軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

255・狐とスイーツ

ねこかわいい。かわいい。にゃんこ。ねこ。にゃんこー……

……眼下の猫をしばらく両手でぐにぐにとこね回した後、ヘンリエッタは満足して「ふーー」と深く息を吐いた。

ウェルカムドリンクならぬウェルカムキャットとは、ホルト皇国の宮廷魔導師は気が利いている。午前中に会ったレイノルド皇にこういうナイスな気遣いはなかった。

……アポイントメントもなしで唐突に現れた要人に猫を差し出すのが正しいマナーかどうかという根本的な問題はあるが、しかしヘンリエッタは楽しかったので結果オーライである。

「……ありがとう。堪能させてもらった。で、本題だけど、アロケイルの留学生に関して、改めて詳しい話を聞きたい」

「ええ、応接室へどうぞ。ささやかながら、お茶菓子の用意もさせていただきました」

スイールすごいな? 魔族相手にこの距離感での落ち着いた対応は、なかなかできることではない。若くして宮廷魔導師になるだけあってなかなかの大物である。

……今のがただの「ウェルカムキャット」でなかったことは、ヘンリエッタも薄々察している。

スイールはおそらく、オズワルドと同様に「猫のような何か」と関わりを持っている。その何かは「猫を守る存在」であり「猫好きを守る存在」でもあるらしいので――今の猫モフりは「その存在を知る資格があるかどうか」のテストも兼ねていたのだろう。

ヘンリエッタもそのつもりで誘いに乗った。決して「ねこモフりたい」というあふれる欲望のままに目の前の猫さんへ流されたわけではない。たぶん違う。違うといいな。

……実際のところ、ヘンリエッタにとって今日の「本題」は、もはや留学生の云々ではなく、「猫のような何か」である。留学生の動向など、ことここに至っては会談の口実に過ぎない。

応接室には見知らぬ男子学生がいた。

年齢は十六歳前後……例のナイブズというアロケイルの王族は、確か二十歳を過ぎていた。つまり幼く見えるタイプなのかもしれない。

「もしかして、君がナイブズか?」

演技込みの冷ややかな眼差しを向けると、学生はたちまち首を横に振った。

「い、いえ! ネルク王国からの留学生で、クロード・リーデルハインと申します。スイール様に呼ばれて来ました」

……リーデルハイン、という家名には覚えがある。ウィルヘルムが「友好者がいる」として、魔族の侵攻予定地から外させた土地である。

「……ああ、なるほど。君がウィルヘルムの友人か」

「えっと……まぁ、そうですね……僕個人がそこまで親しいわけでもないんですが、確かに友人です」

スイールが少年の背を叩いた。

「この子はどっちかっていうとオズワルド様のお気に入りですね。弓の腕が卓抜しているので、狙撃手として話が合うみたいです」

魔族と接点のある人材を同席させる――別に牽制のつもりはないだろう。この機会に顔をつないでおこう、という意図だと思われる。

「ついでに、先程、同席していた私の内弟子、リルフィの 従兄弟(いとこ) です。あの子もリーデルハイン領出身なんですよ」

「エッ」

思い出した拍子に変な声が出た。

んんっ、と軽く咳払いをして、ヘンリエッタはクロードに握手を求める。

「……よろしく。魔族のヘンリエッタ・レ・ラスタールだ。ところで、リルフィって私がお茶とかに誘っても大丈夫な子?」

そんな度胸が自分にあるかどうかはさておき、せっかくの機会なので、身内から接触の是非について確認しておきたい。あくまでせっかくの機会なので。ほんとせっかくなので。深い意味はない。

「ど、どうですかね……? 仲良くしていただける分には大丈夫だと思いますが――」

よっしゃ。

身内の 言質(げんち) をとったことに満足して、ヘンリエッタは応接室のソファに腰掛ける。

それとほぼ同時に、隣からスッとグラスが出てきた。ぶどう酒……じゃないな?

「山葡萄のソーダでございます」

「ありがとう」

グラスを寄越したキジトラ柄の猫は一礼して、スイールやクロードの前にも同じものを置いた。

…………………………ん?

