軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

生態系の覇者 ④

「へぇ。では、纏めて焼いてしまえば良いんですね」

ノイエラさんは単に新しい情報に感心しているだけの様子だけど、作戦責任者として、また同時に農地拡大計画の立案者として、これほど欲しかった情報は無いんだから!

感動に突き動かされるまま、何らかの炭で真っ黒に汚したアスクレーくんの両手をガッシリと掴み取る。

「・・・お兄様!」

「な、なに?」

私がグッと顔を近付けると、なぜか瞬きの回数が急増したアスクレーくんの上体が仰け反った。

せっかく全力で褒めてあげようとしてるのに、なぜ逃げる!

「・・・すごいです! 有益な情報をありがとうございます!」

「有益、なのかな」

おや? 思いっきり褒めてるのに、イマイチ嬉しそうじゃないね?

だかしかし! そんな些事は私には関係ない!

称賛するべきだと私が思うから、どこの誰が何と言おうと私はアスクレーくんの成果を称賛するよ!

それを否定する者がアスクレーくん自身で有ってもだ!

「・・・なに言ってるんですか! メチャクチャ有益ですよ!」

「そ、そう?」

なにコレ? 自信が無いってこと?

こんなに褒めてるのに、煮え切らないアスクレーくんにイラッと来て私のボルテージが上がる。

「・・・良いですか!? お兄様は新たな基礎知識を作っているんです! 基礎研究というものは成果に繋がりにくく見えるかも知れません! でも、その基礎研究で得られた知見を元に新たな領域が拓かれるんです!」

「新たな基礎知識・・・。新たな領域・・・」

私の勢いに気圧されていたアスクレーくんがハッと目を見開く。

この辺り、日本でも理解しない人が居たんだけどね。

成果主義も良いけど、誰かが積み上げた情報を元に成果を追求できるんだから、基礎研究がどれほど大事なことかは分かろうというもの。

それに、ウォーレス家の人たちは技術の探求や新しい考え方を柔軟に取り入れてくれるからね。

成果に繋がったことを示せば、きっと理解してくれる。

「・・・魔獣の生態は分からないことだらけなんですから、お兄様の研究はみんなの役に立ちます! 私が役に立たせて見せます! 当のお兄様が胸を張らなくてどうしますか!」

「そっか・・・。うん。ありがとう」

「・・・うん?」

なんで私にありがとう? まあ良いや。

「・・・私が全面的に後押ししますから、これからも、どんどんやっちゃってください!」

「分かった。がんばるよ」

はにかむような笑顔を浮かべたアスクレーくんが、ようやく迷いを捨てた様子で頷いた。

ヤル気になったかね?

ヨシヨシ。魔獣の生態が明らかになれば新たなワナを考えることも出来る。

ワナ猟は獲物の生態を利用したものだからね。

アスクレーくんが詳らかにした魔獣は私の獲物として獲ってくるから、期待して待っててくれれば良いよ。

楽しみだなあ。この地上から熊などという存在を抹殺できる日が一歩近付いたんじゃないかな。

「・・・むっ」

「えっ?」

アスクレーくんの汚れた手を掴んじゃったから私の手も汚れちゃったな。

これはいけない。汚れたままにしておくと何かの拍子に服まで汚しちゃうかも。

「ちょっ、フィオレ?」

「・・・いいから、大人しくしててください」

男の子は雑だからね。

自分の手を洗うついでだし、空中に水を出してアスクレーくんの炭で汚れた手もモミモミごしごし洗っておく。

焼きまくられて熱消毒されているとは思うけど、虫型の魔獣なんて雑菌を山ほど飼っていそうなものの死骸を弄くり回していたんだから、感染症やら何やかんやを貰って帰られても困るからね。

腰のポーチからハンカチを取り出して手を拭いて、アスクレーくんの手も拭いておく。

「・・・あ。こっちもか」

「~~~っ!」

湿ってしまったハンカチで、アスクレーくんの炭で汚れた顔もごしごしと拭いておく。

手を拭いた後のハンカチで顔まで拭くのはどうかと思わなくもないけど、どうせまた汚すのだろうから構わないだろう。

手を洗っている最中からアスクレーくんの顔色がどんどん赤くなってきてるんだけど、おトイレでも我慢してる?

分かる分かる。

水道の水が流れてるのとかを見ると、無意識に連想するのかおトイレに行きたくなるよね。

アスクレーくんの膀胱が爆発する前に解放してあげないと。

「・・・これでヨシ」

「あ、ありがとう」

掴んでいた手を私が解放すると、茹で上がった蛸みたいに赤くなったアスクレーくんは我慢の限界だったのか、護衛に就いているエウリさんたちを引き連れてそそくさと立ち去っていった。

おしっこを漏らさずに済めば良いんだけど、大丈夫かな。

「やはり、これは中々のタラシですね」

「フィオレ様は褒めて伸ばす派ですか」

「ん? タラシ?」

アスクレーくんの手を洗浄している様子を微笑ましげに眺めていたノイエラさんの傍には、いつの間にエレーナさんが戻ってきていてニマニマしている。

人や社会に役立つことをすれば褒めるのは当然じゃない?

信賞必罰だよ。

誰も褒めてくれなきゃモチベーションが上がらないじゃん。

まあ、褒められると頑張る気になる心理は、私もこっちの世界に来てから理解したんだけどさ。