軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

130・見守りペットカメラ(人間用)

「お嬢様方、本日のスイーツでございます」

給仕の猫がローテーブルの上にそっと並べたるは、甘酸っぱいラズベリーのチーズムース。

香ばしいアーモンド風味の生地の上に、果実感を残したラズベリー風味のチーズムースを載せ、ラズベリーソースと苺風味のスポンジを間に薄く挟み、真っ赤なカシスソースのグラサージュ(糖衣)でお化粧をした逸品である。

ケーキの上には、生のラズベリーを二粒ずつ。

大量にてんこ盛りするのも美味しいものだが、少量だとより上品に見えるし、この二粒をどこかのタイミングできちんと味わう流れができる。

もちろん真っ先に食べてもいいのだが、「本物の果実」を一粒ずつ単体で味わう流れができることで、ケーキに宿った「本物の果実以上に濃い、果実の風味」を実感できるという、心憎い演出意図がある。

まぁ、ケーキ職人だった先輩の受け売りなんですけど。

というわけで、宝石のような光沢を放つラズベリーのチーズムースをお嬢様方に召し上がっていただきながら、我々は「キャットシェルター」の大窓に映し出された「ダンジョン調査隊」の動向を見守っていた。

ケーキを食べながら、神官見習いのハズキさんが声を震わせる。

「ううぅ……ル、ルーク様は悪いねこさんです……もう私、こちらのおやつなしの生活なんて考えられない体にされてしまって……おいしい……なんでこんなにおいしいんですか、これ……」

古代クマ遺跡の工事期間中、ハズキさんにはもう何度もこの手のケーキ類をご提供しているのだが、ほぼ毎回この反応である。

なまじ料理技能が高い分、スイーツに対する味覚も鋭敏で、刺さりすぎてしまったらしい。

魔導師のシィズさんも我がスイーツの前には全面降伏であったが、ハズキさんの場合はちょっとだけ人生観をも変えてしまった感がある……

ちなみに現在、「ケーナインズ」は、リーデルハイン家からの依頼によってダンジョンの調査を請け負い――その縁で冒険者ギルドからも、引き続き「調査隊の道案内を任された」という流れで動いてもらっている。

そして神官のハズキさんだけは、いざという事態に備えた連絡要員として、リーデルハイン領の町に残ったことになっているのだが――

実際にはこうして、竹猫さんのカメラ中継を通し、我々と一緒に調査隊の動きを見守っている。

先日、山地に踏み込んだ調査隊は、山中で一夜、辿り着いた有翼人の里で一夜を過ごし、今朝になってようやく「ダンジョン」へと辿り着きつつあった。

ヨルダ様と並んでダンジョンまでの道を歩くのは、トリウ伯爵の部下の騎士、フォーグラスさん。彼が今回の調査隊の隊長である。

騎士にしてはやや太り気味のおっちゃんであるが、ぶくぶくとした肥満体ではなく、がっちりとしたガテン系のイメージ。背は低いが肩幅が広く、胴回りも腕回りも太い。

割と気のいいおっちゃんらしく、冒険者のブルトさん達に対して 居丈高(いたけだか) になることもなく、ヨルダ様とも普通に親しげだ。

トリウ伯爵が派遣してきた人材だけに、もともと心配はしていなかったのだが、ちゃんとした人のようで一安心である。

彼らとケーナインズはこれから数日間、有翼人の里に滞在しながら、ダンジョンの入り口付近を調査し、内部にいる魔物の傾向やダンジョンの特徴などを調べることになっている。

――ちなみにであるが、こちらのダンジョン、実はもう一度は制圧済み。

状況確認、および瘴気の拡散を防ぐために、クマ遺跡の製作に入る前の段階で、我々とケーナインズで乗り込んだのだ。

財宝目当てではなかったので、雑魚も宝物も無視してサーチキャットさんで最短ルートを割り出し、途中でカブソンさんとも再会しながら、無事に最下層のボスを倒したのだが――

