作品タイトル不明
174・神輿と信仰は軽めがいい
猫さんが選ぶ! 第一回! 「猫に対する信仰が重い人」選手権!
はい、唐突に始まりました今回の企画。
猫力とはまた別に、「ルークさんに対する(間違った)信仰」が妙に強い方達を大発表!
いちいち引き伸ばすのもアレなので、さっそくベスト5から!
第5位、セシルさん! リーデルハイン子爵家の猟犬であり、先住のペット様……しかし俺を『王』と認め、初対面で絶対服従を誓われてしまった……まぁまぁ重い。あとモフい。
第4位、カブソンさん! 彼は迷宮の管理人……もとい管理カワウソにして、亜神ビーラダー様の元ペットなのだが、そのビーラダー様はたぶん俺と同郷の亜神であり……なんかこう、ビーラダー様とほぼ同格か、戦力的にはそれ以上の存在だと思われていそうな気がする……こんなにかわいい猫さんなのに。やっぱりハイパーネコ粒子砲のせいか……?
第3位、シャムラーグさんとメテオラの皆さん!(※ソレッタちゃんやキルシュ先生も含む) 複数でのエントリーとなってしまったが、あの方達はなんか俺を普通に神様扱いしてくる……猫地蔵様への信仰とごっちゃになってる感もある。でもまぁ落星熊さんのこともちゃんと信仰してくれているのでその点は良い。
第2位、リスターナ・フィオット子爵! 脅威の新人! 「ホルト皇国の外交官」という立場でありながら、意外なダークホースがいきなり2位に躍り出たぞ!
第1位、宮廷魔導師ルーシャン様。残当。
備考であるが、リルフィ様は重くない。そもそもリルフィ様がお持ちなのは信仰心ではなくペットに対する博愛の精神なので何も問題ない。ないったらない。
………………いや、現実から逃避して長々と遊んでいる場合ではなかった。
リスターナ子爵……説得して味方に引き入れたかった人材なのは確かだが、なんか、こう……こっちの想定と違うな? 決断が早いな? あとなんか変な信仰心に目覚めてるな?
――どうもホルト皇国の人達の「純血の魔族」とか「亜神」に対する認識は、ネルク王国の人々よりもだいぶセンシティブというか……
こっちでは「亜神でーす」「わー、すごーい」ぐらいなのが、向こうでは「亜神でーす」「ひいいっ!? お慈悲を! お慈悲を!」ぐらいの温度差がありそうである……
皇家が亜神の血をひいているという話だったし、国家的にも亜神を特別視する教育が行き届いている可能性が高い。この人も猫力はそこまで高くなかったので油断していたが、猫力はそこそこでも、「亜神」に対する畏敬の念はだいぶつよつよであった……
とはいえこちとらかわいい猫さんなので、あまり大袈裟に扱われると困ってしまう。俺はもっとファンシーな存在でありたい。トマト様と一緒に携帯のストラップとかになって女子高生のカバンなどに吊るされる系の概念でありたい。ぜいたく? じゃあカプセルトイの景品でもいいや……
――逃避を切り上げて、俺は平伏するリスターナ子爵のお手々をてしてし。
「あ、頭をあげてください! 私はそーゆー、人に信仰を求めるタイプの亜神ではないので! あくまでトマト様の普及を目指しているだけのファーマー系猫さんなので! 別にホルト皇国をどうこうしようとか微塵も考えてませんし、むしろ仲良くやっていきたいなー、ということで接触させていただいただけでして……!」
慌てふためく亜神を背後から抱えあげ、クラリス様がためいき。
「もう、ルークったら……リスターナ子爵、すみませんが、ルークが困っているので、普通にしていただけると助かります。うちのルークは確かに亜神です。でも、さっきも言いましたが、本人はペット扱いと平穏な生活を望んでいますので……私達はまず、お互いのことをよく知る必要がありそうです。外交の初手も、まず相手を理解する努力から始めるべきですよね?」
クラリス様のお言葉を受けて、リスターナ子爵がおずおずと頭をあげる。
「それは……はい。その通りです。しかしながら、外交とはあくまで『人間同士』『国同士』のもの――神々と人との対話ならば、それは外交ではなく信仰の分野かと思いまして……」
「同じことです。相手が神様だろうと、まずはその先入観を抜きにして、どうかルーク個人のことを理解してあげてください。もちろん今すぐでなくて大丈夫です。これからゆっくり関わっていけば、ルークがどんな子なのか、リスターナ子爵にもちゃんとわかるはずですから……ルークもそうやって、リーデルハイン領から少しずつ、人の輪を広げてきました」
クラリス様はたおやかな微笑をまじえ、心に染み入るような優しい声を紡がれた。
……俺、ほんとにすごい方に拾っていただいたな……? 宴会芸の腹踊りでアピールしようとしていたどっかの猫より、クラリス様のほうがよっぽど神様感あるな? もはやコレ託宣では?
