軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第234話 片田舎のおっさん、見始める

「次! エデル・クライン!」

「は、はいぃ……!」

俺の困惑を他所に、点呼は恙なく進んでいく。

というかエデルも居るのかよ。二人揃ってまさかレベリオ騎士団の入団試験を受けているとは露ほども思わず、点呼が続く中、しばらく二階席から下をぼけっと眺めることしか出来なかった。

アデルとエデル。ビデン村の道場で教えていた双子の弟子である。今はランドリドのもとで研鑽を積んでいるはず。

アデルが姉でエデルが弟。双子ではあるが性格は真逆で、アデルは勝ち気でエデルは引っ込み思案である。

ただ二人とも剣の素養という意味では優秀で、ランドリドのような冒険者になりたいと言っていた記憶が鮮明に蘇る。

そんな二人が冒険者ギルドの門を叩くのではなく、レベリオ騎士団の門を叩くことになったのは、まあただ事ではなかろう。どのような事情があったのかは知らないにせよ、それに至ったであろう心当たりは俺のすぐ隣に居た。

「……ヘンブリッツ君は知ってた?」

「……受験者の名簿は見ますので、一応は。ただ言っておきますが、一切の口利きはしていませんよ」

「ああ、うん。そこは信用してるし、しない方がいいと俺も思うよ」

単刀直入に聞いてみると、正直な答えが返ってきた。そりゃまあ副団長ともなれば受験者一覧くらいは見れてもなんら不思議ではない。

そして、見知った名前があっても一切の口利きをしていないというのもまた彼らしく、同時にレベリオ騎士団らしさも感じられる。俺としてもそういう手心は必要ないと思っているからね。

上からの贔屓で一定の実力に達していない者を採用しても、良いことなんて一つもない。本人も苦労するだろうし、何より組織全体のレベルが下がる。特にこういった国家戦力でそれをやるのは致命的だ。

勿論のこと、俺からの口利きなんてものもしない。大切な弟子であることに違いはないが、それはそれとして、実力で勝ち取らなければ意味がない。教育者としてそこを履き違えちゃならないと個人的には思っている。

仮に筆記で落ちていても、実技で落ちたとしても、それはその個人の力が足りていなかった故だ。

まあ極個人的な感情としては、せっかく受けたのだから二人とも合格してほしいけどね。

「しかし、あの二人が騎士を志すとはね……」

「ふふ、誰かに中てられたのやもしれませんな」

「君がそれを言うかあ」

誰かに中てられて、冒険者ではなく騎士を目指したのであれば、その原因は一人しか思い当たらない。というか、あの二人が会ったことのあるレベリオの騎士はヘンブリッツ君とクルニだけだ。そして実際に剣を交えたのは彼一人しか居ない。

ビデン村へ一時帰省した時に付いてきた彼とクルニだが、またここでも思わぬ縁と機会が紡がれた、といった感じだろうか。

「――ではこれより実技試験に入る。最初はこちらで組み合わせを指定した候補生同士の模擬戦。その後教官との模擬戦に入る。武器はこちらで用意した木製のものを使うように」

全員の点呼が終わり、いよいよ実技試験に入る。

どうやら最初は受験者同士で模擬戦を行い、その後に教官役の騎士と打ち合いを演じるらしい。この辺りはアリューシアが言っていた通りだ。

贔屓目を抜きにして、アデルとエデルの実力を客観的に判断した場合。彼らが騎士たり得るかどうかは丁度、当落線上に居るように感じている。二人とも決して才能がないわけじゃないが、レベリオの騎士の試験に通用するかと問われれば何とも言えない位置だろう、というのが個人的な見込みだ。

感覚的には道場時代のクルニに近い。まあ彼女は受かったんだが。

とはいっても、俺が今まで見てきたのは既に一線で活躍している騎士だけ。新人の足切りラインがどのあたりに設定されているのかは俺も知らない。

その意味では、大いに今後の参考になりそうな試験でもある。上しか見ていないのは一つの贅沢だが、教える立場として上しか知らないのはちょっと良くないからな。

「ヘンブリッツ君はあの二人をどう見る?」

「正直に申し上げて、五分五分でしょう」

「ふむ。……お手並み拝見、だね」

あの二人に対する現状の評価を聞いてみると、これまたやっぱり正直な答えが返ってくる。そして、所感としては俺と概ね同じであった。

五分五分。何も悪いことではない。頑張り次第で合格を勝ち取れるし、逆に言えばここ一番で頑張れなければ勝ちを拾えない立ち位置。あの二人も副団長であるヘンブリッツ君の強さは身に染みて分かっているだろうから、ここにきて油断や慢心はないはずだ。

「勝敗は降参の他、我々が試験に十分と見た、あるいは危険だと判断した場合に止める。これは試験であり殺し合いではない。その点重々認識するように」

「はい!」

さて、今回の模擬戦のルールが説明されたところで、まず最初に立ち会う二人が向かい合う。

各々選んでいるのは剣。武器棚を見てみると、騎士団が用意した木製の武器は剣の他に槍、棒、更に斧らしきものまである。剣だって長さによって何種類か分けられている感じだ。

