軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

開眼 ㊹

「おおっ。部屋に引き籠もって出て来られないアスクレー様が」

ファーレンガルトの騎士様たちが目を瞠って驚きの声を上げる。

アスクレーくんが引き籠もりって、ファーレンガルト家でも共通認識なんだね。

これは逃がせなくなったな。

アスクレーくんが社会復帰したとファーレンガルト家に報告されて、引き籠もりが治っていなかったらガッカリされちゃう。

こんなときは、ジアえもンに頼るのが良いだろう。

「・・・じゃあ、ジアンさん。アスクレーお兄様も追加で」

「強化ですね。お任せください」

面白そうに目を細めていたジアンさんが頷く。

建設作業のお手伝いが有るルナリアと私は採掘場へ付き合えないけど、採掘場へ行く人たちは他にも居る。

もっと外堀を埋めて逃げられなくしてしまおう。

「・・・エターナさん。明日からアスクレーお兄様が採掘場へ行くから、エウリさんたちもしっかり鍛えるように言ってくれるかな」

「はっ! ご期待に添わせます!」

血の効果が出ているのかパワーが増した感じの有るエターナさんが、グッと握った拳を私に示す。

強制的に添わせるんだ?

エウリさんたちが無事に帰ってくることを祈ろう。

「フィオレ! バンダースナッチを見に行こう!」

「・・・ちょ、ちょっと待ってください。私はまだ作業が―――」

脳内トリップから帰還したアスクレーくんにグイグイと手を引かれる。

そういうトコだぞ!? オタクが世間様に引かれるのって!

スッと横合いから伸びてきた腕にアスクレーくんが捕獲された。

「フィオレ様。私が」

「ジアン! 早く早く!」

私からジアンさんへ、コンマ秒で選手交代を受け入れたアスクレーくんに私はポイッと捨てられた。

助かったんだけど、こうも簡単に乗り換えられると複雑な気分になるね。

「暫しお待ちください。―――、あなた方も今日はレティアに滞在されるのでしょう?」

「はっ! 明朝、本領へ向けて帰還の途に就く予定で有ります!」

アスクレーくんを取っ捕まえたジアンさんの目がファーレンガルトの騎士様たちへと向けられ、まるでジアンさんの部下になったように騎士様たちが答えた。

「・・・あれ? もう帰っちゃうんだ?」

「はっ。その予定なのですが、何か?」

私が首を傾げると、騎士様たちの首も傾ぐ。

「・・・帰還を数日延ばせるのなら、アスクレーお兄様と一緒に少し鍛えてから帰っても良いんじゃないかと思って」

「フィオレ様。御大とハロルド様の許可が必要では?」

騎士様たちの答えが返るよりも早くジアンさんが私を制止しに入ってきた。

採掘場自体が部外者立ち入り禁止になってるからね。

本来、ジアンさんの言い分は正しいんだけど、この件に関しては前倒しておいた方が良いだろう。

「・・・ファーレンガルト家の騎士様たちだし、許可なら私が貰うよ」

何せ、アレースお兄様はテレサの旦那様候補としてウォーレス領が推すことになっているんだから、アレースお兄様を確実に守って貰わなきゃウォーレス領の計画が狂っちゃう。

私としてもアレースお兄様には無事で居て欲しいし、アレースお兄様の身に何か有ってはミリア叔母様が悲しむ。

マークスお兄さんのご遺体を確認したときのお母様たちの姿が私の脳裏に浮かんで、ジアンさんの目をじっと見上げる。

「・・・この人たちには、絶対にアレースお兄様を守って貰わなきゃいけないから」

「フィオレ様・・・」

ジアンさんなら分かるよね? という私の心の声が聞こえたように、ジアンさんがハッとした表情を見せる。

私は猩猩と呼ばれる魔獣がどの程度強い魔獣なのかを知らない。

でも、アスクレーくんがバンダースナッチを見られなかったと落胆して帰ってきたのだから、ファーレンガルト領が直面している森にバンダースナッチが出るのは確実だからね。

魔獣の生態系に変化が生じているらしい、という話も気になっている。

森にイレギュラーが生じているのだとすれば、危険度も上がっていると考えた方が良い。

1つの方法論を知ることで、また違う方法論が生まれる可能性だって有る。

だったら、バンダースナッチの狩り方をこの騎士様たちが学んで帰ることは、決して無意味にはならない。

彼らが強くなることは、間違いなくアレースお兄様の身の安全を高めることに繋がる。

ハーヴェイお兄さんを守れなかったジアンさんの苦しみは、ジアンさんが見せたカリーク公王国に対する怒りと憎しみからも察せられた。

私はあんな苦しみをミリア叔母様たちに味わわせたくないんだよ。

そんな私の思いをジアンさんは察してくれたようだ。

「あの。一体、何のお話を?」

私の思いを察することが出来なくて置いてけぼりを食らっていた騎士様たちが揃って首を傾げる。

騎士様たちに向き直って彼らの顔を見回すと、大真面目な私の視線を受け止めた彼らは背筋を伸ばした。

私のお誘いの重要さを彼ら自身に理解しておいて貰わないと困る。

「・・・アレースお兄様や叔母様たちのために、強くなってみない?」

「強く、ですか?」

そうだよ? 問い返してきた騎士様の目を真っ直ぐに見返す。

ウォーレス領でなら、それが出来る。

ファーレンガルト領に戻った後は自分たちの力で頑張って貰わなきゃいけないけど、取っ掛かりを与えてあげることは出来る。

与えた後は、彼らに騎士の矜持が有ることを信じるしかない。