仕切り直して、お昼ごはんの続き。
「まぁぶっちゃけ、ホルト皇国とは普通に仲良くしたいんですよね。レッドワンドへの対応では割と忙しい思いをしたので、しばらくのんびりしたいですし……あんまり厄介事に首を突っ込むつもりもないので、ホルト皇国側には私の存在を伏せてください」
「は。それがルーク様のお望みであるならば、承りました」
リスターナ子爵、素直。でもまだ固いし重い……
なんか共通の話題でもないかなー、と思っていたら、先に向こうから振られた。
「……ところで、本日のウィルヘルム様からの呼び出しにつきましては……私への事情説明が目的だったということでよろしいのですよね……? あの、書状の上での名目は、留学に関する説明と仲介の依頼ということでしたが……」
あっ!
「いえ! そちらも実は本当なのです。きっかけは王弟のロレンス様でして……実は、ホルト皇国への留学をご希望されています。といっても強めのご要望ではなく、現時点では『もしも可能であれば、検討して欲しい』という感じなのですが……今回のレッドトマトとネルク王国の動きで、ホルト皇国側に不信感をもたれるのは避けたいので、外交的なメリットも含めて、ロレンス様に留学していただくのはアリかもなぁ、と思案しているところなのです」
リスターナ子爵が外交官の目に戻った。
「ほう、ロレンス様が…………えっ!? ロレンス様が!? いや、しかし、先程のウィルヘルム様のお話によれば、ロレンス様は次の国王になられるお方では……」
さすがにびっくりしたようである。手紙では「留学を希望しているのは知り合いの貴族の子女」みたいな感じにボカしてたからな……
「はい。今後、リオレット陛下が引退したら、次の国王になるのはロレンス様です。なので、留学をするなら早いほうがいいのですが……そもそも我々はホルト皇国のことをよく知らないもので、まずは有識者であるリスターナ子爵から、現地の話や助言をいただこうと!」
「なるほど、そういうことでしたか……ルーク様は、ロレンス様とも親しいのですか?」
「はい! ロレンス様はたいへん利発な方ですので、学力や素行面ではまったく問題ないかと思います。それから……場合によっては、私の飼い主であるクラリス様も、御学友として同じ学校に通うかもしれません。その時は当然、私も現地にお邪魔します」
リスターナ子爵が、緊張の眼差しでごくりと唾を飲んだ。
「ル、ルーク様が……我が国に……」
「定住はしないですよ? 主の送り迎えと護衛が目的です。私はあくまでリーデルハイン家のペットですので! ただ……ネルク王国の王族や貴族が現地に行って、差別されたり悪い扱いを受けたりする環境だった場合には、お互いにとってあまり良くないことになりそうなので……そういうセンシティブな部分についても、現地に詳しい方からあらかじめ、確認しておきたいのです」
リスターナ子爵がまた蒼白になった。う、ううむ……俺的には割と当たり前の話をしているつもりなのだが、この人のフィルターにかかると「遠回しな脅迫」に聞こえてしまうのかもしれぬ……
「いえ! け、決して、そのようなことは……! しかし、あの……皇都の人々も所詮はただの人間ですので、もちろん善人も悪人もおります。ですから、同世代の学生に、質の良くない者が混ざる可能性も当然ありますが……ネルク王国や他の国々と比して、そういう者が極端に多いわけではありませんし、他国の王侯貴族に無礼を働くような輩は、真っ先に退学処分となります。また、他国の王族からの留学を受け入れる『皇立ラズール学園』は、その広大な敷地内に街としての機能を有しており、外部へ一切出ることなく生活が可能です。関係者以外は立ち入ることもできませんし、ここに関してはネルク王国の王立士官学校以上の安全性が確保されているものと考えます」
……街としての機能……? それはもしや、ラノベの定番舞台、憧れの学園都市……!? こっちの世界にも実在するの!?