意外といえば意外だが、別に己の武勇を示すのは剣だけじゃないと言われればそれもまた納得である。

俺は剣を修めてきたし、剣を教えてきた弟子のほとんども剣を使うが、別に槍使いや斧使いが居たって不思議ではないからな。実際狩人上がりの人なら剣よりも短槍、樵出身などであれば斧の方が馴染む者も居るだろう。

騎士団も魔法師団もそうだが、特に出自にこだわっていないところは良い部分だと思う。

才能が何処に埋もれているかなんて誰にも分からないからな。無論、血筋や教育等々で平均値は変わるにしても、突出した個人はそんなもん関係なく出てくることが多い。

その可能性を易々と潰したくない気持ちはよく分かる。いやまあ、それらを取り決めたお偉方が俺と同じ考えだったのかは分からんがね。

「では、はじめ!」

「はあああっ!!」

そうこう考えているうちに、模擬戦の一発目が始まった。開始の合図とともに、両者が吶喊。程なくして剣と剣がかち合う音が響き、いくらか鍔迫り合いを行った後、互いに半歩踏み込めば当たる距離での読み合いに移行する。

両者の実力がある程度拮抗している場合、余程の油断や奇襲の類がなければすぐに試合は終わらない。

その意味では、今向かい合っている二人は良い塩梅の実力差と言えよう。その辺りも考えて最初の組み合わせを決めているのだとしたら大したものだ。

「ふっ!」

「でああっ!」

片方は相手の隙を突くように細かい連撃を重ね、一方は力に任せて大振りのワンチャンスを狙っている。

レベリオの騎士試験には国中の力自慢たちが集うという文句は何も嘘ではない。若いながら各々がしっかり自身の強みを分かっているし、そしてまたその強みを押し付ける術も知っている。そこら辺のごろつき程度では、この二人を相手に勝ちを拾うのは相当難しいだろう。

「っしゃあ!」

「――そこまで!」

「くっ……!」

しばらく一進一退の攻防が続いていたが、立ち合いが続くと体力も精神力も集中力もどんどん削がれていく。そうした中、技量に優れる方が意識の間隙を突いた鋭い一撃を相手の喉元に滑り込ませ、そのタイミングで教官が待ったをかけた。

「いい集中力だ。有望だね」

「ええ、良い鍛錬を積んでいるのでしょうな」

今回の模擬戦で軍配が上がったのは、技量を前面に押し出していた方だ。立ち合い直後は互角に見えたが、力で押していた方はパワーが自慢である通り、恐らく短期決戦で決めてきた経験が豊富だったんだろう。

しかし相手は村の力自慢などではなく、レベリオの騎士を志す俊英。なかなか決め手に至れず集中力を欠き、相手の急襲を許した、といったところか。

うーん、こうして見ているとそれだけでテンションが上がっちゃうな。

無論、俺やヘンブリッツ君から見れば粗削りな部分も多く見受けられる。しかしそれらの原石を綺麗に磨き上げていくのが俺たちの仕事だ。今回負けてしまった彼も単純な力では圧倒していたし、剣の技量も系統は違えど大した差はなかった。長期戦に対するメンタルの保ち方を知らなかっただけ。

彼が試験に受かるのかは分からないけれど、育て甲斐のある若手には違いない。やはり見に来て正解だった。たった一戦を上から眺めただけだが、それだけでも俺のやる気はしっかり上がっている。

「では次の組み合わせに入る」

二人が場を退き、次の組み合わせに。

威風堂々といった感じで修練場のど真ん中に現れたのは、アデル・クラインであった。

「……なんだか緊張してきたな」

「ははは、私もこの模擬戦は見入ってしまいそうです」

アデルが試験に臨むということで、何故か俺がちょっと緊張してしまった。

思えば、教え子が何かの試験を受けるところを見る、というのは初めてかもしれない。アリューシアはうちを卒業した後に騎士団入りしたし、クルニは道場に通いながら合格したものの、直接試験を見たわけじゃないからね。

「相手は槍、か……」

「経験がなくては難しいでしょうな」

アデルが武器棚から手に取ったのはやはり剣。対する相手は木製の槍を選んだ。

ふむ。剣術相手ならアデルもそこそこやれるとは思っているけれど、槍が相手だとどうだろうな。恐らくまともな対戦経験がないはずだ。ヘンブリッツ君の言う通り、長物相手はその経験がないと対応しづらいところがある。

一般に長物相手の戦い方としては間合いを詰めて懐に入るのが鉄板だが、その懐に入るという動作がまず難しいのだ。

剣と槍の圧倒的なリーチ差。そもそも槍は相手に間合いを詰めさせないための武器である。更に剣とは違う構えから繰り出される突きは、刺突剣以上に見極めにくい。安易に振り回してくれればブロックから鍔迫り合いに持ち込めるが、さて相手の力量は如何ほどかな。

