軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初めての出征 ⑫

今朝も私たちを起こしに来てくれたミセラさんたちに促されて席に着き、5分間も経たない内にお母様が食堂に入って来る。

さらには、少しだけ遅れてお父様と一緒にアスクレーくんもちゃんと起きてきた。

アスクレーくんのヤル気は今日も継続中だと確認できて安心したよ。

「今日はどうするんだ?」

食事を摂りながら投げ掛けられたお母様の問いに、ドネルクさんはエゼリアさんに目線を送る。

こりゃあデートだな。

仲のよろしいことで。

「採掘場を案内して貰うつもりだ。フィオレ嬢が飼育しているという魔獣にも興味が有る」

「・・・あの。アレは別に飼っているわけではなく」

私の名前が出たので一応反論しておく。

会う人、会う人に言われるんだけど、一体どういう情報の流れ方をしたのか、どうにもみんな、私がシカを飼っていると信じ込んでるみたいなんだよね。

お前んちの子だろう、なんて言われれば、うちの子じゃ有りませんとしか答えようが無いのに、一向に風評被害が収まらない。

「事実、バイコーンが居るのだろう?」

「・・・それはそうなんですが・・・」

ほらね? 私が「飼ってない」と言っても、「でも居るじゃん」と返ってくる。

どうにも論点がズレてるんだよね。

私は勝手に生えてくる資源を回収しているだけであって、シカに名前も付けてない。

うちの家畜じゃないんだよ。

たまたま生えてくる場所がうちの敷地内ってだけなんだけどな。

「ま。飼っているように見えるのも確かでは有るし、フィオレの言い分も正しい。自分の目で見て確かめるのが正解だろうよ」

「そうだな。例のアレも試してみたい」

見かねたお母様が水掛け論に終止符を打ちに来て、ドネルクさんも乗った。

「アレ」って血のことかな?

そうすると、絶賛強化中のアスクレーくんが乗っかりに行った。

「出荷と回収の作業でしたら僕も行きますのでご一緒します」

「俺は初めてのことだからな。分からんことは教えてくれ」

「はいっ」

うんうん。積極性を発揮するのは良いことだよ。

そのまま引き籠もり生活を卒業してくれると嬉しい。

そこからは今日の予定を確認しつつ、雑談を交わして朝食を終えた。

お母様はアンリカさんと一緒にノーアを連れてお父様のお手伝いで執務室へ。

ドネルクさんはエゼリアさんやアスクレーくんと一緒に採掘場へ。

ルナリアと私は住居建設のお手伝いへ。

今日中にノルマを達成すれば遠征計画は予定通りに決行される。

今日は何事もなく作業を終えられれば良いんだけどな。

大丈夫かなぁ、なんて警戒していたんだけど、住居建設は本当に何事もなく順調に進んでノルマを達成し終えることが出来た。

農家さんたちにもお父様やお爺様たちの許可が出たことを伝えることが出来て、みんな喜んでいたし、前向きな明るい空気に包まれていた。

平和なのは良いことだ。

仮設住宅は無事に必要数の目処が立って新領民たちも落ち着いているし、今日は何事も無いまま1日を終えられそうだと油断したのが6の鐘が鳴る少し前のことだった。

後は工兵部隊の魔法術師さんたちにお任せして、領主館へ帰ろうと馬の背に揺られて北門前を通り掛かったところで、私たちは北門を潜った城壁外に人集りを発見してしまった。

「ねえ、フィオレ。アレ、なんだと思う?」

「・・・何だろうねぇ」

油断していたのはルナリアも同じだったようで、いつもなら「アレ、何かしら!」とか元気に言うだろうところを、警戒感を滲ませた慎重な言い方になっている。

私も警戒感を抱いたというか、「またか!」と問題の発生を確信せずに居られない。

「見なかったことには出来ないし、見に行くしか無いわよね」

「・・・そうだねぇ」

問題が起こっているのを見なかったことにして後で問題が大きくなれば、火消しに駆け回る必要に迫られるからね。

消火活動は火が小さい内にしておくに限る。

ルナリアと二人で、諦めの心境で手綱を引いた。

領主館とは反対側へ馬首を巡らせて、守備兵さんたちに手を挙げて挨拶を交わして北門を潜る。

「うわ・・・」

「・・・・・」

ルナリアが思わず声を上げたのも仕方ないよね。

城壁外に出ると“獰猛くん”の前に数千人規模と思われる多くの人々が跪いて祈りの姿勢を取っていたんだから。

現実か錯覚か、私も頭痛を感じてこめかみをぐりぐりと揉む。

みんな何やってんの・・・。

西方に向かって両腕を振り上げている“獰猛くん”と向かい合う形で祈る人たちを眺めていると、聞き覚えのある声が私たちを呼んだ。

「フィオレ嬢? ルナリア嬢も」

誰かと顔を振り向ければ昨日も話題に上がっていた、顔見知りの人だった。

特務魔法術師を示す純白の片肩掛けマントを引っ掛けて、爽やかな笑みを私たちに向けてくる。

「・・・バルトロイ様!」

「お久しぶりです!」

「早速なんだが、アレは何だろうか?」

挨拶も放り投げてバルトロイさんが指したのは、つぶらな瞳で威嚇してくる“獰猛くん”だった。