この一瞬で、ツッコミどころが二つ三つあったような気がする。

「猫じゃねぇか」「ソーダってなんだよ」「お前さっきモフられてにゃんにゃん鳴いてただろ」「なんで急に喋ってんだ」「給餌される立場の奴が給仕してどうする」……

さて、どれから処理したものかと思案する間もなく、猫はどこからともなく「茶菓子」を取り出した。

「こちら、ぶどうスイーツの三種盛り、巨峰のムースケーキとシャインマスカットのタルト、ピオーネのシュークリームでございます」

「は?」

なぜか自然体で接客する不自然な猫によって、有り得ない品々をさらりとテーブルに並べられ――ヘンリエッタは固まった。

巨峰のムースケーキは土台にビスケット、下層に薄くパンナコッタを敷き、中層に鮮やかな紫色の巨峰のムースを分厚く重ね、表面は光沢のある葡萄のジュレに覆われている。アクセントとして載せられた大粒の巨峰は二粒。香りも鮮烈な贅沢品である。

シャインマスカットのタルトは、いかにも香ばしそうなタルト生地の上に濃厚なカスタードクリームを盛り、その上に大量のシャインマスカットを盛りつけている。果実感が素晴らしい上に、それを彩る生クリームのデコレーションも美しい。見た目もゴージャスな贅沢品である。

ピオーネのシュークリームは一見するとただのシュークリームだが、ザクザクとした生地を上下に割り、その中にたっぷりと、暴力的なまでに大量のピオーネクリームと生クリームが混ぜ込まれている。砕いた果実の素材感も加わり、一目見ただけで「これは間違いなく美味しいやつ」と確信させられる。スイーツとしての説得力にあふれた贅沢品である。

「……は? いやいや……は?」

二百六十七年ぶりに見る前世スイーツの圧倒的な完成度を前にして、ヘンリエッタは頬を引きつらせた。

各種スイーツを並べた猫が、テーブルの脇で優雅に一礼する。

「この後、温かいお茶もご用意いたしますが、甘いソーダはお懐かしいでしょう。炭酸が抜けないうちに、スイーツとあわせてぜひご賞味ください」

「待って待ってちょっと待って。何にどう突っ込んだらいいのかわかんない。何これ? は? え?」

ついさっき玄関先で撫で回したキジトラ猫と、さっそくケーキを食べ始めるスイール、苦笑い気味のクロード達を交互に見て――ヘンリエッタは、さーーーーっと青ざめる。

『猫のような何か』

……それはもう、目の前にいた。

初対面の魔族に警戒心ゼロで腹毛をモフらせてくれる猫など、そうそういるわけがない。しかしモフみに目がくらみ、完全に騙された。

(この猫が……この猫が、オズワルドやアーデリアを 誑(たぶら) かし、昨今の異変に介入している謎の存在……!?)

…………にしては、少々ファンシーに過ぎる。

丸っこい猫はにこにこと愛想良く微笑み、胸元に肉球を添えうやうやしく一礼した。

「ご挨拶が遅れました! はじめまして、ヘンリエッタ様。 私(わたくし) 、リーデルハイン子爵家のペットにして、トマティ商会の社長を務めておりますルークと申します! 飼い主が今年からラズール学園に通い始めたため、こちらにはペットとして同行したのですが、その際、水精霊様のお導きによってスイール様とのご縁を得まして……」

めちゃくちゃ丁寧なご挨拶である。猫なのにしっかりしてる。

シャインマスカットのタルトをもぐもぐしながら、スイールが気の抜けた声を寄越した。

「ところで……ヘンリエッタ様のその衣装、格ゲーのキャラだよね? 『白狐の 柏葉(はくよう) 』だっけ? 覚醒技のレーザー乱れ打ちがやたら強くて、ガードしててもゴリゴリ削ってくる子――」

クロードもこれに続く。

「ヘンリエッタ様のそのコス、めちゃくちゃ完成度高いですね。さっきお会いした瞬間、『本物がいる!』って思いました。怜悧な顔立ちまでそっくりですし……」

ヘンリエッタは瞠目する。実は割とマイナーな作品なので、これまでに遭遇した転生者でも「え。知らん……」という反応をされることのほうが多かった。あとスイールが急にタメ口になったが、話題が話題なので気にならない。

