軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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翌日早速、さあ観光のラストスパートだ! ガルタファル皇国で過ごす残りの日々を楽しもう! とアレクシアは意気込み、外出の準備を指示する。本日の装いは、クラシカルな印象の薄いグレーのワンピースだ。

白襟がグレーの襟に重なるデザインになっていて、ウエストの細いベルトと同じ濃い茶色が、袖口とスカートの裾に差し色として使われている。髪はストレートのままハーフアップにした、清楚なお嬢様スタイルだ。

(ほんと悪役令嬢には見えない美少女よね)

鏡の前で自画自賛して、アレクシアは仕上がりに頷く。

特にお忍びというわけではないが、マリッサもシンプルでラフな格好をしている。エリックにも、わざわざ騎士服を着ないように指示してあった。気軽に遊ぶには周囲に溶け込むのも大切だ。

今日は人気の観光スポットだという湖周辺を散策して、食べ歩きもしようとアレクシアはわくわくしていた。

「そろそろ行きましょう」

馬車のところでエリックが待っている。マリッサを伴い部屋を後にして、すぐにフィリップに遭遇したせいで楽しかった気持ちに水を差されたけれど。

「また遊びに行くのか。そんなヒマがあるなら、茶会に参加する母さんたちに付き合って、今のうちから顔を売ればいいだろ」

は? 以外に、アレクシアの頭の中には浮かばない。

数度瞬きして、何故私が? に変わった。

「母さんたちが誘ってもおまえ社交に出かけないし」

ため息混じりのフィリップの台詞にも、アレクシアはだから? と思うだけだ。他国での社交など必要ない。王太子の婚約者候補を辞退し、外交を担うことはなくなった。

「派閥とか、そういうのを把握した方がいいだろ」

言っていることは理解できるが、何故フィリップに貴族令嬢としての心得を説かれているのかはさっぱりわからない。

自国の社交界については把握している。むしろ、唯一の公爵令嬢として華やかに君臨しているとも言えた。

「せっかく皇太子であるセルジュと交流する機会があっても、親しくなるどころか素っ気ない態度だし」

(親しくなりたくないからだけど?)

一々答えるのが面倒で、アレクシアが無言を貫き反論しないのをいいことに、フィリップが調子に乗ってどんどん言葉を継いでいく。

もう少し積極的にセルジュと会話をしろだの、より良い関係を築くために歩み寄れだの、途中から聞き流していたがそのどれもに返事をするなら、なんで? 以外になかった。

「おまえのそういうとこが、かわいげなくてダメなんだよ」

「なぜ、私にとってどうでもいい人たちにかわいげがあると思われなければいけないのかしら?」

冷たい声で告げると、フィリップが目を見開く。

驚かれる意味がわからない。有象無象にどう思われようが、アレクシアには関係ないことだ。

「足を止めてまで聞く価値もなかった話はそれだけ? 出かけるからどいて」

「なっ俺がせっかく!」

ふん、とアレクシアは鼻で笑う。

「フィリップこそもう少し人の感情の機微を学んだら? 私は近日中に国に帰るから、成長は見守れないけど」

これ以上邪魔をするなと目で伝え、まだ何か言いたそうだったフィリップを無視した。

エリックと合流して馬車に乗り込んだ途端、アレクシアはため息がこぼれる。フィリップが、どうして人の気持ちを逆なでするようなことばかりを言うのか心底わからない。

貴族の令息、それも公爵令息ならば、もう少し頭を使った言いようが他にもあるはずだ。それなのに嫌みったらしい言い方をするからカチンときて、アレクシアもイラつく。

(後でおじい様たちに告げ口しよう。あれはダメだ)

いずれ、社交界で敵を作る。外面はよく、アレクシアだけにあの言い方をしているのならばもっと腹が立つので、怒られ再教育されればいい。

「アレクシア、またすげぇ悪い顔してるぞ」

猫の姿のフェルナンドが、アレクシアの顔をのぞき込んでいる。愛らしさに口元を緩め、ささくれ立った気持ちが少し癒やされた気がした。

「馬鹿な従兄をどうしてくれようかと思っていたのよ」

「さっきの奴か」

「そう。わけわからないことをわあわあ言ってたでしょ」

フィリップが何を目的としてあんなことを言い出したのかを、考える気にもなれない。そんな価値もなく、面倒の一言に尽きる。もしかすると悪意はないのかもしれないが、無自覚な方が性質は悪かった。

(私の楽しい気持ちを萎えさせるとか許せん)

「フィリップ様は、お嬢様にこの国へ嫁いで来て欲しいのでは?」

「え、やだ」

反射でアレクシアは答える。結婚などしたくない。

「即答かよ」

笑いを含んだフェルナンドの声に、マリッサが頷く。

「即答でしたね」

エリックは声には出さなかったけれど、同じことを思っているのが表情からわかった。

「私はお父様とお兄様と楽しく暮らすって決めているの」

フィリップを除くスペンサー家の人たちは好きだけれど、それとこれとは別だ。時間を見つけて遊びに来るのはいいが、わざわざこの国に嫁ぐメリットがアレクシアにはなかった。

政略結婚など断固拒否だし、嫁ぎたい相手もいない。

今アレクシアが持てる最高の環境すべてを捨ててまで、嫁ぐメリットのある人などいるとは思えなかった。

恋に落ちた相手となら損得勘定などしないだろうが、目指しているのは自由気ままなお一人様生活、優雅な独身貴族だ。

面倒ごとの塊でしかない夫などいらない。

世間体などどうでもいいし、公爵令嬢に面と向かって言える者は限られていた。

(むしろ言ってくるようなら、撃退するけど)

「アレクシア! 俺のことも忘れるなよ!」

存在を主張するように、フェルナンドがてしてしと右前足でアレクシアをたたく。その仕草に、きゅんと胸がときめいた。

「もちろんよ!」

さっと手を伸ばしてフェルナンドを抱き上げると、アレクシアは頬ずりする。じたばたと暴れ嫌がるが、せっかく捕まえたので艶やかで柔らかい毛並みを堪能した。

「いい加減放せ!」

やっとアレクシアの手から抜け出したフェルナンドは、マリッサの膝の上へと逃げていく。

「毛がボサボサになっただろ!」

「いいじゃない」

「よくない!」

ボサボサになった姿もどこか間抜けで愛らしいが、できる侍女のマリッサはささっと専用のブラシを取り出す。当たり前のように、毛並みを整えてもらうフェルナンドの姿にアレクシアは呆れた。

(すっかり猫様になってるし)

視線を流し、よく晴れた空が広がる窓の外をアレクシアは眺める。先ほどよりも、気持ちはだいぶ浮上していた。

(よし、むしゃくしゃするときは甘い物を食べよう!)

この顔ぶれなら、急な予定変更にも文句は飛んでこない。

アレクシアはさっそく、行き先の変更を指示した。