思わず猫の目がキラキラしてしまったが、そこに通うのは俺ではない。あくまでロレンス様とクラリス様(予定)である。とはいえ敷地の片隅に住み着いた野良猫ポジションで女子高生にモフられる俺得展開はぜひ差し込んでいただきたい。
……あー。でも差し入れられる餌が猫用になるのか……やっぱ保留で。
ともあれ、クラリス様の留学に関しては……友人同士の多少のトラブルくらいは仕方ないと思っているし、そこまで神経質になる気もない。ただ、政治的な厄介事とか犯罪的な謀略とか、そういうのが発生した場合には猫も遠慮なく介入する。
その後、リスターナ子爵から留学制度や現地の環境についていろいろとうかがったが、要約すると……
「ラズール学園内はほぼ独立した自治領」「代々の学長は皇族が務めており、貴族でさえ介入は難しい」「学生や教職員、その他の関係者を含めると、学内だけでおよそ十万人の人口を抱えている」という、馬鹿げたスケールであることが判明した。
……完全に街だな? 呼び方や制度は違うが、学生の年齢層的には小中高大学、さらに大学院やその先の研究機関までをも含めた数字なので、まぁ有り得ない話では……
ちなみに前世だと、「筑波研究学園都市」の人口がだいたい二十万人~二十五万人くらいである。ただしこれは「地域住民」を含めた数字だし、学生以外の研究者・企業関係者も多いので、単純に比較はできない。
「さすがに学生数は、せいぜい三万人から五万人前後だったはずです。教員が三千人前後、卒業後も留まっている研究者が五千人前後、他にも事務や購買、管理運営などに関わるその他の職員がいて……あとは、学園との雇用関係がない自営業者や商会……いわゆる店舗運営者や労働層、その家族なども多少は住んでおります。学内警察、学内消防、学内病院など、街に必要な設備もありまして、そうした関係者もひっくるめて、学内人口十万人前後ということですね」
規模感としては、充分りっぱな学園都市である……
てゆーか学生数の三万~五万っていうのもだいぶ幅があるな?
「学生として学びながら働いている者もおりますし、どちらが主軸だか、よくわからない者もいまして……教員数やその他の数字も私が通っていた時代のものですので、現在の正確な数字はよくわからないのです。まぁ、そう大きく変化してはいないはずですが……」
この皇立ラズール学園、「土地や建物の個人所有は不可。すべて学園所有の土地」「街側よりも厳しめの学内条例が多く、違反すると罰金を課せられたり学外に追放されたりする」、あと「野良猫というか学内猫は普通にいる(ネズミ対策)」とのことで、ルークさんが歩き回っても問題なさそう。ネズミはとれねぇけどな!
ついでに「学内に畑とか作れます?」と聞いたら「……農耕系の部活動や研究会はありますが、個人ではちょっと……」とのことだったので、ここは密造畑で対応……いえ、やらないです。聞いてみただけです。ほんとにやらないです。フラグじゃないです。
話しているうちにリスターナ子爵の緊張もようやくほぐれてきたようで、話題が広がってきた。
「留学予定はクラリス様とロレンス様、とのことですが……そちらのリルフィ様はよろしいのですか? 成人した魔導師が通う研究機関などもありますが――」
「い、いえっ! 私はそういうのは……!」
リルフィ様が慌てて頭を横に振り、クラリス様が優雅に食後の紅茶を傾ける。
「リル姉様にはルークと一緒に行動してもらうつもりですから、ルーク次第ですね。向こうに行ってから、リル姉様の興味を引くところがあれば……でもその前に、私の留学に関してもお父様からの許可がまず必要なので、どうなるかはわかりません」
リスターナ子爵が首をひねる。
「おや? ライゼー子爵は反対されているのですか?」
「いえ、父は今、多忙なので、まだ相談できていないのです。私が留学に興味をもったのも、あくまでここ数日での話なので……最初は、折を見て母が相談してくれることになっています」
「ああ、そうでしたか。しかし、ライゼー子爵ならばきっと、これ幸いと許可をなさるでしょうな」
…………うん? いや、まぁ、可愛いクラリス様の理路整然とした説得に負けて、最終的には折れるだろうとは思っているのだが――実はルークさん的には「けっこうゴネそうだな……」と予想していたりする。
なのに部外者のリスターナ子爵が、「これ幸いと許可」という見解に至った理由が解せぬ。
「それは……何か根拠が?」
問うと、リスターナ子爵は「あ」と少し戸惑う顔つきに転じた。
「えー……これは、私の立場ではまだ真偽を確認できていないのですが……リーデルハイン領で、『新規の迷宮』が見つかったという極秘情報を入手しております……いえ、まだ噂のようなものですが……」
……やっぱホルト皇国の諜報網は優秀だな……? 現在、まだ上位貴族にしか伝わっていないはずの情報が、他国の外交官にもう漏れている……どうせ来年には公式発表される話だからまぁ良いが、防諜関係はもう少し見直したほうが良いかもしれぬ。
「それは事実ですが……そのこととクラリス様のご留学に、何か関係が?」
「やはり本当でしたか……ええと、つまり、体裁の良い『緊急避難』ですな。他国へ留学中であれば、他の貴族からの見合いや婚約の話を、この『留学中』という理由だけで完全にシャットアウトし保留にできます。戻ってくるまでの時間稼ぎではありますが、その間に相手を吟味できますし、もしもクラリス様に意中の相手などができれば、ライゼー子爵はそちらを優先されるのではないかと……」
猫は愕然とフレーメンした。
……そ、そんなとこにまで影響するのか、迷宮……!
