軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

迫る影 ㊱ ※アンサンブルキャスト面

「とどめ」

「ぎゃんっ!!」

ガシャンッ!! と大きな破砕音が鳴って赤い眼の誰かは動かなくなり、毛布の下の盛り上がりがモゾッと動いた。

「・・・なにー・・・?」

「何ですか!? 今の音は!!」

ベッドの上でフィオレ姉様が目を覚ますのと、控え部屋の扉が開いて不寝番のアレーナさんが飛び込んできたのは同時だった。

アレーナさんが光術式を使って部屋の中がパァッと明るくなった。

「ノーア様!?」

「・・・ノーア?」

悲鳴のようなアレーナさんの声がお部屋に響いて、フィオレ姉様の声が呼んでいるのに、真ん丸に見開かれたノーアの目は足元に釘付けになっていた。

「・・・ん~? 誰? コレ」

お部屋に忍び込んできた赤い眼の誰かを見つけたらしいフィオレ姉様の声が聞こえるけれど、ノーアは目が離せない。

アレーナさんとよく似た服を着た、何だか分からない頭の真っ白な人が白目を剥いて倒れていて、薄い青色のガラス瓶の欠片が絨毯の上でキラキラと光っている。

フィオレ姉様は強かった。

よく分からない悪い人をやっつけた。

でも―――。

「ノーア様! お怪我はございませんか!?」

駆け寄ってきたアレーナさんに抱き寄せられて、白目になった赤い眼の人から引き離される。

ベッドから足を出そうとしたフィオレ姉様にアレーナさんの声が飛ぶ。

「フィオレ様! 寝台から下りないでください!」

「・・・えっ? あ。ハイ」

まだ頭が半分寝ているらしいフィオレ姉様がベッドの上に戻り、目を厳しくしたアレーナさんが気絶している赤い眼の人を見下ろす。

「この者は侵入者ですか?」

「・・・そうじゃないかなぁ。見たこと無い人だけど、エクラーダ人? いや・・・、ちょっと違う感じ?」

あふ・・・。と、1つ欠伸をしたフィオレ姉様が赤い眼の人に目を向けた。

眉根を寄せたアレーナさんが思案顔になる。

「衛兵を呼んで来たいのですが、どうしましょうか」

「・・・私が拘束しておくから行ってきて」

気安い口調で言ったフィオレ姉様はゴソゴソと枕の下へ手を突っ込んで、取り出した魔石をアレーナさんに示す。

「しかし・・・」

「・・・大丈夫大丈夫。バンダースナッチよりも強いってことはないと思うし」

緩んだ笑顔で手のひらをお辞儀させるようにパタパタと手首を振るフィオレ姉様に、念押しするようにアレーナさんが目を向けた。

「近付いてはいけませんよ?」

「・・・分かったー。ノーア、おいでー」

いつものように優しく呼ぶフィオレ姉様の声に、ノーアの心が再起動する。

途端にフィオレ姉様の姿がぼやけて滲む。

人を呼びに行ったらしいアレーナさんが廊下を走っていく足音が遠退いてく。

堰を切ったように湧き上がってくる涙がポロポロとノーアの頬を伝い落ちた。

「姉様ぁ・・・」

「・・・えっ!? ど、どうしたの!?」

すごく悲しくなったノーアは、のそのそと裸足の足を動かして姉様のところへと向かう。

赤い眼の人を大きく回り込んで、ベッドの上で両手を広げて待っている姉様にギュッと抱き付く。

「姉様・・・。フィオレ姉様死んじゃった」

「・・・ふぁっ!? 私、生きてるよ!?」

完全に目が覚めたようで驚いた声を上げるフィオレ姉様の胸に、おでこをぐりぐりと押し付ける。

そうだけど、そうじゃないのだ。

フィオレ姉様そっくりな色のフィオレ姉様がバラバラになって死んでしまったのだ。

大切にしていたのに。

一緒にお昼寝していたのに。

すごく悲しい。

涙が出て止まらない。

フィオレ姉様が優しく頭を撫でてくれるから、嬉しいのに悲しい。

悲しいで頭が一杯になって、なんて答えれば良いのか言葉が出て来ない。

「・・・うーん? 私が死んだって、どういうことだろう?」

言葉が出て来ないから、ぐりぐりとおでこを押し付ける。

フィオレ姉様は赤い眼の人に目を向けたようだ。

「・・・死んだ・・・。壊れた? ああ。もしかして、ガラス瓶のことかな?」

涙は止まらないし、言葉はまだ出て来ないけれど、コクコクと頷く。

姉様はちゃんと分かってくれた。

「・・・これ、ワインの瓶だよね? ヨシヨシ。大丈夫だよ。なんで私なのか分かんないけど、この瓶のワインなら、またお爺様たちが飲むし貰ってあげるからね。ね?」

「にゃ・・・」

安心したら言葉が出て来た。

フィオレ姉様が大丈夫というなら、きっと大丈夫なのだ。

フィオレ姉様は強い。

悪い人もやっつけたし、大丈夫。

安心したら眠くなってきた。

ヨシヨシと頭を撫でて背中をトントンとされていると、目を開けているのも辛くなってきた。

「・・・大丈夫。大丈夫」

「にゃ・・・。ねえさま、だいすき」

トントンと心地良い感触を背中に感じている内に、ノーアの意識は溶けて優しい温もりの中に沈んでいった。