軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

未来 ①

「さて、と!」

「・・・グハァッ!」

1人で明日の 報復(リベンジ) を誓っていたら不意に脇腹を突かれて、くの字に上体が折れた。

何事!?

被弾した左脇腹を両手で庇って顔を上げれば、4本の指をピンと伸ばし親指を内側へ畳んだ綺麗な手刀で、シュッ! シュッ! とシャドー手刀をしているルナリアが居た。

言っても分かんないだろうけど、卓球の素振りみたいになってるよ!?

追撃を警戒しつつ訊いてみる。

「・・・何すんの?」

「何じゃないでしょ!」

むっ。これはお怒りモード?

不意討ちとは卑怯ナリ! と抗議して良さそうな雰囲気じゃないね。

「・・・何で怒ってんの?」

「怒るに決まってるでしょ! 今日は色々とやり過ぎ!」

「・・・私また何かしちゃいましたか?」

何だか分からないけど無罪を主張できないものかと 惚(とぼ) けてみれば、低く身構えたルナリアが腰の高さで手刀を無言で振りかぶった。

拙い! 低く腰を落としてるということは機動戦を仕掛けてくる予兆じゃないだろうか!?

ネットで見た定型フレーズは役に立たなかった!

誰だ! こんなのを叱られるときの定型フレーズだとか決めたの!

私の反射神経じゃルナリアの機動戦には対応できないし、被弾した左脇腹を両手でガードしていて私の右脇腹はノーガードだ!

右舷、弾幕薄いよ! 何やってんの!

脳内艦橋の指示で対空砲が迎撃態勢を整える前に、ルナリアの手刀がグググと引き絞られる。

緊急警報発令!! 即時、無条件降伏だ!!

「・・・嘘、嘘! 済みませんでした―――ッ!!」

怒っている理由を「色々」と言われても、具体的に何のことなのかは思い当たることが有りすぎて、何のやらかしで怒っているのかが分からない。

怒っている人には逆らわない。

ここはボッチの処世術で乗り切るしかない。

「“指”のこともそうだし、アスクレーのこともそうだし、ファーレンガルトの騎士たちのことも、フィオレが必要だと考えたからそうしてるんだと思って手伝ってあげたけど、相談もせず勝手にやっちゃダメでしょ!」

怒ってる理由を探らなくても教えてくれるルナリア優しい。

「・・・そ、そうね。そうだよね。ごめんなさい」

私が謝罪に応じたことで手刀を収めたルナリアが腰に手を当てて反り返る。

説明抜きにやらせた「指先」の件は諦められたというか、怒らせたかなー、とは思ってたんだよね。

アスクレーくんのことは、拉致の件か採掘場の件か遠征の件かが未だに分からないけど、どれも怒られそうでは有る。

いや。どれも怒ってるのか。

騎士様たちの件は許可されると確信してるけど、独断専行なのは間違いないな。

他に思い付く叱られネタは宰相さんの件だろうか。

でも、イディアさんたちに教えたことを叱られたりはしないだろう。

こうして頭の中で数え上げるだけでも結構有るな。

「・・・確かに色々やらかしてるなあ」

「心の準備も出来ていないのに、いきなりやられると心配するんだからね!?」

心配して怒ってくれているところが責任感の強いルナリアらしいな。

叱られてるのに胸の中がホッコリする。

心の準備ってことは、私の突飛な思い付きにルナリアも付き合ってくれるつもりなんだろう。

「・・・あー。うん。ごめんなさい」

過去の私は、心配する人なんて誰も居なかったしね。

法を犯したりグレーゾーンを踏み越えなければ誰にも叱られないと考えていたから、思い付くまま好き勝手に生きていたとも言える。

全てが自己責任の、いわば、社会秩序の中で可能な範囲での“完全な自由人”だったと言えるんだよね。

言い方を変えれば“孤独なボッチ”だったわけだけど。

今の私の在り方は過去の私とは違うのだから、過去と同じ在り方で居てはいけないのだろう。

ルナリアが怒るのも分かる気がするな。

ちょっとだけ反省。

「・・・ありがと。ルナリア」

「ふぇっ? んむ・・・。わ、分かれば良いのよ!」

目を丸くして口元をモゴモゴした後、ほんのりと頬を赤くしたルナリアがペッタンコの胸を張って反り返り直した。

あれ? 許された?

ディディエさんたちが兵士さんたちを呼びに行ってくれて、工兵部隊の兵士さんたちが私たちの馬を牽いてきてくれた。

動員されていた新領民たちも、今日の作業を終えて “光”術式が浮かべられた炊き出し場所へと移動して行っている。

炊き出し場所は結構な数が有るようで、建物と建物の間から調理の煙が立ち上っている。

ん? 炊き出し場所が増えるの?

「・・・新しい住居が完成してるのに、領民への割り当てはまだなんだ?」

「完成済みの住戸への割り当てはしているそうですよ」

「・・・ぴっ!? ―――、み、ミセラさん?」

不意に耳元で囁かれて、久しぶりに飛び上がったよ!

慌てて背後を振り返れば、ニンマリと笑っているミセラさんと苦笑しているレヴィアさんとマーシュさんが立っている。

「お帰り! あなたたち!」

「ただいま戻りました」

「・・・お、お帰り」

ドッキリ成功! みたいに嬉しそうにしないでくれるかな!?

ぐぬぬと見上げても、動じないミセラさんが煙の出所を指す。

「あれ、共同炊事場だそうですよ。おトイレも共同だから今夜から新住居への居住は始まるそうです」

「・・・共同? 道理で完成が早いわけだね」

なるほどなあ。配管も何も無くて窓や玄関に戸板を付けるだけで終わりだったのか。

キャンプのテントが建物に置き換わっただけだけど、いくらかの不便が有っても雨風を凌げて安全に眠れれば、住居として最低限の機能は賄えるってことだ。