いや、そりゃそうだ。クロード様の婚約で意識が逸れていたが、クラリス様はむしろ『これから婚約する』相手として適齢期……そしてクロード様の婚約が成立した以上、残るはクラリス様である。
仮にクラリス様がお嫁に行く場合、「リーデルハイン家との縁ができる」だけで、ダンジョンの利権にまではつながりにくいが、それでも意味はあるだろうし――「クラリス様を通じてリーデルハイン家に婿入りする」、もしくは「移住する」場合には、領主のライゼー様、クロード様に仕える立場にはなるが、これも下級貴族にとって立身出世の大チャンスだ。
公爵家や侯爵家の家を継げない次男坊、三男坊なども蠢くはずである。
そもそもリーデルハイン家は近く「伯爵家」になるわけで、もはや傘下に「子爵」や「男爵」がいるべき立場……
ヨルダ様は嫌がりそうだが、クロード様とサーシャさんの結婚直前に、グラントリム家にも男爵家になってもらう流れになりそうな気がする。猫の予感は割とよくあたる。
我が飼い主、クラリス様はしばらくびっくりした顔をされていたが、色々と腑に落ちたのか、リスターナ子爵に向けて軽く会釈をした。
「ありがとうございます、リスターナ様。たいへん良い気づきをいただきました。そうですね……ネルク王国国内の学校は、今の私にとってあまり良い環境ではなさそうです」
……クラリス様が気づきを得た……すなわち「理論武装完了」である……ライゼー様は論破される……(確定した未来)
「ところで、留学の件なのですが……この後、ロレンス様ともきちんと相談しないといけないのですが、もし可能だとしたら、最短でいつ頃の入学になるでしょう?」
俺の問いに、リスターナ子爵は泰然と一礼。
「は。制度上の話であれば、現地で希望すれば即時に入学可能です」
え。
「そ、即時ですか……? あれ? 事前の手続きとか、学力試験とか、入学の可否を審議したりとか、そういうのは?」
「通常はありますが、私の『推薦状』とともに申請を出せば、それらの手続きは免除、あるいは後回しにできます。これは外交官の特権というか、各国の諸侯と円滑に『外交取引』をするために与えられた交渉用の手札でして……私が後見人の立場になり、何か問題が起きれば責を負うという約束の上で、特例の入学許可を得られるのです。この推薦状がない場合には、事前の入国審査や入学試験、資産の調査や学費の前払いなど、 煩雑(はんざつ) な手続きが必要になります」
……この人を味方に引き入れるという判断は、やはり大正解だったようである。
「もちろん、まず現地につかなければこの申請も出せませんので、移動期間はネックになりますが……おそらく、魔族のウィルヘルム様に転移魔法を使っていただくご予定ですよね?」
「そうですね。必要のない旅路で事故とかに遭っても困りますし、リスターナ子爵にも一緒に転移していただこうと思っています。ただ、リスターナ子爵が上層部に帰国の報告をする時に、なんらかのごまかしというか、旅程に関する言い訳が必要になってくるとは思いますが……そのあたりもまぁ、おいおい考えましょう。ちなみに、学校の新年度の開始っていつですか?」
「ネルク王国と同じく年明けからです。とはいえ年始早々ではなく、月の半ばに入学式があり、その後に講義の登録や抽選などを経て、本格的に授業がはじまるのは二月からになりますが……推薦状があれば転入は容易ですので、夏頃でも大丈夫ですが、もし『他の新入生達と同時期に入学したい』ということであれば、来年の初頭か、再来年の初頭か、そのあたりがおすすめではあります」
これについては、改めてロレンス様との御相談も必要であろう。
いっそ今、リスターナ子爵をロレンス様のところへ連れて行って、打ち合わせをしても良いかも知れぬ。ついでにロレンス様の現在の教育係、「ペズン・フレイマー伯爵」への、ルークさんからの自己紹介も済ませてしまおうか……
「リスターナ子爵、本日、この後のご予定は何かありますか?」
「いえ、特に何も。書類仕事というか、各種情報の収集と精査をおこなうつもりでしたが……ルーク様の存在を知った今、その必要も特になくなりましたので、空いております。夜会等の予定もありません」
「それではぜひ、王弟のロレンス様をご紹介したいです! 一緒に来ていただけますか?」
俺の提案に、リスターナ子爵は深々と一礼を返す。
「は! ルーク様の御心のままに」
やっぱりちょっと重いな……?
もうちょっと軽めの扱いでお願いしたいな……?