作品タイトル不明
精霊姫 ㉖
「そのときです! 祝詞を捧げられているフィオレ様を中心に神秘なる光が舞い上がり、満天の星よりも明るく空を覆い尽くしたのです!!」
「「「「「ほおおおおおおお~」」」」」
「「「えっ!?」」」
耳に飛び込んできた声に、私たち3人が耳を疑う。
どういうこと!?
新人さんたちの隙間から演壇を見れば、気合いの入った朗読劇のような、あるいはオペラ女優のような身振りを付けたディディエさんが壇上で熱弁を振るっている。
壇上にはダーナさんとエターナさんの姿も有る。
「そのお姿は、まさしく精霊様の化身! どこかの神教会が崇める”神”などという紛い物ではなく、フィオレ様こそが私たちの 道標(みちしるべ) なのです!!」
ディディエさんの声の合間に恍惚としたダーナさんの声が差し入れられ、聴衆が響めく。
おかしな熱気で包まれた異様な光景に、私の脳が情報の理解を拒もうとする。
いや待て! 現実逃避するな!
自分を叱咤することで、ようやく脳が状況を分析し始める。
視覚情報と聴覚情報が脳内で統合されて、「とにかく拙そうだ」との結論に達する。
ちょ!! 何やってんの!?
想定外の行動に教育係の一人を務めていたマーシュさんも私たちと一緒に驚いている。
ディディエさんの隣でウンウンと大真面目な顔で頷いていたエターナさんが、ズイッと一歩踏み出す。
明らかに同胞であるエターナさんへと難民たちの視線が集中する。
大きな動きで北門の方向をビシッと指す。
「あなたたちも巨大な慰霊碑を見たでしょう! あの慰霊碑は、遙か西方からでも死者が迷わず精霊様の下へと帰れるようにと、フィオレ様 御自(おんみずか) らの手で、僅か一日で建ててくださったものです! 魔の森へと帰って行ったあの光こそは死者の魂が精霊様の下へと召された証拠! 私たちが失った家族も、友人も、隣人も、迷わず帰ったのです!」
「「「「「おおおおおおおお~」」」」」
感嘆の声を聞いたエターナさんの陶酔の表情にイラッと来る。
「有りがたや有りがたや」
「精霊姫様だ。姫様は家族の魂を救ってくださった」
感激した表情の難民たちが両手の指を組み合わせ、滂沱と涙を流しながら祈りの姿勢を取っている。
聴衆の方も正気なのか怪しい。
エターナさんも共犯か!!
これ、 教化(せんのう) だよね!?
私が避けようとした教祖型宗教組織の 煽動(アジテート) じゃん!!
何てことしてくれてんの!!
「・・・あわわわわわ」
止めたいけど、煽動側も聴衆側も熱が入ってしまっている以上、止めに入っても聞いて貰えるかどうか極めて怪しい雰囲気だ。
ただでさえ難民たちを刺激したくない状況なのに、迂闊に「そんなんじゃねーよ」なんて否定したら暴動に繋がりかねない。
ていうか、ディディエさんもエターナさんも大袈裟に偏った解釈を加えて演説をぶってるけど、言っていること自体は嘘じゃないのがこの上なく始末が悪い。
精霊絡みの解釈も大袈裟では有るけど、「そうなんじゃないかなー?」という見解が家族の間でも支配的なだけに否定し辛い。
ここで熱を帯びた表情のダーナさんがトドメを刺しに一歩踏み出す。
「良いですか!? フィオレ様こそは精霊様に愛され、精霊様が遣わしてくださった魂の救い手なのです! フィオレ様は、いつも必ず“生きよ”と励まされます! あなたたちの受け入れを働き掛けてくださったのもフィオレ様です! 国王陛下さえもフィオレ様の働き掛けをお認めになられたそうです! フィオレ様は誰もが豊かに暮らせるようにと、いつも心を砕いてくださっているのです! フィオレ様を信じなさい! 私たちはフィオレ様のお導きに従い、日々、励まねばなりません!!」
「「「「「おおお―――ッ!!」」」」」
大きく両腕を広げて訴えるダーナさんの声に、難民たちが拳を天に突き上げて応える。
熱狂的な雄叫びの合間に個々の叫びが響く。
「私はヤルわ! 精霊姫様へのご恩をお返しするわ!」
「俺もだ! 精霊姫様のお導きに従うぞ!」
「精霊姫様に感謝を! 精霊姫様は儂らの救いだ!」
信仰心なんてものの持ち合わせがない私の目には狂気としか映らないけど、間違いなく彼ら彼女らが本気であろうことは伝わってくる。
ダメだコレ・・・。もう止めようがない。
私の両膝から力が抜けてガックリと 頽(くずお) れる。
精霊姫って何だよ。
いや、フレーリアはお姫様だったらしいし、私の体の中に精霊が住んでるっぽいのは私も自覚が有るけどさ。
王様たちとの話もニュアンスに誤差が有るように感じるだけで、嘘じゃないから否定できない。
「ちょっ! フィオレ!? しっかりするのよ!!」
「・・・あばばばばば!」
私の襟首を両手で掴んだルナリアにガクガクと体を揺すられるけど、抵抗する気力もなく揺さぶられる。
きっと今、私の口からは 霊魂(エクトプラズム) がコンニチワしていることだろう。