長く放置されていた割には、あっさりとしたボスであった。

というのも、ダンジョンに出てくる魔物というのは「付近に住む生物」の恐怖心や負の感情が強く反映されるらしく――古楽の迷宮でも『バイオラ&チエラ』という実例があったが、あれには「領都オルケストに住む人々の、魔物に対するイメージ」が影響していた。

そして最下層のボスも、「いろんな悪夢がごちゃまぜになって飽和した、なんだかよくわからないモノ」になってしまっていたのだ。

ひるがえって、ドラウダ山地の場合。

なんといっても、ここには「人」が住んでいない。リーデルハイン領まではけっこう距離がある。

獣はいるが、近隣に関しては落星熊さんがわざわざ見回りをしてまで排除していたし、人口ならぬ獣口密度も低かった。

結果、どうなっていたかとゆーと――

瘴気は濃く溜まっており、獣型の魔物もいっぱいいたのだが、肝心のボスの形状はなんとただの「木」であった。

もちろん本物の木ではなく、大樹のような形状に転じた瘴気の塊だったのだが、あっさりそのまま焼却処分。

周辺の瘴気の量も減り、有翼人さん達の集落も安全を確保できた。

この状態を今後も維持するためには、ダンジョンの継続的な攻略が必要であり――その意味で、今回の調査隊からの報告は重要である。

たとえばその報告が、「いい資源やお宝がありそう!」という内容ならたくさんの冒険者が来てくれるだろうし、「ハズレじゃねーか」と判断されたら誰も来ない。

人数が増えすぎても受け入れ側の集落がパンクしてしまうので、加減が難しいところではあるが……

一応、あんまり人数が増えそうなら、冒険者ギルド側での選考や抽選を経た許可制にするという策もある。そこらへんは報告後にギルド側で考えてくれるであろう。

さて、この迷宮の名は「禁樹の迷宮」という。

これは製作者のビーラダー様がつけていたものである。入り口の石碑に魔力を注いだら、地下階段へと続く石の蓋がゴゴゴゴゴと開くのと同時に、石碑に文字が浮かび上がったのだ。

こちらの迷宮、内部の壁が「樹皮」のような素材でできている。

伐採された木材とかではなく、壁の素材感が木の幹と同じなのだ。

まるで大木の内側に、蟻の巣のような通り道が自然に形成されたかのような……

カブソンさんいわく、『本物の樹皮ではなく、魔力や瘴気の産物』とのことだが、ちょっと不可思議な空間である。

「あ。入り口に着きましたね」

午前中から優雅にケーキを食べながら、我々は中継モニターと化した窓へ視線を向ける。

本日の調査隊見守りプロジェクト。

参加者はクラリス様、リルフィ様、ピタちゃん、メイドのサーシャさん、神官のハズキさんに加え、特別ゲストとして「王弟ロレンス様」と、おつきの女騎士であるマリーシアさんも一緒である。

魔族のウィル君や魔導師のアイシャさんは、王都側にて別のお仕事中。特にアイシャさんは王立魔導研究所を空けがちだったため、いろいろと……うん。おつかれさまです……

なお、特別ゲストのロレンス様が『禁樹の迷宮』を見るのは、これが初めてである。

姿を隠した竹猫さんからのライブ映像に眼を輝かせつつ、ロレンス様は膝上に陣取る俺の背中を撫でた。にゃーん。

「あの入り口を守る石の砦も、ルーク様が作られたのですか?」

「はい! 『古楽の迷宮』の砦よりはだいぶ小さめですが、一階を衛兵と冒険者ギルド職員の詰所にしつつ、二階を宿泊可能な生活空間にしてあります。生活用水は集落側から運ばないといけないのですが、砦の強度は大半の獣に対して充分な水準です。さすがに落星熊さんの全力だとダメですけど……」

あの熊さん達はさすがにね……たとえばでかい岩を質量兵器として投げつけられたら、この砦でもさすがに無傷とはいかぬ。

なお、砦の作り方であるが、まずはガイアキャットさんで必要な範囲を平面に 均(なら) して大規模造成、しかるのち、設計図を作成した上で建設業『 雉虎組(きじとらぐみ) 』の方々に丸投げした。

