軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第235話 片田舎のおっさん、凄さを知る

「――そこまで!」

絶え間なく続くレベリオ騎士団の実技試験。様々な若駒たちの情熱を感じながら眺めていると、その時間はあっという間に過ぎ去っていく。

「うーん、惜しかったなあ」

「ですね。やはり単純な膂力がないことには、やや決め手に欠けるようにも思えます」

「そうだね。力があるとないだと、ある方が有利ではあるから」

模擬戦終わりにヘンブリッツ君との感想戦を行うのもこれで何度目か、すっかり慣れてしまった。やっぱりこうやって剣を見て、その感想を誰かと交わせるというのはそれだけでも楽しいものだ。

ちなみに今行われていたのはエデルの立ち合いである。技術的には十分勝ちの目は見えていたものの、単純な力の差と気勢の差で惜しくも勝ちを拾えなかった、という感じ。

圧倒的な実力差がない限り、戦いにはどうしても相性の問題が付きまとう。

それは得物だったり戦い方だったり様々。エデルの剣は繊細で流麗ではあるが、パワーによる平押しにはちょっと弱いところがあるからな。

アデルとエデルで戦えばエデルの方がちょっとだけ成績がいいんだけど、それはアデルの方が力があるとはいえ、それほどの大差ではないからだ。レベリオの門戸を叩くくらいの力自慢の中において、エデルはどうしても非力であると言わざるを得ない。

「しかし、惜しい戦いばかりです。地力の高さは流石といったところでしょう」

「そう言ってもらえると、俺としても嬉しいかな」

それでもなんとか食らい付くことが出来ているのは、ひとえに彼の技量の高さによる。

今のところアデルの模擬戦成績は三勝一敗。対してエデルは二勝二敗。戦績だけ見ればアデルの方が一枚上手だが、エデルは先ほどの戦いのように惜敗が二つだ。

一方、アデルの一敗は受け流しを主とする候補生にボコボコにされていた。いや実際に木剣でボコされたわけじゃないが、完全にいなされていた形である。

アデルは得手と不得手の差が激しい。勝てる相手には圧倒的に勝つし、勝てそうな相手には執念で勝ちをもぎ取る。ただ勝てそうにない相手にはサッパリ敵わない、といった感じだ。

エデルは逆に、大体の相手には一定の力を発揮することが出来る。無論両者ともに、相手との絶対的な力の差がない場合に限るが。

そこを教官役の騎士がどう判断するかは割と注目点として見ている。別にそこを見て彼らを合格させてやってくれという話ではなく、単純に剣を教える者として気になるというかね。

「ちなみに、教官役との模擬戦も全員やるのかい?」

「その時々によりますね。志望者の数も質も毎年変わりますから。ただ今回の内容ですと、明らかに不足している者以外は立ち合うものかと」

「じゃあひとまずあの二人はまだ大丈夫、かな」

「恐らくは。絶対ではありませんが」

ヘンブリッツ君は騎士団の副団長という地位に就いているが、この実技試験で修練場の一階でなく二階に居る以上、今回の試験における決定権を持たない。

そりゃああんまりにもあんまりな裁定が下されたなら一言物申すくらいはするだろうけれど、レベリオの騎士たちがそんなことをやるとは思えないしね。ならば後は教官のお眼鏡に適うことを祈って見守るのみである。

「では、候補生同士の模擬戦はこれにて終了とする。休憩を兼ね、しばし待機せよ」

「はいっ!」

全員が大体三回から五回程度剣を交えたところで、候補生同士の模擬戦は終了となった。

行った回数にばらつきが出たのは、恐らく候補生の間でも実力差が少なからずあったためだろう。

ただ少なくとも俺が見た限りでは、今回の試験で頭一つ抜けた実力を持った者は居なかったように思える。互いに切磋琢磨出来るのはいいことだが、合否を判定する側としては苦労するだろうな。

候補生たちが各々小休止を取る中、騎士たち数人は寄り添って、名簿と睨めっこしながらひそひそ話をしていた。恐らく合否に関する擦り合わせである。

この状況で休憩しろと言われても、受験者としては休むものも休まらないんじゃないだろうか。仮に俺があの中に居たら気が気じゃないと思う。ただまあ、それでもしっかり休める者がやっぱり騎士には向いているのかもしれない。

「――待たせたな。今から名を呼ぶ者は、残念ながら不合格だ。荷物を纏めて帰路に就け」

「呼ぶんだ……」

「ええ、しっかりと現実を認めさせます。それもまた、今の彼らには必要でしょうから」

しばらくの時間が経過した後、一人の騎士が言葉を発する。てっきり合格者だけを呼ぶのかと思ったら、まさかの逆であった。

割とそれはショックなんじゃないかと思ったんだが、呟きに返されたヘンブリッツ君の言葉には一応の理がある。

国一番の騎士団。皆は当然そこに入りたいと思っているし、何なら俺なら入れると思ってやってきている者も多いだろう。相応の実力があればいいものの、そうでない者にはちゃんと現時点での立ち位置を分かってもらう必要がある。

