軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

未来 ⑤

「馬糞はどこから?」

「・・・放牧地の馬糞はそのまま放置してるらしくてね。余らせてるから、そっちで集めれば良いよ。木屑は住居建設現場で出てるから、そっちで貰えるからね。改めて領軍の許可は取っておくから、人手を集めてくれるかな」

「儂らでさせていただきます!」

上がった声に目を向ければ、ヤル気に満ちた顔で男性たちが待ち受けている。

「・・・それはもちろんなんだけど、堆肥作りはずっと続けて欲しいんだよ。城壁外の荒れ地もどんどん開墾していくつもりだから、たくさん堆肥を作ってくれれば買い取るよ。だから、他にも人手を集めて欲しい」

一旦、私が買い取ってしまえば、新領地の方にも堆肥を回せるからね。

恵まれた環境に有るはずのウォーレス領の農家でも収入を増やそうと城壁外に畑を作るのなら、今まで報われない環境だった新領地の農家はもっと前向きに開墾するだろう。

何もかもを失ったエクラーダ系の新領民は尚のことだ。

堆肥もまた山ほど必要になる。

「城壁外にも農地を広げられるんで?」

「・・・そうだよ。いつかまた城壁内の土地が足りなくなるかも知れないから、城壁外の農地もどんどん広げていくよ」

私の宣言に男性たちの間から明るい声が湧く。

一緒になって明るい声を上げなかったオジサンたちも一部に居て、そのオジサンたちは心配そうな顔を私に向けてくる。

「農地に埋める魔石はどうされるんです?」

「・・・調達してくるよ」

森の奥に有るという闇属性のダンジョンに魔石を採りに行ければ良いけど、ナーガ川上流の方が先になるよね。

例のダンジョンは気楽に行って帰って来られる距離じゃ無さそうだからなあ。

それでも、近いうちには魔石を採りに行きたい。

「 小鬼(ゴブリン) みたいな弱い魔獣のもので構わないんですが、1枚の畑に5~6個ほど使いますから、かなりの量が必要になりますよ?」

「・・・それはまあ、ちょっと考えるよ」

あれ? 5~6個も使うんだ? 4個ぐらいかと思ってたよ。

そもそも1枚の畑の標準的な広さを知らないし、5個なのか6個なのかの分岐点もよく分からないけど、数十枚じゃ済まない畑の数になることは分かってたしね。

安い魔石を買い集めてくれるとお父様は言ってたけど、長期的な視点で見るとおカネで買うのは現実的じゃなさそうだな。

自前で収集できるなら圧倒的にその方が安いはずだしね。

目先の話で畑に魔石を埋めると言っても今すぐじゃない。

最悪、春までに調達できれば間に合うはずだ。

「・・・ディディエさん、ダーナさん。この件の窓口は2人に任せて良いかな?」

「は、はいっ!」

「身命を賭して務めさせていただきますっ!」

パアァッと表情を輝かせたディディエさんとダーナさんが両手を胸の前で組み合わせて即答する。

これでもかってほどヤル気は感じ取れるけど大袈裟だなあ。

「・・・いやいや。死んじゃダメだからね?」

「「はいっ!!」」

返事は良いんだけど不安だな。

もうちょっと釘を刺しておくか。

「・・・定期的に進捗を確認して報告。連絡事項が有ったら遅滞なく各署に連絡。問題が有ったらすぐに相談。分かった?」

「報告と連絡と相談・・・」

そそそ。人材教育の第一歩、報連相だよ。

これは何が起こるか分からない日々の出来事から、人材を守るためのセーフティネットでもある。

日本みたいに平和な社会でなら“円滑な業務遂行のため”で済むけど、人の命が軽い価値しか持たない世界では、このセーフティネットが洒落にならないぐらいの重みを持つだろう。

この2人は特に思い込みが激しいところが有るから念押ししておこう。

「・・・そうだよ。すごく大事なことだから何が有っても必ず守ること。もしも何か失敗したことが有ったとしても、絶対に自分たちだけで抱え込まないようにね。約束できる?」

「「は、はいっ!」」

ルナリア暗殺未遂事件で殺されたマーサさんも御者のお爺さんも、報連相が守られていれば死ななくて済んだはずなんだから。

家族の命を人質に取る脅迫手段は、効率的で効果が高いから多用される。

ルナリアだけじゃなく私の周囲に居る人たちもターゲットにされかねない。

今は男性を威嚇している2人もいつの日か新たな家族を得るかも知れないし、今から徹底しておこう。

人質なんて、二度と取らせるつもりは無いけどね。

もしも人質を取られたとしても、傷一つ付けさせないし、絶対に取り戻してみせる。

伊達に見えない触手を10本も生やしてないんだよ。

私は夜叉にだって修羅にだってなるし、三面六臂の阿修羅像にだって腕の数では負けてない。

千手観音像には・・・、まだ勝てないかな。

でも、辛そうなお父様の顔も、人知れず泣いたルナリアの涙も私は忘れてないよ。

マークスお兄さんを見つけた私にお礼を言うお母様の声が震えていたこともね。

あんなこと、二度と起こさせない。

「私たちが監督しますのでご心配なく」

「・・・お願い」

そっか。ミセラさんたちも居たね。

すっと監督役の1人を務めてくれているミセラさんに答えると、同じく監督役のレヴィアさんが空を指した。

「では、領主館へ帰りましょうか。もう日が暮れてしまいました」

「・・・うわ。ホントだ」

いつの間にか日没を過ぎてるじゃん。

示されるまま見上げれば頭上には星が瞬いているし、西の空は落日の残照が濃いオレンジ色に青みを増している。