「では……はじめ!」

「でぇりゃあああああッ!!」

教官が手を振り下ろすと同時、先程の模擬戦とは比にならないほどの気合を発し、アデルが突っ込んだ。

初手としては正しい。槍相手に待ちを選択するのは愚行だ。向こうから剣の間合いに入ってくれることはないんだから、こっちから突っ込まないとまず試合が成り立たない。

「しぃっ!」

「ふんっ!!」

アデルの気勢を受けた対戦相手は、しかしその咆哮に気後れすることなくアデルの剣を迎え撃つ。

放たれた上段斬りはがっちりガードされるが、アデルはお構いなしに攻撃を続けていった。いやあ、マジでイケイケの剣である。攻撃は最大の防御なりを地で行くスタイルだ。

「うおおおりゃあっ!」

「くっ……!」

アデルが絶え間なく繰り出す猛攻に、槍使いの候補生は反撃が出来ない。

リーチがあるということは、裏を返せば動かすための間が必要だということだ。その隙間を常に作らず張り付けば、理論上は完封出来る。あくまで理論上だし、実戦でそれをやるのは現実的じゃないんだけどね。彼女の攻め気とスタミナのなせる業だろうな。

あそこまで接近されて離れてくれないとなると、槍の十八番である突きは使えなくなる。じゃあどうするかと言えば、柄を短く持って石突の使用も視野に入れた近距離戦を行うべきなんだが、これもまた慣れていないと難しい。

恐らくアデルの対戦相手は、槍を前にしてあそこまで突っ込んでくる連中と戦った経験がない、あるいは乏しいと見た。

ちなみに俺は槍との対戦経験は一応あったりする。おやじ殿が腰をやってから、道場破りとか村落を相手にする野盗だとかをしばいてきたからだ。流れの槍使いなどは案外居るもんだし、山賊盗賊系の連中は基本的に金がないから、鉄部分が相対的に少ない槍はよく使う。

「改めて見ても凄まじい剣気ですね。技術的にはともかく、あの気概は立派な才能ですよ」

「それを容易く凌いだ君が言ってもな、という感覚はあるんだけど、まあ同意だね」

アデルに槍使いとやりあった経験は恐らくない。それが逆に恐怖感や苦手意識に繋がらず、良く動けている可能性はある。

何にせよ、長物相手に一切躊躇しないのは才能に違いないだろう。扱いを誤れば一瞬で人生が終わりかねない、尖り切った才能ではあるが。

「ちぇりゃああああ!!」

「うっ……ぐっ……!」

彼女の猛攻に対し、槍使いの方が逆に恐怖感を覚え始めた。そりゃ圧倒的なリーチ差で圧殺しようとしたら、逆に初手から間合いを詰め切られてガンガン殴り掛かってくるんだから、普通に考えたら恐怖でしかない。

教官役の騎士も、戦況の推移を注意深く見守っている。まだ有効打こそ出ていないが、あれはいつ良い一撃が入ってもなんら不思議ではないからな。アデルのスタミナ切れを狙うのも線としてはあるが、期待は薄いだろう。

「――そこまで!」

「……ふぅーーっ! ありがとうございました!」

「ありがとう、ございました……!」

しばらく見守っていた騎士が、試験終了の合図を下す。ここからの挽回は難しいと見たか。まあ上から見ていても、槍使いの心がほぼ折れかけていたのは明らか。止めるタイミングとしては妥当と言えよう。

拙くも激しい猛攻を繰り広げたアデルは、一息ついたものの疲労はほぼないと見ていい。自分がずっと思い通りに攻めていられたのなら、スタミナは思ったよりも残るものだ。何より、気持ちが疲れていないという精神的な面が大きい。

「いやあ、緊張した」

「ははは。しかしこれで望みは繋がりましたな」

「まあ、そうだね」

模擬戦終了に合わせて、俺も一つ息を吐く。弟子をこういった形で見守るのは結構しんどいな。楽しくもあるんだけれどね。

「これを何回か続けるのかい」

「ええ。相性の問題などもありますので、相手を変えて何戦か行います。その後に教官役との模擬戦ですが、体力を見る側面もありますので」

「なるほどね」

確かに一、二回の模擬戦で疲れ果てていては、とてもじゃないがレベリオの騎士は務まらない。その辺りもしっかり見ますよということか。

ただヘンブリッツ君の言う通り、望みは繋がった。仮に模擬戦で負け越していたら、試験の足切りを食らう可能性は十分にある。というか流石に全敗は不合格になるんじゃないかな。伸びしろも見るとはいえ、そもそも現状の力が足りていなければ意味がないはずだ。

その意味では、アデルはここで確かな一勝を勝ち取った。あとどれくらい戦うのかは分からないが、まあ順調な滑り出しと言っていいのだろう。

「では、次の組み合わせに入る!」

実技試験は淡々と粛々と、進められていく。

アデルとエデルは無論のこと要注目だが、彼ら二人だけを見るわけにもいかない。他にも沢山見どころはあるのだから、しっかり注視していこう。

ここに集うのは未来の騎士の卵たち。誰一人として、軽視していい存在ではないのだから。