作品タイトル不明
精霊姫 ㉗
こういうのって、布教活動や政治思想闘争だけじゃなく、結婚詐欺師みたいな人を食い物にする連中の手口でもあるんだけどね。
疲れて心が弱った人の隙や焦りに付け込んで優しくしたり希望を与えたりで、近付いて取り込むのは下心を持った人間の常套手段なんだよ。
宗教や政治なんて生臭いものよりも、もっと身近な例で言えば、失恋した女性に近付いて口説く卑劣なチャラ男が用いるのも同じ手口だね。
えーっと。なんて言ったっけ?
アレだ! マインドコントロール! 違ったかな?
心の疲労に精神的な依存が加わると、普通の精神状態なら拒否したり「おかしい」と気付けるものでも気付かなくなる。
本人が望んだ形の洗脳状態は意外なほどに強固なもので、周りが何を言おうが耳を貸さなくなるんだよ。
宗教にハマるお気の毒な方々や言い寄るチャラ男に入れ込むお手軽な方々なら、大変だなあと遠くから眺めておけば良いけど、自分の意思に関係なく祭り上げられるのが私自身だとなれば洒落にならない。
テレサの心の強さと絶望感を、こんな形で思い知られるとは。
ルナリアの声で正気に戻ったのか、私の存在を難民たちに 気取(けどら) られた。
「・・・うっ!!」
最初に気付いたのは、ほんの数人。
彼らの視線に釣られて熱に浮かされたような難民たちの視線が一斉に私へと向いた。
養鶏場のニワトリを連想させる動きで多くの視線が集中して、私の背筋にゾクッと怖気が走る。
怖っ!! ガンギマリじゃん!!
「精霊姫様だ!」
「フィオレ様が戻られたぞ!」
「フィオレ様!」
「精霊姫様!」
視線恐怖症なんて持っていなかったはずの私でも、たじろぐ。
逃げ出したいけど、逃げるわけには行かない。
口々に期待の籠もった声が上がるだけで近寄って来ないのが、せめてもの救いか。
これでゾンビか麻薬中毒患者のように近寄って来られたら、悲鳴を上げていた自信が有るよ。
だけど、この人たちはゾンビでもジャンキーでも無い。
ただ、 精神操作(マインドコントロール) されて自分を見失っているだけの普通の人間だ。
SAN値は減ってるかも知れないけどね!
「・・・くっ! 見つかった!!」
「ブフッ。精霊姫様だって」
「・・・ぐあああ―――ッ!!」
どうやって無かったことにしようかと焦っているのに思わぬところから追撃が入った。
ニヨニヨと面白そうに笑うルナリアのからかう声に、羞恥心に両手で顔を覆って悶絶する。
誰だよ、精霊姫なんて言い出したの!!
中二病っぽくてメッチャ恥ずかしい!!
思春期の黒歴史を友だちに暴かれて悶絶していた同級生は、こんな気持ちだったのか!!
私を弄ってくる友だちなんて居なかったから、こんなに恥ずかしいものだとは知らなかった!!
私のSAN値もゴリゴリと削られそうだよ!!
「フィオレ! ルナリア!」
「・・・あっ。は、はい!」
「はーい!」
拙(まず) い。
お婆様たちにも見つかって、演壇の脇で手招きされている。
今は恥ずかしがってる場合じゃない。
何としてもこの場を収めて、住居建設に難民たちを協力させなければ。
どうしたものかと私が頭を悩ませているというのに、ご機嫌なルナリアはポワポワと軽い足取りでお婆様たちの下へと歩いて行く。
くっそう。ルナリアめ。
超絶モテ期で求婚者の群れに取り囲まれたときに、からかってやるからな。
こんなのテレサに知られたら、ずっとからかわれそうだよ。
演壇の後ろに居並んでいるお婆様たちの傍へ急いで駆け寄ると、達観した表情のお婆様たちはエターナさんたちの暴走行為を見守る姿勢だったようだ。
「ハロルドたちとの話は終わったのかしら?」
「・・・住居数が不足しそうだから住居建設事業に動員したいと」
「そうでしょうね」
難民たちの耳が有るから「何を」動員したいとの主語は口に出さない。
私の意図を理解してくれたお婆様たちが揃って頷く。
この状況下においても、領主館のメイドさんたちは黙々と荷馬車から下ろされたシカを解体していて、数人のメイドさんたちは土魔法で即席の竈を作って炊き出しの準備を進めている。
メイドさんたちの精神力、というか、度胸の据わり具合も大したものだよね。
さすが、ウォーレス家系の血を引いている女性たちだ。
熱の籠もった目を向けてきている難民たちをチラリと目線で示す。