軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第11話 片田舎のおっさん、鍛錬に赴く

「こちらが騎士団の修練場です」

「ほう。やはりいい場所だね、広さもある」

無事に宿が見つかった翌日。

俺はアリューシアに案内され、騎士団庁舎内の修練場へと足を運んで来ていた。

ちなみに宿は庁舎からもギルドからもちょっと離れたところにある、大通り外れの安宿にした。少し足を伸ばせば食品店や飲食店も多いし、鍛冶屋が近かったってのもポイントが高い。

アリューシアが何故か少し拗ねていたが深くは気にしないことにする。

というのも、スレナ基準の「安くていい宿」は俺基準に直すと「そこそこ値が張るいい宿」だったのである。

そりゃ天下のブラックランクの冒険者様だ、収入の桁が違う。泊まれないことはないが、長く利用することを考えるとそこら辺の出費も抑えておきたかった。庁舎やギルド周辺は街の中心部だからな、その分宿代も高くつくというもの。

スレナからは「先生ならもっと良い宿を」なんて言われたが、俺程度はこのくらいでいいんだよこのくらいで、と押し切った。

別に贅沢するつもりもなかったし、最低限の環境が整っていれば文句はないしね。元々田舎の出だから、そこに頓着はしていない。

「基本的には皆ここで思い思いの鍛錬を行っています」

「うん、そのようだね」

思考を戻して修練場に目を向けてみれば、そこでは既に結構な人数の騎士が鍛錬に励んでいた。

木人を相手に剣を振るっている者も居れば、模擬戦を行っている者、筋力鍛錬に励んでいる者、休憩している者と実に様々だ。

「総員、傾聴!」

アリューシアの力強い声が響く。

修練場に居る全員がその声に中てられ、動きを止めた。

「本来の予定を繰り上げ、本日よりベリル氏にも指南を頂く。総員、一層の鍛錬を期待している」

「集中を解いてしまい申し訳ありません。本日より宜しくお願いします」

ヒュー、視線が刺さるぜ。

一応紹介はされているが、やはり誰だこいつみたいな疑念はあるんだろうなあ。いきなりこんなおっさんが出てきたら困るだろうし。

「お待ちください団長」

「……ヘンブリッツですか。どうしました」

アリューシアの声から、一瞬静寂に包まれた修練場。

その沈黙を破り、一人の青年がこちらへと歩み寄ってきていた。

先程、木人を相手に黙々と鍛錬を行っていた男だ。

歳で言うと多分アリューシアよりも少し上だろう。やや褐色味を帯びた肌に高い鼻立ち、切れ長の目が特徴的だ。肌着から覗く引き締まった身体は、相当に鍛え上げられていることを示している。

「我々は誇り高きレベリオ騎士団。指南役にも相応が求められます。ベリル氏を疑うわけではありませんが……その実力が如何程か、是非ともご教示頂きたい」

ヘンブリッツと呼ばれた男の視線は、真っ直ぐに俺を射抜く。

なるほど。紹介を受けた時にやたらと攻撃的な視線が混ざっていると思っていたが、正体は彼か。俺を下に見ている、とまでは言わないが、それでも「なんぼのもんじゃい」みたいな気概をひしひしと感じるぞ。

「アリューシア、彼は?」

「ヘンブリッツ・ドラウト。レベリオ騎士団の副団長を務める男です」

「ふむ、副団長殿か」

ええー結構な大物じゃん。怖い。

「しかし、先生の実力を示す良い機会でもありますね」

「えっ」

マジで言ってんの?

「ベリル殿、失礼は承知。是非ともお手合わせを願いたい」

そう言って彼は、俺の前にずずいと木刀を差し出した。

これは断れない流れですね。困った。やるしかないのか。

「折角ですので、他の騎士にも召集を掛けましょうか」

「えっ」

マジでえ。

これ下手したら俺の実力が皆にバレて失望される可能性まである。

いや俺もね、今更外面を取り繕おうとかは考えていないよ。でも騎士団の面々の前で公開処刑は流石にちょっと恥ずかしいってレベルじゃない。

けど何も言えない。だって指南役になっちゃってるから。つれえわ。

「では両者、準備はいいですね?」

「構いません」

「……俺も構わないよ」

で。

アリューシアが団長権限で手すきの騎士を呼びつけた結果、中々な数の騎士に見守られての模擬戦となってしまった。

審判、というか見届けはアリューシア本人が務める。

「なあ、これ何の集まり?」

「お前聞いてなかったのか。指南役になったベリルさんとヘンブリッツ副団長との模擬戦だってよ」

「マジか。久々に副団長の剣さばきが見れるな」

周囲の騒めきを耳が拾う。

ふむ、どうやらヘンブリッツ副団長は騎士からの信頼も厚いらしいな。

確かに彼は、見目や対応から若々しい部分は若干見受けられるものの、武に実直な様子は手に取るように分かった。

突然指南役とかいう訳の分からんポジションにぽんと収まってしまった俺に対して、やはり思う所もあるのだろう。

その気持ち自体は分かる。

彼が自身で語った通り、きっと騎士団に対して誇りも感じているはずだ。

そんなところにぽっと出のおっさんが現れても、すぐに迎合しろってのは難しい話だと思う。多分俺が彼の立場なら同様に感じていたと思うしね。

「ベリル殿、宜しくお願いします」

「ああ、こちらこそ。宜しくお願いします」

修練場の中央で、互いに礼。

うむ、綺麗な礼だ。俺に対する見方ってのも理解は出来るし、彼が悪い人でないことは十分に伝わった。

周囲の騎士から注がれる視線には、期待や興奮が多いように感じられる。

まあ俺に、というよりはヘンブリッツ君に注がれているようなものだけどね。やはりその実力や人柄などから、人望も厚いだろうことは容易に察せられた。

そんなレベリオ騎士団の副団長と俺は今、模擬戦とはいえ剣を交えようとしている。

まったく。どうしてこうなった。

俺はしがない片田舎のおっさんだぞ。

ただまあ、こうなってしまったからには仕方がない。

せめて格好悪い負け方だけはしないように頑張ろう。

――集中。

眼前には木刀を構え、攻撃的な視線を殺気にまで昇華させたヘンブリッツ。

おっと、これはマジでやらないとヤバいかな。

「では、はじめ!」

アリューシアの号令が修練場に響く。

号令と同時、俺の眼は勢いよく飛び出したヘンブリッツの姿を捉えた。