軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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食事を終えて自室に戻り、聞いたばかりの話をアレクシアは反芻する。ヒロイン、シナリオどうこうは別にして、聖女は聖樹を浄化して魔を封じておくのに重要な存在だ。

「聖女の誕生に関して、フェルは何か知ってる?」

「知らない」

ウサギのぬいぐるみに身体を預け、寛ぐフェルナンドは興味なさそうだ。可愛いの二乗で、最近アレクシアを幸せな気持ちにさせてくれる光景だった。

「聖剣と聖女の仲でしょ」

「勝手に縁を結ぶなよ」

「あ、仲がいいのは勇者の方か」

相棒、バディ、テンションの上がる関係性だ。

勇者がイケメンだとなお良しだが、脳内イメージは正義感が強い少年漫画のヒーローなので、遠くから眺められたら充分だ。間違いなく考え方がアレクシアとは相容れない。

「なわけあるか」

突っ込むフェルナンドの声が心底嫌そうだ。

ふん、と鼻を鳴らす。

「でも勇者と魔を封印したんでしょ?」

「利用されたんだよ」

「ええぇ、夢も希望もない感じなの」

聖剣、ということで、前世の知識も含めなんとなく最高の仲間たちとして受け止めていたが違うらしい。互いを信じ、背を預けるような熱い戦いを想像してひそかにときめいていたが、アレクシアの妄想だった。

「子孫は、聖剣を行方不明にするようなやつだぞ?」

「あ、そうだった」

もう名前は忘れてしまったが、酒に呑まれて聖剣を置き去りにする雑な人物だ。

聖剣が大切な存在で仲間ならば、口伝えでも文献としてでも、後世に管理を徹底させている。

(もしかして、聖女もろくなもんじゃない?)

イメージは慈悲深く、清い心を持っている人物だが、フェルナンドは好意的ではない。

歴代の聖女はどんな人物像なのかわからないが、今代の聖女はヒロインであるナタリーのはずだ。

アレクシアに対するあの態度からして、お世辞にも品行方正とは言えない。前世で触れた物語に登場するヒドインだ。

この国が混乱しそうで、むむむ、と自然と眉間にシワが寄る。恋愛遊戯は勝手に楽しんでどうぞとは思うが、封じられている魔を適切に対応できなければアレクシアは楽しく暮らせない。

「アレクシア、面白そうだし神殿に行ってみようぜ」

「神殿に?」

考え事をしているアレクシアをどうとったのか、フェルナンドが提案してくる。行ったところで聖樹を見ることはできない。

魔を封じている聖樹の庭に入れる者は、教皇と認められた聖騎士のみと限られている。王家も簡単には入れない。入り口は専任の聖騎士が常に守っている場だ。

「聖女を見極める品があるんだろ。見てみたくないのか?」

そっちか、と思ってすぐに、フェルナンドの台詞に好奇心がくすぐられる。見たくないかと言われれば、見たい。

逡巡はわずかで、アレクシアは誘惑に負けた。

思い立ったが吉日ではないが、学園は休みだったので、マリッサとエリックと共にアレクシアは神殿へ向かう。お嬢様のワガママを通すのは、隣国よりは簡単だ。

アレクシアが倒れた際にサヴェリオが神に祈ったらしく、借りを作りたくないと神殿が満面の笑みでロシェット家を出迎えるような金額を寄付していた。

加えて、賄賂という名の寄付金を持って行けばいい。

(ほーら、あっと言う間に水晶とご対面よ!)

アレクシアは脳内で高笑いする。本当にお金の力は素晴らしい。

愛想の良い神官に案内された先の部屋に、聖遺物は置かれていた。

(これが)

へぇ、とアレクシアは眺める。透明感のある柱状の水晶の中央に、虹色の光が見えた。

「触れ」

「え」

唐突の声かけだったせいでついうっかり、本当にうっかり、フェルナンドの指示通りにアレクシアは動き、水晶に触れる。その瞬間、ぱあっとまばゆい光が輝いた。けれど眩しくはない。

やがてブレスレットにすべて吸い込まれて消えたのだが、他の人から見ればアレクシアに吸い込まれていったように見えたかもしれない。

(なんかやばそう?)

恐る恐る振り向くと、目が合った神官が我に返ったような顔をした。

「しばし、こちらでお待ちを!」

「あっ」

引き留める間もなく、慌てて出て行く。

「ちょっと、なに!」

アレクシアは文句をフェルナンドへ向ける。なんてことをしてくれたんだ。

「封じられた俺の魔力だったから、返してもらった。こんなところにもあったのか」

「へぇ、じゃなくて! ちょっと待って」

嫌な予感がする。フェルナンドが望んでいた力を取り戻せたことはいい。

けれどこの状況は面倒事へと発展する予感がした。

「魔力を馴染ませる必要がある。少し眠る」

「え、フェル!?」

何度呼びかけても、たたいても返事がない。

茫然と、沈黙するブレスレットをアレクシアは見つめた。

「お嬢様、聖女だったのですね」

「え、違うから」

驚きを滲ませた、マリッサの呟きで我に返り否定する。やっぱりそう取られるのかと、焦る気持ちが顔を出した。

「ですが、光りました」

エリックも頷く。

いやああああと叫び、頭を抱えたくなる。そんな役割も責任もいらなかった。

「力が漲るとかそういうの全然ないわよ。フェルが全部吸い取ったみたいだし」

触れる前と触れた後、アレクシアにはなんら変化はない。

とはいえ、神官に目撃されてしまった。

元凶のフェルナンドと、水晶へアレクシアは視線を往復させる。驚き慌てたのはわかるが、重要なアイテムがある場所に、神殿に属しない者たちだけで置き去りにしていいのかと呆れた。

おかげで、打ち合わせる時間ができた。

「とりあえず、逃げる?」

「身元がわかっているので、面倒事が後回しになるだけです」

正論で辛辣だ、とアレクシアは逃亡を思いとどまる。これから神殿側とのやりとりを思うと、気持ちが重くなった。

念のためにブレスレットのフェルを外し、マリッサに預ける。魔力が増えた感覚もなければ、聖なる力もまったく感じなかった。

「水晶が光り輝いたそうですね」

現れたのは、式典等でしか見たことがない教皇だ。

傍らには先ほどの神官と、上司らしき二人がいた。

「はい、私は見ました」

案内してくれた神官が力強く頷く。

「気のせいでは?」

とりあえず、無駄だと思いながらもアレクシアはごまかしてみる。

「いえ、確かに見ました! 光り輝き、ロシェット公爵令嬢に吸い込まれていきました」

残念ながら、吸い込んだのはブレスレットのフェルナンドだ。

「幻でも見たのでは?」

苦しい言い訳だ。

わかっていても、アレクシアは認めたくない。魔力を返してもらうにしても、人知れずこっそりにしてほしかった。

「失礼ですが、お手に触れても?」

「ええ」

悪役令嬢と聖力は相反するところにあるもので、アレクシアは使えない。

大丈夫だろうと、教皇へ手を差し出した。

「聖力を感じます」

「はい?」

「もう一度水晶に触れてもらえますか」

元々は、聖力を感知するものらしい。

聖女としての資質があれば、長い時をかけ蓄積された聖力が渡るようだった。

嫌だ。嫌だけれど、断ったら断ったで面倒なことになる予感がする。

この状況から解放されるには、とりあえず触るしかないようだった。

(ええい、ままよ!)

決意して、アレクシアは手を伸ばした。