軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初めての出征 ㉖

触角ヘビの棲息域だから頭上にも注意しておく必要が有るし、数百メートル向こう側の対岸にはガルダの棲息域が有る。

ガルダという鳥型の魔獣はとても目が良いだけでなく、獲物に執着して追ってくる性質が有るらしいし。

一般的には夜行性って認識されているけど、前回の遡上作戦で実際に遭遇したお爺様たちは昼間に襲って来たというから、昼間も活動するんだろうね。

地球での知識においても、それは珍しいことではなかった。

昼行性のカラスだって夜中にカーカー鳴いて飛び回ることは有ったし、夜行性の虎だって昼間に活動することが有った。

ライオンだって記録映像では昼間に狩りをしている様子を目にすることが多いけど、肉食系の猛獣は夜行性が多くて、動物園で見ればみんな眠そうにしてるよね。

野生動物の世界も 生きるか死ぬか(デッドオアアライブ) だから気配に敏感だし、イケると思えば時間帯に関係なく襲って来るのだろう。

夜行性だから、昼行性だから、なんて関係ない。

魔獣が襲って来るのに朝も昼も夜も無いということだ。

「・・・ノーアも魔獣が居たら教えてね」

「にゃっ!」

エターナさんの背中で後ろを向いているノーアがヤル気マンマンでお返事する。

背負子って椅子の前脚が無い形状をしてるから、背負子を背負ったエターナさんが前を歩くけばルナリアと私に向き合う形になるんだよ。

今回の遠征はただの 森歩き(ハイキング) ではない。

同じ森でも、数十年の間、誰も踏み込まなかった未知の領域と言って良い。

町の傍には出ない魔獣も跋扈しているのだから、戦場と言い換えても良いだろうね。

それほど危険な場所に、4歳になったばかりの幼女を連れて行くなんて普通に考えれば狂気の沙汰だけど、そんなこと言ったらルナリアや私も6歳になったばかりの幼女だからね。

天性の資質か野生の勘か魔獣発見率が非常に高いノーアも、当然のことながら私は索敵要員として戦力に数えている。

過酷な幼児体験からノーアは口数が少なくて人見知りが強めだけど、家族や身近な人に対しては普通に話してくれるし素直な良い子だ。

私たちの妹を舐めて貰っては困る。

防御の固いエターナさんの背中に乗っかって敵の存在を教えてくれれば、高性能な索敵レーダーを積んだ重戦車みたいなものだろう。

あっちへこっちへピコピコとネコ耳を向けているノーアは初めて見る森の景色に緊張気味な様子だけど、私のお願いを聞いて真剣に魔獣の気配を探してくれている。

ノーアもみんなも絶対に私が守るしね。

現に私は森に踏み込む前から最大範囲の索敵を行っている。

今の私に知覚できる最長距離は3キロメートルぐらいかな。

目一杯ギリギリの距離だと精度が落ちるのだろうけど、大きな魔力の反応なら見落とさない。

パッと左手方向へ顔を向けたノーアがジーッと木々の向こうを見つめた。

左右のネコ耳も視線と同じ方向へ定められている。

「姉様。あっち」

「・・・えっ? そっち?」

今さっき索敵したばかりだけど、ノーアが指す方向へ大きな扇状に広げた魔力の手をもう一度振る。

私の索敵に引っ掛からなかった敵が居る?

探知範囲を狭めて異物の存在に意識を集中してみる。

そうすると小さな魔力の反応に気付いた。

数えるのが面倒、というよりも、動き回るから数えられない無数の反応。

「・・・あっ。これ?」

「なに? どうしたの?」

私とノーアが一方向を向いて話しているので、真面目モード仮面でキリッとしていたルナリアの仮面がアッサリと剥がれ落ちた。

「・・・ノーアが教えてくれたんだけど、何か小さな反応がたくさん有るんだよ」

「ラクネかしら」

首を傾げるルナリアに釣られて私の首も傾ぐ。

私も実物を見たことが無いからなぁ。

魔獣関係の書籍に描かれていた挿絵を見たことは有るけど、手描きの挿絵がどれだけ正確に描かれているかには疑問符を付けざるを得ない。

討伐した獲物の写生じゃない目撃情報の挿絵なんて、細部を空想で補っているものがほとんどだろう。

「・・・これがそうなのかな? ノーアに言われるまで見落としていたぐらい小さな反応なんだけど」

「成虫では無いのかも知れませんね」

私の疑問に答えてくれたのは革鎧姿のレヴィアさんだった。

ロス家は諜報任務が主体だから、魔獣の情報がレヴィアさんから出て来たことが意外に感じてしまった。

「・・・レヴィアさんは見たこと有るの?」

「カリークへ潜入したときに私が見たのは成虫でしたが、大人が両腕を広げたよりも、さらに大きかったですよ」

両腕を横に広げてみせるレヴィアさんにルナリアが目を剥く。

「本当に、そんなに大きいの!?」

分かる分かる。中身が日本産の私にしてみれば、人間よりも大きな蜘蛛なんて怪談やファンタジーにしか出て来ない架空の生物だったし。

こっちの世界は地球よりも大きな生物が多いみたいだけど、生粋の異世界人であるルナリアの感覚でもラクネのサイズ感は常識外れなんだね。

「結構な大物だと町で晒しものにされていたのですが、胴体は人間の頭ほどの大きさしか有りませんでしたよ」

「・・・子蜘蛛なら、もっと小さいってことか」

脚の長さに対して胴体が小さい蜘蛛は珍しくない。

確か、 屍蜘蛛(ラクネ) って巣を作らないタイプの蜘蛛なんだよね?