無論、ある程度は同じ候補生と立ち合って分かりはするはずだ。ただ、若いとその辺りを素直に認められなかったりするんだよな。

だから不合格者の名を呼ぶ。お前はまだ足りないと。それもまた、国家中枢の安全を預かるレベリオ騎士団としての在り方、というわけか。理屈は分かるが厳しいものだね。

「――、以上だ。それ以外の者は試験を続行する」

「くっ……!」

ここで惜しくも名を呼ばれてしまった若駒たち。その数は全受験者のおおよそ半数くらいだろうか。

呼ばれた者の反応は様々だ。悔しがる者も居れば苛立っている者、当然かと受け入れた表情の者まで実に多彩。しかし不合格となった誰一人として、その裁定に異を唱える者は出なかった。

「不思議だね、一人くらい跳ねっかえりが居てもおかしくはないと思うけど」

「模擬戦の結果から考えれば順当でしょう。本人たちもそれは分かっているはずです」

別に候補生同士の模擬戦ですべてが決まるわけじゃない。わけじゃないが、おおよそは決まる。今まで腕自慢で鳴らしていたからこそ、自分が今この場に相応しくなかったと肌で感じているのかもしれない。

願わくは、今回残念な結果に終わった彼らには是非とも、今回の出来事を糧として更なる成長を遂げてほしい。

彼らと俺の人生が交わるタイミングは、ほぼないだろう。ただ偶然に上から眺めていた他人でしかない。けれどそれでも、国一番の騎士団という頂を目指した武の人生を、ここで終わらせてほしくはないなと願ってしまう。

見方によってはこれはただの我が儘だけれどもさ。俺がそうであったように、諦めずに続けていれば何かしらの縁や幸運が廻ってくるかもしれないのだ。無論、全員に等しくとまでは言わないが。

簡単に頂へと届いてしまう道は、楽ではあるが面白くない。

そう感じてしまうのは、俺が剣術という割と厳しい道をこれまで歩んできてしまったからなのか。この辺りの捉え方は結構難しいなと思っている。他者から見れば、俺の現状は間違いなく成功の部類ではあるだろうから。

「では、次の模擬戦に入る。体調が芳しくない者や痛みが強い者は申し出るように。……居ないようだな、結構」

「その辺りも勘案してくれはするんだ」

「一応は。模擬戦で不意の怪我を負う者も居ないとは限りませんから」

最初は調子がよかったのに、不意に食らった一撃でその後パフォーマンスを上手く発揮出来ない、というのはあり得る事態ではある。

その辺りもしっかり見てくれるのは流石と言えるが、とはいえ、たかが模擬戦で戦闘に支障をきたすほどの負傷をしてしまった者が、合格を勝ち取れるとも思えないのも難しいところだ。ヘンブリッツ君も一応はと言っている通り、別にそれで大きく合否が変わることはないんだろうな。

「アデル・クライン! 前へ!」

「はいっ!!」

さて、候補生同士の模擬戦を潜り抜けた後は、現役のレベリオ騎士との立ち合いだ。むしろここからが本番と言える。次のステップに進むためには、この一戦でどれだけのインパクトを残せるかが鍵となるだろう。別に俺は試験の採点基準を知っているわけじゃないけれど、それくらいは誰にだって分かることだ。

「……ちなみに聞くんだけどさ」

「はい、なんでしょう」

「教官役との模擬戦で勝てた人って今までに居たの?」

アデルが立ち合いを始めるまでの僅かな間。ふと気になったことをヘンブリッツ君に聞いてみることにした。

受験者が現役の騎士に勝ってしまう展開が過去にあったかどうか。前提として勝負は水物であるからして、そういう番狂わせというものは往々にして起こる。起こるがしかし、その可能性の多寡でいえば、レベリオの騎士を相手にそれを起こせる確率は限りなく低い。

特別指南役として騎士たちを鍛えているからこそ分かる、彼らの強さ。

皆一線級のフィジカルとテクニック、そしてメンタルを兼ね備えている猛者ばかりだ。更に試験の教官役に抜擢されるということは、その中でも更に上澄みであることは間違いない。その点は俺が保証出来る。

そのような、レベリス王国全体で見ても上から数えた方が早いところに立つ練達相手に、大金星を挙げた者が居るのかどうか。それはちょっと気になるところであった。

「……善戦した者はそれなりに居ます。勝ちを拾えた者も僅かながら存在します。ですが――」

「ですが?」

「圧倒したのは、現在の団長ただ一人のみです」

「……そうか」

いや、アリューシアつよ。

そりゃね、俺の道場に居た頃から彼女は強かったよ。もともと素質はあったのだろうし、練習にも真摯に取り組んでいた。何より飲み込みが異常なほど早かった。

僅か四年でうちの技術をすべてモノにした彼女に、天賦の才があったことは間違いない。それにしたって、俺の道場を去ったのは彼女が十六の時。その年齢で現役最盛期のレベリオ騎士を相手に勝つどころか、圧倒したというのは凄まじい話だ。

