軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初めての出征 ⑧

ポドックさんは多少の領地が減るよりも、水源を握ることで政治力を強める判断をしたってことだよね。

そう考えるとポドックさんの「感謝」に納得してしまう私が居る。

だからと言って、地名に私の名前を付けるのは勘弁して欲しいけど。

それって、私のやらかしが子々孫々まで語り継がれるってことじゃん。

そこでようやくマルキオお爺様が軌道修正を図る。

「しかし、レティアの城壁内に灌漑用の水路を作る意味は有るのか?」

「・・・農家さんたちは、乾燥気味な気候の王国では育てにくかった作物を作れるようになると言っていました」

農家さんたちの言い分を伝えるとお父様たちが思案顔になる。

「ふむ。作付けの幅が広がるのか」

「幅が広がれば異常気象や不作の際に致命的な被害を被る危険が減りますよ」

「安定性は何ものにも代えがたい。試させても良いかも知れんな」

シェリアお婆様の援護射撃が入ってお父様は許可に傾いたように見えるね。

そんなお父様を現実派のお母様が制止する。

「待て。手を広げて試すのは良いが、また新たに人手を割く必要が有るぞ?」

お母様が制止する事情も分かってしまう。

いつも人手の遣り繰りでお父様たちは頭を悩ませてるものね。

そして、担当者が増えれば報告書類が増えることになる。

書類が増えれば、結果的に仕事が増えて困るのはお父様たちだ。

でも、そこは大丈夫だよ。

「・・・水路の維持管理は農家さんたちがみんなでするそうなので、新たに人を配置する必要は有りませんし、費用も掛からないでしょう。それと、ディディエさんとダーナさんが農業に詳しいので、農家さんたちの窓口を務めるように担当させています」

「それでスライムの侵入をダーナが知らせに来たのか」

おっと。巨大スライムの出現でお母様を呼びに行ってくれたのはダーナさんだったか。

私の報告にお母様も納得して頷いている。

緊急対応が必要な事態が起こったときの連絡体制が出来ていることを、ダーナさんが行動で示してくれたわけだ。

論より証拠で実戦証明されたものほど信頼が置けるものは無いからね。

ディディエさんとダーナさんで相談して行動に移したのだろうし、機転を利かせてくれたことを褒めてあげないと。

お母様も懸念が解消されたことで一気に空気が傾く。

「ダメなら埋めてしまえば良いだけだしな」

「良かろう。試させてみよ」

お父様の判断にハインズお爺様が承認を出して案件は通った。

「・・・ありがとうございます。農家さんたちも喜びます」

良かった。これで畑がダメになった農家さんたちも前向きに突き進んでくれるだろう。

ここで、議題が片付いた気配を察したルナリアが話題の矛先をエゼリアさんたちに向ける。

「もう正式に婚約は終わったの?」

「おう。ドネルク殿の状況がなかなかに多忙でな。エゼリアはこの春に王都で婚姻の儀式を行うことになった」

ルナリアに答えたのはお母様で、当事者であるエゼリアさんは照れくさそうにしている。

婚姻の儀式って結婚式のことだよね?

エゼリアさんの花嫁姿を見たかったなあ。

「・・・そっか。王都で」

「そんな顔をするな。エゼリアもアンリカもレティアでも儀式は行う」

つい零してしまった私の呟きを拾ったお母様が優しい目で笑う。

お母様の答えに私が抱いた疑問をルナリアがそのまま代弁してくれる。

「2回するの?」

「カリークの動きが目を離せん以上、儂らもレティアを離れるわけには行かんからな」

「王都での儀式に儂らは行けぬが、代わりにミリアがおる。レスリーをハインズの名代に立てるしな」

ハインズお爺様とマルキオお爺様が理由を教えてくれた。

はー。距離の遠さと移動の難しさが、こんなところにも影響するのか。

ウォーレス領からルーベンス領までは直線距離で800キロメートルぐらいだっけ。

それって日本で例えれば東京から岡山県ぐらいの距離?

新幹線だと片道4時間ぐらいになるのかな。

日本では日帰りできる距離も、こっちの世界では片道10日間ぐらい掛かる。

ただまあ、エゼリアさんの実のお父さんをハインズお爺様の名代に立てるってことは、実のお母さんであるロアーナさんも2回目の式に出席できるんだね。

だったらエゼリアさんも安心だろう。

実のお兄さんであるマリッドさんも2回目に出席するなら、新領地の代官を務めてくれているマリッドさんの留守中を任せる代官の代官を決めておかなきゃな。

「アンリカはクローゼリス領との2回になるでしょうね」

セリーナお婆様の見解にアンリカさんが気恥ずかしそうな笑みを浮かべる。

特務魔法術師の後任を引き受けたバルトロイさんは職務の性質上、自由に動けるから、2回目の式を王都で行う必要が無いってことかな?

バルトロイさんの地元は実の弟がバルトロイさんの暗殺未遂事件に関与したこともあって、色々と荒れたんだっけ。

2回目の式を地元であるクローゼリス領で行う理由には、現地をよく知らない私でも簡単に思い当たってしまう。

あれ? 待てよ?

ということは、王都に居るアリアナさんだけが大好きなお姉さんの結婚式を見られないことになるのか。

テレサの側近であるアリアナさんはテレサの傍を離れられないだろうし、ちょっと可哀想だな。

アンリカさんの2回目もエゼリアさんのときと同じように、実のお父さんであるライアスさんをハインズお爺様の名代に立てるのだろうし、実のお母さんであるリエンナさんや弟のアイオスくんも2回目の式に出席できるように手配するんだろう。

親友であるお母様の結婚式を見られない王妃様も残念がるんだろうな。

お父様とお母様の式もウォーレス領と王都の2回に出来れば良かったんだけど、ウォーレス家には絶対に譲れない血族の責務が有る。

南部国境を離れられないウォーレス家の責務は、500年もの間、初代レティア卿の頃から連綿と受け継がれてきたもので、個人の心情でどうこうして良い性質のものではない。