「……えっ!? 有識者!? もしかして同郷!?」

思わず素の声で反応すると、スイールがニヤリと笑った。

「うん、同郷。もちろんクロードと、こっちのルークさんもね?」

「あ、私はゲーセンに出入りするよりスイーツ店巡りにお金をかけていたので、あんまり詳しくないです。なんとなく見覚えはありますけど」

この猫、スイーツ女子みたいなこと言ってるな? もちろん声はオスである。

三人……もとい二人と一匹の「転生者」を前にして、ヘンリエッタはますます混乱した。

「えええ……ええー……いきなり三人も……ええー……いや、ちょっと待って。どこ出身?」

「東京の限界OL」

「僕は、住所は憶えていなくて……長く入院してたようなイメージだけが残ってます」

「和歌山です」

和歌山の猫って喋るんだ……? そういや「たま駅長」って和歌山電鉄だったな……?

ともあれ、間違いなく広義の同郷と見ていい。

記憶が曖昧なのも転生者にはよくあることで、ヘンリエッタも自分の本名すら憶えていない。なのにゲームキャラとかレイヤーネームは憶えているあたり、業が深いのかなんなのか……

前世を引きずりすぎないように、個人的な情報をあえて一部消されている可能性もあるのだが、その一方で「単なる記憶データの転送エラー」という説もある。

「で、私とクロードはただの人間だけど、ルークさんは亜神だから、そのつもりでね」

……やっぱりかぁ。

昨年からの不可思議な事象の数々に関して、ヘンリエッタも「亜神の介入」を疑ってはいたのだ。ただ、亜神が『猫の精霊』などと自称するのも変な話で……その亜神が、まさか本当に猫の姿をしているとは想定外だった。

亜神というのは基本的に人型である。獣なら神獣で、本物の神は異形とされる。

「……もしかして猫さん、オズワルドと一緒に、レッドトマトの建国事業とかもやってる……?」

猫は大きく頷いた。

「はい! どちらかとゆーと私が企みを主導し、オズワルド様に協力してもらった感じですね。私はネルク王国を住処にしているのですが、レッドワンドが侵略してきたせいで、飼い主の父君が戦争に駆り出されてしまいまして……今後も数年おきにこういうことが繰り返されそうでしたので、レッドワンドには国としての在り方を改めてもらうことにしたのです。その初手として、トマト様の傀儡政権を樹立しました」

前半はいい。得ていた情報とも一致するし、「ネルク王国にとって不都合だから、レッドワンドを変革した」という筋書きは、スケール感はともかくとして理屈が通っている。

問題は……

「…………『トマト様の傀儡政権』って何?」

猫が驚愕に目を見開いた。

「ご存知、ないのですか!? かのお野菜こそ、この末法の世をあまねく照らし、亜神を下僕として世界を統べる、緑黄色野菜の王、トマト様です!」

狂気を宿した眼光にたじろぎつつ、ヘンリエッタは猫の頬をむにむにと引っ張った。

聞きたかったのは「トマト様」のことではなく「野菜の傀儡政権とはどういう意味か」という話である。

スイールがケタケタと笑った。

「ルークさんはね、おなかすかせて山の中をさまよった後、自分の能力で出したトマト様をそうとは知らずに食べて、その美味しさに感動して忠誠を誓っちゃったんだって」

「……忠誠? 野菜に? なんで?」

ヘンリエッタは戸惑うばかりだが、スイールは肩をすくめ、クロードは視線を逸らし、ルークはカッと目を見開いたままなけなしの威圧感を出している。かわいい。

「トマト様の覇道をなせば、ピザやパスタといったトマト様ソースの普及につながり、人々の栄養状態は増進、睡眠の質も向上、美容にも効果的で、動脈硬化の予防や免疫力の向上にも期待できます! ヘンリエッタ様も、こちらの世界にトマト様が存在しなかったことには、さぞ絶望されていたものと思いますが……どうかご安心ください! やがて世界がトマト様の御前にひれ伏し、耕作地の支配者たるトマト様はその大いなる恵みをもって人類をお導きくださることでしょう」

