軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初めての出征 ⑦

「ポドック領で聞いたところでは、フィオレの嬢ちゃんが作ったという湖だ」

「湖? 池ではないのか」

大穴が出来た当時の目撃者の一人であるお母様が怪訝な顔で首を傾げる。

しかし、ドネルクさんは首を振った。

「いや。一つの町程度なら丸ごと沈んでもおかしくない、かなり大きな湖だったぞ」

「・・・ええ?」

お母様だけでなくルナリアも目を丸くしている。

私も驚いたけど、驚いているのは私たちだけだった。

やらかした張本人として断言するけど、決してそんな規模じゃなかったよ。

あれって盗賊包囲網の構築中のことで、別行動を取っていたお父様とエゼリアさんとアンリカさんは、現地を見てなかったんだっけ。

小さく首を傾げたお父様がドネルクさんへ目を向ける。

「見てきたのか?」

「グラウスに丸投げしてきた俺も自分の領地経営を考える必要に迫られたからな」

ほほう。剣一筋だった元・騎士団長さんが、エゼリアさんをちゃんと養うために勉強しようと?

エゼリアさんに手土産を持たせる甲斐が有りそうだね。

良いのを選ばなきゃ。

肩を竦めて見せるドネルクさんに、お父様の首の角度が深くなる。

「領地経営を学ぶのに、ポドック領へ?」

「最近、ポドック領が売り出した“臭みのない美味い魚”が王都で噂になっているんだ。生きたまま王都まで運ばれてくるから安全に食えると貴族家にも好評でな。それでウォーレス領までの道中にポドック領へ立ち寄ってきた」

お父様に答えながらドネルクさんが私に意味深な目を向けてくる。

何? その目は。

たまたま当たったかも知れないけど、私の入れ知恵を実行に移して利益に繋げたのはポドックさんだよ。

私は関係ない、と言いたいところだけど、ドネルクさんは“保守派”のボスで、ポドックさんも“保守派”の構成員だったね。

余計なことまで話してそうだと感じた私の疑念はドネルクさんによって裏付けられる。

「ポドック卿からも話を聞いたが、嬢ちゃんに感謝して、嬢ちゃんの名前を付けたそうだ」

「・・・そ、そうですか」

あの人、ドネルクさんに何を話したんだろ。

大袈裟に言ってそうだなあ。

私の名前が付いた理由は理解できたけどさあ・・・。

こういうのを喜ぶのが普通なの?

栄誉とかそういうヤツ?

私、気恥ずかしさしか無いんだけど。

「あのときの大穴がねえ・・・」

ニマニマと目が笑っているルナリアも、こっち側の感性なのは間違いないな。

明日の朝は思いっきりくすぐって起こしてやるからな、と決意を固めつつも、私の感性が間違っているわけではないことを確認する。

「・・・でも、私が空けた穴って訓練場の半分もない大きさだったのに」

あのときって、馬たちが水を飲みやすいように広い水場を作ってあげようとして力加減を間違ったんだっけ。

そうだよ。思い出した!

縁が崩れて溺れる人が出ないようにと大穴の周りの土も固めたよね!?

折角の事故防止措置を水没させちゃったら、私は無駄働きじゃん!

適切に管理すれば多くの土地を水没させたりせずに済んだんじゃないのかと反論を籠めてみれば、ドネルクさんは予想外の答えを口にする。

「どこまで大きくなるのかと広がるに任せておいたら今の大きさになったそうだが」

「・・・何してんの。ポドックさん・・・」

わざと放置したんかい!

意味不明なポドックさんの行動に反論する気力も失ってグッタリと脱力した。

ところが、大人たちの意見は違ったようだ。

「クロムハウト卿からの要請じゃないか? クロムハウト領の東部には大きな水源が無かっただろう」

「ああ、そうか。ポドックはクロムハウトと仲が良いからな」

お父様の推測にお母様が納得する。

んん? クロムハウトさん?

「ドーン男爵もだろう。最終的にはドーン領の河川に流れ込んでドーン領も水量が増えたらしい」

「ドーン領も大きな水源が無かったからな」

補足したドネルクさんの意見にマルキオお爺様も頷く。

クロムハウトさんにドーンさんって、あのときポドックさんと一緒に居た領主さんたちだよね?

それに、水源?

大人たちが納得している様子にルナリアが首を傾げる。

「新しい川が出来て、古い川と繋がったってこと?」

「大きな水源が有れば周辺地域が潤うのよ。何事も根源を押さえるのは政治的な発言力に繋がるものよ。2人とも覚えておきなさい」

「「はい」」

そういう話? と、私がルナリアにツッコミを入れる前に入ったセリーナお婆様の指導に、ルナリアと2人で背筋を伸ばして答える。

「水源が政治的な発言力」か。

そう言えば、昔、山菜採りで会って雑談した農家のお婆さんが、「 上流(かみ) には勝てない」と言ってたことが有ったな。

日本でも大昔から農家の水争いは枚挙に 暇(いとま) がなくて、流血沙汰も日常茶飯事だったとか。

お婆さんと話したときにはピンと来なかったけど、こういうことだったんだな。

「根源を押さえる」というのは、私が営業職をしていたときに何人かの社長さんが似たようなことを言ってた気がする。

あの社長さんたちが言ってたのは「根っこに近いところが一番儲かる」だっけな。