現場監督はブルトさんにお願いしたが、ニッカポッカや作業着姿の職人ならぬ職猫さん達が、大群で手際よく労働する光景はなかなか壮観であった。遺跡のほうも含めると、それこそ「大阪城の 普請(ふしん) かな?」的な……

今回はなかなかの大規模工事であったが、しかし雉虎組のインフラ整備能力はまだ未知数である。

ゆくゆくは大規模テーマパークとか海上都市とかスペースコロニーとか、できそうな気がしないでもないが……

カメラの向こうでは、ダンジョンの入り口を前にしてフォーグラスさんが周辺を観察していた。部下の騎士さんには絵心があるようで、その場で携帯用のお絵描きセットを用い、立ったまま報告用のラフスケッチを描き始める。

『これが報告にもあった砦か。ずいぶん状態がいいな? 二階建てで、広さは……一般的な家屋の二、三軒分ってところか?』

『 厩(うまや) も含めればそのくらいだな。有翼人の集落で、代々整備をしてきたそうだ。先行調査の都合で、俺らのほうでも少し手を入れた。簡易寝台は揃えたし、倉庫には鍵もつけてある。一般的な砦と同程度には使えるぞ。ただ、水源がないから水だけは下の集落から運ぶ必要がある』

ヨルダ様がそう応じれば、ブルトさんもすかさず補足説明をいれる。

『ダンジョン内にも泉があったので、そっちから運ぶって手もありますが……魔物も出ますし、構造が変わるたびに泉の位置も変わるんで、常用するのは難しそうです。あと……塩分が含まれていて、けっこう塩気があります。有翼人達もこの水から塩を作っているので、今後も迷宮には自由に入らせて欲しいと――その見返りに冒険者達の滞在も受け入れるという条件で、ライゼー様が話をつけました』

『ほう、山塩ってやつか』

キルシュ先生の想定問答集の成果が続く中、フォーグラスさんが驚いたように唸った。

海と違って山で「塩」を得るのは、なかなか難しい。が、方法自体はいくつかある。

有名なのは岩塩の採掘。ただし、ないところではどうにもならぬ。

次に野生動物の血。衛生面とか寄生虫とか言ってられない状況下では、血液に含まれる塩分も貴重である。肉食動物な猫さんとかは、ここから確保できる微量の塩分だけで充分だったりする。むしろ塩分過多は敵。

そして、フォーグラスさんが言った「山塩」とゆーのは、地下水に含まれる微量の塩分を抽出したものだ。

効率は湧き水の成分に左右されるが、舐めて塩気を感じるレベルならば、そこそこの量の塩をとれる。

仮に海水レベルの濃さだと、蒸留しない限りは飲用にできず、冒険者にとってはまぁまぁ不便だが……それでもないよりはマシであろう。

また、前世にも「塩生植物」という塩に強い植物があった。塩分濃度の高い地域に適応したそれらの植物には、土中のミネラルを吸い上げる性質がある。

代表的なのは「アイスプラント」などで、これらから塩分を確保するという手段もないわけではない。

……が、そういう植物が生えている場所は「そもそも水や土に塩が混ざっている」ことが多いため、そっちから塩を確保したほうが手っ取り早いよね、っていう……「塩が多い環境に適応してそう進化した」わけだから、まぁ当たり前といえば当たり前の話である。

これらの植物をまったく塩気のない環境に植えたとして、そこから塩分を生み出してくれるわけではない。ごく微量の塩分を吸い上げて濃縮して……という流れは有り得るが、これで賄える塩の量など微々たるものである。

ただ、こちらの世界にも一応、「塩を溜め込む性質を持った植物」は存在しており、一部の地域では便利に活用されている。

実はこちらのダンジョン内の泉周辺にも、そんな感じのキノコが自生していた。黒帽子キノコとは別種で、市場価格も安めではあるが、割とおいしかった。(実食済み)