「安心できないんだけど? なんで植物に支配されるのが前提なの? え? ルークさんって亜神じゃなくて邪神系? トマト様って私の知ってるトマトのことじゃなくて、植物系の怪しい知的生命体か何か? 転がりながら人類を襲ってくるやつ?」

余計に混乱するヘンリエッタに、クロードが達観した穏やかな微笑を向けた。

「大丈夫です。何の変哲もないただのトマトです。ルークさんも信仰を強要したりはしませんし、美味しく食べている分には寛容です。粗末に扱ったり悪口を言ったりするとキレます」

怖。亜神の祟りポイントわけわかんなくて怖。

スイールが慣れた様子で猫の背中を撫でる。なんかもう「鎮まり給え」ってやってるようにしか見えない。

「ほら、前世でもお米には八十八の神様が宿ってたし、古代エジプトでも玉ねぎが神殿に奉納されたりしてたでしょ? あんな感じのゆるい信仰だから」

「『ゆるい』とは心外です! 私個獣の立ち位置としてはゆるキャラを目指しておりますが、トマト様への信仰に関してはガチです!」

そこはどうでもいい。古代エジプトの事例とかも普通は知らない。スイールは前世でも賢者とかやってた可能性がある。そんな職業あったっけ? あ、むしろ学者か。でも限界OLって言ってたな……?

クロードも困ったように微笑む。とりたてて美形ではないが、すごい包容力がありそうな雰囲気を醸し出している。転生者はその仕様上、肉体年齢よりも精神年齢が高めに出やすい。肉体が老いない魔族は例外である。決してヘンリエッタ個人が例外なわけではない。ヘンリエッタしか実例がいないというだけの話である。(詭弁)

「ルークさん、落ち着いてください。ルークさんの信仰心は疑ってないです。ただ信仰とは自らに内在させるべきものであって、外部に押し付けるものではない……と、いうのが一般的ですから」

うん。この世界でそれをやるとね? たまに出てくる亜神がブチギレて、カルト化したり権威化した「宗教者のための宗教」を殲滅するので……あと魔王様もそれをやるので、そもそも「信仰の強制」をやらかすタイプの宗教は存在できないという世知辛い事情がある。

トマト原理主義は危険思想なのか利権思想なのかリコピン思想なのかちょっと判断が難しいが、まぁあんまり変な布教活動はしないほうがいいとは思う。

……あー、でも主導してるのが亜神本人かぁ……そっかぁ……

クロードに 諭(さと) されたルークは 目力(めぢから) を弱め、照れ笑いを浮かべた。今のやりとりの中で照れる要素あった?

「ともあれ、この世界の大多数の人々がトマト様の素晴らしさを知るのは、まだこれからですので……ヘンリエッタ様にも、ぜひご協力いただけると幸いです!」

さも当然のように、わけのわからない事業の共犯者にされようとしている。「マルチ商法」とか「ネズミ講」という前世の単語が脳裏をよぎったが、猫がネズミ講を主催するのはちょっとおもしろそうで困る。でもたぶん「増やしたネズミを狩る」系のやべぇ業態になりそう。

スイールがなまあたたかい視線を猫に向けた。

「要するに、世界にトマト様を広めたいんだけど、その過程でトマト様が敬われて大事にされる流れでやりたい、ってことでしょ? 『レッドトマト商国』なんて国名もその一例だよね?」

猫が「いやいや」と肉球を振った。

「国のネーミングには私は関与していません。あの国名はトゥリーダ様を中心とする現政権の方々が、私のいない場で決めたことです!」

「でもそんな名前をつけられちゃったら、もうルークさんも全面的に支援せざるを得ないでしょ? トゥリーダ様はそこまで考えてなさそうだけど、パスカルさんとかは絶対、そのつもりで議論を主導したと思うよ」

猫がぺろぺろと手の甲を舐め始めた。反論できないと毛づくろいに逃げるらしい。

二人と一匹の会話を聞きながら、ヘンリエッタもとりあえず「巨峰のムースケーキ」をフォークで切り崩す。

柔らかなムースはさしたる抵抗もなく、きれいに分けられた。正直、「前世のケーキ」がどういうものだったかを、今はもうよく憶えていない。「巨峰のムースケーキ」など、前世でも食べたことがなかった気がする。

趣味でレイヤーをやっていたため、彼女の食生活は美容と効率重視でちょっとアレだった。鶏肉と温野菜とヨーグルトばかり食べていた気がするし、甘いものも寒天とか蒟蒻ゼリーとか、ローカロリーで食物繊維の豊富なものが中心だった。

つまり前世でも甘味にこだわりはなかったし、こちらに来てからは「そもそも砂糖がない」という環境だった。

(砂糖って……どういう味だったっけ?)