「……強いね、アリューシアは」

「その団長を鍛え上げたベリル殿も相当でしょう」

「ははは……面映いね」

今の俺がアリューシアに明確に勝てている要素は、目の良さと年齢差からくる経験値の違い。あと強いて言えば性差からくる筋力差。この三つだ。別にこれは謙遜でもなんでもなく、ただの事実である。

スピードもスタミナも彼女の方が遥かに高い。何なら眠っている才能の多寡だって、俺よりも彼女の方が上だろう。

そんな逸材を俺の手で育て上げられた、というのは確かに立派な勲章ではある。端的に言えば誇らしい。

けれどまあ、それだけで俺がデカい顔をするわけにもいかないからね。何とか面目を保てるように、こちとら結構必死であった。

「では、はじめ!」

「とおりゃああああッッ!!」

現騎士団長の強さに思いを馳せている間に、アデルと騎士との立ち合いが始まった。相変わらず彼女の威勢は凄いな。素人が相手ならあの咆哮だけで圧倒出来るかもしれない。

けれど相手は素人なんてもんじゃなく、戦いのプロである。当然ながら気勢程度では怯んですらくれなかった。

「ふん! ちぇりゃあっ!」

「……」

アデルの猛攻を、教官役の騎士は淡々と捌いていく。

仮に特別指南役として俺が居なくとも、彼らは常日頃からアリューシアやヘンブリッツ君といった一流の騎士と手合わせをしているのだ。多少の技術や膂力など、ものともしていない。

これほどの力量差があれば、一瞬で勝負をつけることくらい容易いこと。だが今回の模擬戦は勝負ではなく試験である。アデルの引き出しがどれほどのものか、それを探っているのだろう。

つまり、手加減をしている。一瞬で終わらせてしまっては試験にならないから。

現役のレベリオ騎士と候補生の間では、それが出来るほどの実力差があるということだ。重ね重ね、その分厚い壁を容易くぶち壊したアリューシアは凄い。

「……はっ!」

「――!」

しばらくアデルの剣を受けていた騎士が、突如として反撃に出る。

打ち終わりの隙を狙った見事な差し返し。喉元に迫りくる木剣にアデルは反応出来ず、薄皮一枚ギリギリのところで止められた木剣と同時、二人は動きを止めた。

「……参りました!」

「うむ。良い気迫と良い連撃だった。下がれ」

「はいっ!!」

勝っても負けてもアデルは元気である。まあそれが彼女の一番の強みだからな。

体力自体は頑張って訓練を続ければいずれ身についてくるけれど、活気というものは生来の性格が大きく作用する。分かりやすい例えでいえば、アデルと同じ活気をエデルには出せない。性格が違うから。

その意味でいえば多少方向性の違いはあれど、アデルとクルニは割と近しい属性なのかもしれないな。もし合格出来たなら、面識もあることだし仲良くしてほしいところ。

「どうやら今年は波乱もなく終わりそうですね」

「波乱って?」

「無論、騎士側が負けることです」

「ああ……」

アデルと騎士との立ち合いを見て、ヘンブリッツ君が小さく声を発した。

まあ言われてみれば、試験する側が試験を受ける側に負けるというのは波乱か。特にこういう強さを前提としている組織の場合は尚更である。

受験者に負けたとなれば、なんだか騎士団内でも気まずい雰囲気になりそう。あいつひよっこに負けやがったぜ、みたいな。

いやまあ流石にそんな人は居ないと信じたいが、当の本人としてはかなりショックだろうなとは思うよ。

俺の立場でいえば、ビデン村の道場に入門したいとやってきた少年に俺が負けるようなものか。

……いかん、想像してみたらかなりキツい。やはり波乱は起きない方が良いな、うん。

「それじゃあここからは、現役の騎士相手にどこまで食い下がれるか、が見どころかな」

「そうですね。技術だけでなく、気合や根性というものも決して軽視は出来ません」

「違いない」

現時点で最低限の実力があることは大前提。しかし真に大事なのは、負けてたまるかという気概と、負けてしまってもなにくそと思える根性。

精神論ばかりを言うつもりは全くないが、じゃあ精神論が不要かと言われればそれもまた間違い。武の道に進むのなら、精神力は絶対に必要だ。

どうか、この道を選んだ全員が、折れることなく真っ直ぐに育つように。

土台不可能な夢物語ではあるけれど。それを祈らずには、やはりいられない。