軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第10話 片田舎のおっさん、宿を探す

「――ってことがあってね。いやあ、参ったよ」

「それは好つご――大変ですね……」

翌日。

俺はおやじ殿に体よく実家の道場を追い出され、今こうやって再びアリューシアと一日ぶりの邂逅を果たしている。

ここは騎士団庁舎の一室。

白を基調とした壁に、机と椅子。最低限の調度品で場を飾っているこの部屋は、殺風景と言うほどではないものの、華美や豪華という言葉からは程遠い。

それは騎士団がその路線を取っておらず、正しく運営されていることの証左にも思えた。まあアリューシアが横領とか贅沢とかするとは思えないしね。

そんな俺は今、剣や諸々の荷物、そして十二分ともいえる路銀を持ってバルトレーンへと舞い戻ってきていた。

いやあ、そこそこに金貯めといてよかったわホント。

昨日の剣は買わなくて結果正解だったな。別に買えるっちゃ買えるのだが、あれ一振りでそこそこのお値段だったから、今後を考えるとちと心許ない。まさかいきなりこんなことになるとは思いもよらなかったが。

「先ずは宿を探さなきゃいけなくてね、こんなことで頼ってしまって申し訳ない」

「いえ、それは構いませんが……」

おやじ殿はああいう性格なもんで、一度言い出したら俺程度じゃ言い聞かせられない。一縷の望みを賭けてお袋にも話を通したが、なんとお袋もおやじ殿の味方であった。

二人揃って孫の顔を見せろと合唱されては何も言えんかった。つれえわ。

ランドリドもおやじ殿にすっかり丸め込まれた後だったしなあ。

ものすごく良い笑顔で「先生! 頑張ってください!」などと言われたら反撃のしようがない。ファナリー婦人からの優しい視線がつらかったです。

「…………」

「あ、アリューシア? どうかしたかい?」

で、俺としても首都バルトレーンに何か特別なコネクションがあるわけでもない。都合よく使っているみたいで本当に申し訳なかったが、頼る先がアリューシアくらいしかなかったのである。

彼女に相談してみたはいいものの、どうやら随分と考え込んでいる様子。

うーん、仮にも騎士団の特別指南役になろうという者がこんな体たらくでは、あまり体裁もよろしくないのだろうか。

「……私の家に、というのはやはり駄目かなと」

「いやそりゃ駄目でしょ!?」

何を悩んでいるのかと思ったらそんなもんダメに決まってるでしょ。

うら若き騎士団長とこんなおっさんが同棲とか、控え目に言っても色々とヤバい。俺はそんなことで騎士団の評判もアリューシアの評判も落としたくない。

「ですが、騎士団はどうにもそういった領分には疎いもので。リサンデラのような冒険者の方が詳しいかと思いますよ」

「なるほど……言われてみればそうか」

確かに、各地を依頼で回る冒険者の方がそういう情報には詳しいかもしれない。

冒険者ギルドに立ち寄ったことはないが、まあスレナも是非寄って欲しいと言っていたくらいだ、頼めば宿くらいは教えてくれるだろう。

「今日中に宿を確保したいから、早速行ってくるよ」

「でしたらご案内しますよ。庁舎からはそう離れていませんから」

「ありがとう、助かる」

互いに椅子から腰を浮かせながら一言。

俺は荷物を背負い込み、アリューシアは帯剣の準備だけして庁舎を後にする。

「ここですね」

「本当に近いねえ」

で、やってきました冒険者ギルドレベリス王国支部。

マジで騎士団庁舎と近かった。庁舎のある通りからワンブロック向こうだったもんね。歩いて五分も経ってないんじゃないかな。

騎士団庁舎には及ばないものの、それでも首都バルトレーンではそこそこ大きい部類に入る建物だ。ぼんやり建物を見ている僅かな間にも、幾人か冒険者のような者が出入りをしているのが見られた。