――ちなみに現在、有翼人の集落で消費している塩は、もちろんルークさんがコピーキャットでご用意したものである。

山塩? ダンジョンにある泉の水を運ぶとか大変ですし……今後は「滞在する冒険者から得た収入で、普通に塩を購入」という流れになっていくはずだ。

有翼人さんは製塩とかしている暇があったらトマト様の栽培に勤しむべき(横暴)

しかし、ダンジョンで塩がとれるよーになっていたとはなぁ……亜神ビーラダー先輩的には、これは偶然の産物だったのか、それとも明確な仕様だったのか……? 判断はつかぬが、まぁ偶然であろう。

もしも泉質まで自由自在だったなら、温泉とか用意しておいてくれそうなものである。秘湯ダンジョン温泉とか日本人が一番好きなやつ。

映像の向こうでは、フォーグラスさん達が迷宮へと続く地下階段を下りていく。

前衛はヨルダ様とブルトさん、その後ろにフォーグラスさんと騎士一名、真ん中に魔導師シィズさんと剣士バーニィ君、狩人ウェスティさん。その後ろに残りの騎士達四名という布陣。

バックアタックを警戒して後衛を厚くしつつ、前衛には狭い通路で動きやすい程度の余裕を確保し、魔導師+狩人という遠隔攻撃要員を前後どちらの戦闘にも即応できるよう中衛に置いた、なかなか合理的なシステムである。

剣士のバーニィ君も真ん中にいるが、彼は前にも後ろにも行けるよう臨機応変に立ち回りつつ、シィズさん、ウェスティさんの防御を担う役だ。

その編成を見つめて、ロレンス様が小声で俺に囁いた。

「……古楽の迷宮では、全滅しかかっていましたが……こちらの迷宮には、バイオラとチエラのような危険な魔物はいないのですか?」

「深層に行くと手強いのもいますが、あそこまでホラーちっくなのは、今のところ見かけていませんね。熊とか狼とか鳥の形状を模した魔物が多そうな感じです。今回はヨルダ様が前衛にいますし、探索範囲も入り口周辺だけで、下には降りない予定ですから――まぁ、大丈夫でしょう。念のため、こっそり護衛もつけてあります」

「今回は、足手まといの私もいませんしねー……」

ハズキさんが苦笑いをしながら自虐。

『古楽の迷宮』では、彼女を庇って狩人のウェスティ氏が重傷を負い、そこから先は逃げることすらできず防戦一方となっていた。ハズキさんにはそれがトラウマになっているっぽい。

それでも「自分用の楽器」は欲しいから、心が折れてまではいないようだが……やはり仲間の足を引っ張るのは嫌なのだろう。そもそもこの子はダンジョン向きの人材ではない。人には向き不向きがある。

「ハズキさんは戦闘要員ではないから仕方ないですよ。そもそも、楽器さえ手に入ればもう迷宮に潜る必要はないんですよね?」

「そうですね。ブルトさん達ともそういう契約です。オルケストには、私みたいな神官がけっこういまして……楽器と演奏者を確保したい教会側でも、神官が所属しているパーティーにはいろいろな支援策を講じてくれているんです。教会と縁の深い宿や賃貸住宅、飲食店での割引とか、武器防具のレンタルとか、神官がいるパーティー限定のお小遣い稼ぎみたいなクエスト依頼とか……」

ハズキさんは、我々にその「契約」の詳細を教えてくれた。

神官が在籍しているパーティーは、聖教会からの優遇措置を受けられる。

ダンジョンで楽器を見つけた場合、神官はその所有権を得るが、代わりにその他の財宝の分け前は受け取らない。

そして神官が無事に楽器を得た場合、籍だけをパーティーに残すことで、パーティーは引き続き優遇措置を受けられる――

「もちろん複数のパーティーには在籍できません。楽器とは関係なく名義貸しだけする人も昔はいたらしいですが、今は悪用がバレると、神官も懲戒処分を受けますし、冒険者はギルド資格停止とかダンジョン進入禁止とかの罰則を受けてしまうので……皆無とは言いませんが、まぁ、割に合わないですよね。あと、ブルトさん達が私を受け入れてくれたのはただの厚意であって、優遇目当てではないと思います。私みたいな世間知らずが、他のパーティーで食い物にされたりしないように、守ってくれたというか――なんかもう、お兄ちゃんとお姉ちゃんみたいな感じです」

