剣、楽しみっすねえー」

にっこにこの笑顔を咲かせながら話すクルニ。

当事者の俺を置いといて、何故か彼女のテンションが上がっている。そんなに他人が心躍るイベントではないと思うんだけどなあ。

まあとりあえず、不機嫌になられるよりは全然マシである。クルニは常に朗らかなのが似合う女の子なのだ。

それに、果たしてどんな剣が出来上がっているのか、という興味は確かに分からんでもない。

ゼノ・グレイブルとかいう 特別討伐指定個体(ネームド) の素材をふんだんに使っているであろう剣だ。はっきり言ってまったく予測が付かない。

それが楽しみでもあり、ちょっと怖くもあるんだが。俺はほどほどでいいんだよほどほどで。俺自身がほどほどなんだから。

「ま、何にせよ今日の訓練が終わってからね」

「はいっす!」

さてさて、小休止もほどほどにして、鍛錬を再開しよう。

新たな出会いに心が弾むのは尤もだが、それも騎士として、そして指南役としての務めを果たしてなんぼである。剣に対しては実直でいたいからね、俺は。

「よしこーい」

「いくっすよー!」

クルニが大型の木剣を構える。

目の煌めき方を見ても、さっきよりも幾分かテンションが上がっているな。いやさっきまででも十分高かったんだけどさ。

あんなデカい木剣にしばかれるなど訓練であっても御免である。俺も改めて気合を入れて稽古に臨むとするか。