ふむ、そこそこ繁盛している、ということかな。

「では行きましょうか」

「ああ」

初めて入る建物ってちょっと緊張するよね。

そんな俺の心持など露知らず、アリューシアは何の遠慮もなくスイーっと扉を開いて中に入っていった。慌てて俺も後ろを追いかける。

扉から中は大きなロビーのようになっていて、中央にカウンターがあり、その左右にはボードが、ボードの右奥に上階への階段が見える。

左側は歓談スペースになっているようだ。いくつかの丸テーブルと椅子が並べられ、何人かの冒険者が思い思いに過ごしていた。

流石冒険者、街行く人々と違ってそんな奇異の視線を投げる程……あっ今あいつ二度見しやがったぞ。多分アリューシアにびっくりしたんだろうな。

「失礼。"竜双剣"のスレナ・リサンデラをお願いできますか」

「は、はい。少々お待ちくださいませ」

アリューシアはそんな視線など物ともせずにカウンターへと足を運ぶ。

受付嬢と思われる人物は声を掛けられて、困惑と緊張が大きく出ているなと感じた。そりゃまあ普通冒険者ギルドにレベリオ騎士団長は来ないでしょうし。

しかも指名相手がブラックランクのスレナときた。何か大きな事件が動いている、と感じても何らおかしくない組み合わせである。

ま、実際はおっさんの宿探しなんですけどね。つれえわ。

「シトラス。下らん用事なら私は寝……先生!?」

「や、やあスレナ、昨日振り」

「下らなくはありません。ある意味で非常に重要な用件です」

若干の不機嫌を装いながら上階から降りてきたスレナ。だが俺の姿を見るや否や、その眼をカッと見開いて驚愕を露わにしている。

俺もまさか昨日の今日で会いに行くことになるとは思わんかったけどな。

ちょっと居た堪れない気持ちになってしまう。

「いやまさか、昨日の今日で来て頂けるとは思っていませんでした」

「驚かせてすまない。少し想定外の出来事が起きてしまってね」

「ふむ……立ち話も何ですから上にどうぞ。……シトラスも来るのか?」

「無論です」

いや無論もクソもないと思うんだけど。俺の宿についてちょっと都合をつけて欲しいってだけなのに、この面子は要らんでしょ。

何にせよ、上の階に行けるなら早く行きたい。

さっきから周りの視線がやべーんだよ。

レベリオ騎士団長を連れてブラックランクの冒険者にアポなしで突撃し、更にはその最上位冒険者が敬語で喋るおっさんという怪しさ百点満点の光景である。

アリューシアとスレナは気にしていなさそうだが、俺が超気にするんですよね。なので一刻も早くこの空間から脱したかった。

その空気を察してかは分からんが、スレナが階段を上りだす。

これ幸いと後を追って二階についてみれば、そこは一階のようなロビーではなく、真っ直ぐな通路の左右に部屋が伸びているような、そんな造りであった。

「ここだ、中は応接室になっている」

「勝手に使っていいんですか?」

「構わん、私が滞在中は基本的に好きに使っていいと許可も得ているからな」

「流石はブラックランク、待遇が違うね」

「いえ、これも先生の指導の賜物ですから」

どこら辺が? おじさん困惑。

「それで、何か用事があるようですが」

「ああ、それなんだけど――」

各々が席に着いたところで、アリューシアにしたのと同様の説明を行う。

これ言う方も結構恥ずかしいんだけど。マジであのおやじ。

「なるほど……そういうことならいくつか安くて質のいい宿を知っています。出来ればギルドに近い方が治安的にもいいでしょう」

「待ちなさいリサンデラ先生は今後騎士団庁舎へ通うのですそして治安の面でも私の家に近い方が何かと好つご便利です」

「何だと? それは些か業腹だな冒険者ギルドと騎士団庁舎は近いだろうそれなら利便性を考えてこの近辺にすべきだろうが」

まーた息継ぎなしで言い合い始めたぞこの二人。

どこでもいいから早く紹介して欲しいんですけど。

結局。

ひと悶着ありながらではあるものの。

バルトレーンで活動するための拠点が、ギルドや騎士団庁舎からはちょっと離れた場所に定まったのであった。