軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

未来 ㉘

前方へ傾斜しようとするコンニャク板を引き戻しつつ意識を逸らしていたら、今度は後方へと傾斜しようとする。

うおおおおっ! 拙い拙い! 支え、支え!

まだ野次馬だらけで衆人環視のド真ん中なのに、こんなところで転倒させたら100人単位で犠牲者が出る大惨事だよ!

咄嗟に魔力の手を1本追加して、コンニャク板の内側からコピペで増殖させた「足」を1本追加する。

恐らくお尻から伸びたのだろう「支え」が、ズドン! と重たい打撃音を響かせて着地したのが分かる。

支え棒が地面を押してコンニャク板を直立に押し戻した。

「・・・ふぅ・・・」

危なかった。“獰猛くん”が安定して直立してくれたことで少しだけ休憩できる。

ちょっとだけ落ち着いて整理してみよう。

今、私が使っている魔力の手は「両手足」の4本と、私たちを固定している1本と、「支え」の1本で合計6本。

4本も「手足」が減っているのに、“獰猛くん”の制御は難易度が明らかに上がってる。

原因はバランス維持の難しさだよね。

支えを生やしたことで一時的には安定したけど、このままじゃ移動もままならない。

某特撮放射能大怪獣を模した尻尾を思い付きはしたけど、あの尻尾って、バランス維持にどう貢献してるんだろう?

バランスっていうものはヤジロベエが代表するように「均衡」だよね。

前後左右の均衡が取れていれば、どんな形状のものだって理屈上は直立する。

地球で最先端技術だった二足歩行ロボットって、どう均衡を取ってるんだっけ?

ジャイロセンサー?

回転する独楽が直立する均衡の原理と傾斜を感知するセンサーの差分で、関節モーターを駆動させて均衡を生み出してるとか、そんなのじゃなかったっけな。

あの手のロボットがタッタカタッタカと足踏みしてる理由が何かは知らないけど、そもそも、センサーなんてものが手元に無いし、私が原理を理解していないシステムを魔法で再現できる自信なんて無いから、そっち方面は無しだな。

もっと原始的な原理で均衡を創り出すとすれば、やっぱり尻尾かなあ。

確か、カンガルーも長い尻尾を引き摺ることで二足直立を実現していたはず。

「引き摺る」とは、重石―――、引っ張り方向の荷重で傾こうとする速度を遅く抑えてるんだろうか?

対して、今現在、“獰猛くん”の直立を支えている「支え」は圧縮方向の荷重になるんだろう。

荷重が掛かる方向は真逆でも、同じように均衡状態は作り出せるわけだ。

そう言えば、特撮放射能大怪獣もカンガルーもお尻から尻尾を引き摺っていて、体幹は前傾姿勢だよね。

試しに真似してみる?

「支え」の先をグググと伸ばして、慎重に体幹を前傾させてみる。

ゆっくり、ゆっくり。そーっと、そーっと。

「・・・お? おおお?」

体幹が前方に倒れる前に一歩前へ足を踏み出して転倒を防ぐ。

倒れようとする方向がコントロールしやすいし、倒れようとする速度が遅くなって足を踏み出す猶予が生まれたね。

これ、良いぞ! 歩かせやすい!

ズシン! と足を踏み出す度に、野次馬が進行方向からワラワラと逃げ出して道を空けてくれる。

転倒しそうな危機感が減ったことで心の余裕を取り戻したらしいルナリアも、尻尾の存在に気付いたっぽい。

「後ろに何か引き摺ってない!?」

「・・・尻尾だよ。尻尾。たぶん」

私は前方を見ているから後ろが見えないんだよね。

後ろを見れば居るのはルナリアだし。

だから、尻尾がどんな形状になっているのか私にも分からない。

どうせ見えないんだから気にするだけ無駄じゃん。

何を見て「引き摺っている」と思ったのかは分からないけど、ルナリアからも見えていないはずなんだけどなあ。

だって、コンニャク板の厚みは7~8メートルは有ると思うし、目の役目を担う私たちが固定されているのは“獰猛くん”の顔面直上で、16~17階建てのビルの屋上から地上を覘き込んでいるような格好だからね。

コンニャク板が僅かに前傾していて、天辺に位置取っている私たちからは上り坂の向こうに存在する地上も様子はぜんぜん見えていない。

そんなことよりも、だ。

私はどうやって城壁を越えるかを考えなきゃいけないんだよ。

“獰猛くん”をどっちに歩かせるかで迷ったけど、町の目抜き通りを壊したら叱られそうだし、目抜き通りとは真逆の東へと向かう。

そっちに城門はないけど、内門と外門の二つを備えた城門部分は奥行きがあって分厚いからね。

農地跡の大地を踏んで城壁を目指す。

ルナリアの意識も尻尾から離れたようで、私の懸念とは別の懸念をぶつけてくる。

「町の外に置くって、こんなに大きいのをどこに置くの?」

「・・・置いても邪魔にならない場所っていうなら、慰霊碑前ぐらいかなあ」

「そうかも」

頭の中で城壁外の景色を思い出していたのか、数瞬の間が開いてルナリアも納得した。

「・・・取りあえず、慰霊碑前まで移動しよう」

「そうね」

慎重に足を運ぶ“獰猛くん”の「足」は15メートルも股下が無かったはずだ。一歩あたりの歩幅は、いいところ20メートルぐらいだろう。

2キロメートル先の城壁へ到達するには100歩の歩みが必要になる。