わかる気がする。

ブルトさん達は、仲間をとても大事にしている。

ロゴールという祖国を捨ててこちらへ流れてきた時、彼らにはきっと、何か大きな転機があったのだろう。

じんぶつずかんでさらりと読んだ限りでは、「上官から捨て駒にされて吹っ切れた」とか「非道な命令に従えず無視した」とか、そんな感じの表記があった。

その詳細までは確認していないのだが、もうこの情報だけで、なんとなーく状況が読めてしまう。

つまるところ、ブルトさん達は祖国に愛想を尽かし、こっちで真っ当に生きようとしている。そもそも根っこの部分がいいひと達なのだ。

だから彼らは、ハズキさんの身を普通に心配して、「他のパーティーで迷宮に挑戦するよりは、自分達といたほうが安全」と判断し、仲間に迎えた。面倒見のいい方々なのである。

……そう。本当に、面倒見が良いのだ。

「……実はですね、ハズキさん。先日、ブルトさんにご相談したのです。他の冒険者達の模範とゆーか先駆けとして、この『禁樹の迷宮』を拠点にして、しばらく活動してくれないかと――」

「……はい。それは、良い案だと思います」

ハズキさんはそう応じてくれたが……これで終わる話ではない。

「でも、『少し時間が欲しい』と、断られてしまいました。理由は、禁樹の迷宮のドロップアイテムには、『魔道具の楽器』が存在しないだろうからと――つまり、ハズキさんのために、まず楽器を見つけるのが先。移住するなら、その後にさせて欲しいと、逆にお願いをされてしまいまして」

「えっ……」

ハズキさんがぴくんと肩を震わせた。

「で、でも……亜神たるルーク様のご要望なら、それは……!」

「ああ、いえいえ。私の立場は一切考えずに、正直なところをお話しいただけるよう、お願いしたのです。でもですね。私としては、やはり気心の知れたケーナインズの皆様に、まだまだ手伝ってもらいたいことがけっこうありまして……いろいろと考えた結果、『ここまでのお手伝いの報酬』として、ハズキさんにこちらを受け取っていただけないかと……」

ストレージキャットさんから、俺が取り出したのは――

光沢のある漆黒と優美な曲線が美しい、一挺のバイオリンであった。

ハズキさんが澄んだ眼を見開く。

「そ、それ……それは……!」

「以前、カブソンさんから、ダンジョンボス討伐の報酬としていただいた物の一つです。失礼ながら、あの時はハズキさんの事情を知らなかったもので……こちらの楽器は、銘を『夜の猫』と言います。カブソンさんから聞いたところでは、賢樹ダンケルガの枝から作り上げられた名品中の名品だそうで、その音色は天にも届くと評され、猫達ですら踊りだすとか」

ハズキさんは固まっている。

リルフィ様のお手々に横からサポートされつつ、俺はバイオリンをその眼前に差し出した。

「この楽器……受け取って、いただけますか?」

「い、いただけません……! こんな、こんな高価なもの……!」

「ダンジョン産なので、そこはお気遣いなく! 私としても、ハズキさんにこれを受け取っていただければ、ケーナインズの移住もすんなり進むはずなのでとても助かるのです。それとも……やはりダンジョンで、魔物からドロップしたもののほうがいいですか……?」

「いえ……いえ! こんなにかわいい猫さんから楽器をいただけるなんて、光栄すぎて、その……」

「でしたら、ぜひ! 私もハズキさんの演奏を聴いてみたいのです」

にっこり笑いかけると――

ハズキさんは涙目の笑顔で、言葉を詰まらせながら、はっきりと頷いてくれた。

「ルーク様……私、私、このバイオリン、一生大切にします……!」

さっそくこの場で弾いてもらった短い一曲は、猫を眠りに 誘(いざな) うような、繊細で優しく、実に情緒あふれる旋律であった。