もはやそれすら憶えていない。

こちらの世界にも水飴や麦芽糖はあるし、甘い果物もある。一部地域でしか活用されていないが、甘草やステビアの近縁と思しき植物もある。

が、サトウキビは見たことがない。

フォークで突き刺したムース部分を、そっと口へ運び――

舌へ載せた瞬間、思い出した。

二百六十七年ぶりの、砂糖の味――これは合法的な薬物である。中世ヨーロッパでは実際、「薬」として使われていた時期もあったらしいが、そういう歴史的な意味ではなく――ヤバい。舌を通じて、何か変な成分が脳に届く。

さらに芳醇たる巨峰の風味が付加されていることで、鮮烈な爽やかさと共に郷愁まで刺激され、ヘンリエッタはしばし思考力を失った。

前世の連中(※自分含む)は、こんな劇物を当たり前のように常用していたのか――

思わず「ぴこん」と狐耳が跳ね、髪を押し上げる。

二人と一匹が揃って「あ」と驚く様子を見せた。

「えっ。ヘンリエッタ様、あの、その耳は……!?」

びっくりする猫に、ヘンリエッタは夢見心地(ややトリップ中)のまま応じる。

「あ、うん……私のお母さん、 白狐人(しろきつねびと) だったから」

白狐人は北方の辺境にひっそりと住む獣人だが、魔族――特にラスタール家とは集落ごと懇意にしており、純血の魔族だった父に見初められて結婚、二人の間に生まれたのがヘンリエッタである。

狐耳については、普段は隠しているのだが……魔力が高まった時や集中した時などに、ふと出てきてしまう。「驚いた拍子に」とか「油断して」という状況で隠蔽が解けることはない。体内で魔力が反応した時に開く、放熱板とかブースターのようなもの……と、個人的には思っている。実際、魔法を使う時につい耳が出てしまう白狐人は多いらしい。

ヘンリエッタは今、魔法を使おうとしたわけではないが、甘味を摂取した途端、体内で魔力が活性化したのを自覚した。これはもはやドーピングである。

猫が「ほえー」とヘンリエッタの頭部を見あげる。

「つまり、コスプレではなく自前のお耳ですか……?」

「……ネタ元の『柏葉』も、覚醒すると狐耳になるキャラだったよね。それを再現したわけじゃなくて、元からなんだ?」

「ん。そんな感じ」

このコスを好んでいるのは、むしろ「白狐人として生まれたからには!」と乗っかった感が強い。

ピコピコと狐耳を揺らしつつ、ヘンリエッタはケーキを貪り、山葡萄のソーダを味わう。甘いものと甘いものの組み合わせは背徳感がすごい。しかし魔族だから太らない。肌の調子にも影響しない。むしろ魔力は高まっている。マジやべぇ。

巨峰のムースケーキはひょいぱくひょいぱくとあっという間になくなり、フォークはシャインマスカットのタルトへと移る。まるごとの果実を一粒、口に放り込むと、品種改良の神から微笑とともにハグされる幻が見えた。初対面なのに距離が近い。

無心で食べ始めたヘンリエッタを見て、クロードが何かを察したようにルークへ耳打ちした。

「……コピーキャットのこと、まだ説明してないですよね……?」

「スイール様もそうでしたが、『まず食うのが先』ということでしょう……アロケイルの件は、おやつが一段落してからということで」

猫はそっとおかわりとお茶も用意してくれた。今度は葡萄スイーツではなく、せんべいとかあられとかしょっぱい系である。やさしい。

二百六十七年ぶりの前世スイーツ&米菓に舌鼓を打ち、ヘンリエッタはぼんやりと「あ、これもう完全に絡め取られたな……?」と、諦めの境地に至るばかりだった。