軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

特務魔法術師の弟子 ⑩

お屋敷———、というか、砦の中に響き渡るシュプレヒコールの後、私たちはハロルド様の領主執務室へと出頭した。

うん。出頭だよ。

森では多くの人が居て大事な話が出来なかったから私と話がしたい、って伝言が来た。

ハロルド様もフレイア様も、聞きたいけど聞けなかったことは、私も、そうだろうなあって思っていたし、ウェルカムだよ。

「来たわ! お父様! 叔母様!」

ノックも無しに重厚な木製扉をバーンと開け放ったルナリアに、執務室の中では、最奥の大きな机に座って書類を手にしたままのハロルド様が頭を抱えていた。

「おう。こっちに座れ」

3人掛けの大きなベンチソファーの真ん中にどっかりと掛けているフレイア様が、私たちを手招きする。

指し示されたのは、フレイア様の向かい側のベンチソファーだ。

「分かったわ!」

「・・・はい」

大きな溜息を吐いたハロルド様がフレイア様にジト目を飛ばしたのは、扉を開ける前に入室の許可を問うノックをしないルナリアのお行儀についてなんだろうけど、フレイア様の影響かな?

フレイア様も、執務机からソファーへと席を移してきたハロルド様も、目を細めている。

んん? ルナリアに、じゃなく、私?

「なかなか似合っているじゃないか」

「そうだな。見違えた、・・・と、世辞を言うほどでは無いか。元が良いから何を着ても似合うようだ」

「・・・あ、ありがとうございます」

元日本人の条件反射で行儀良く頭を下げながら礼を述べる。

ん? フレイア様もハロルド様も、複雑そうな顔をしてる?

今、ハロルド様にも褒められたんだよね?

フレイア様が、壁際に控えているメイドさんたちを見た。

「お前たちは席を外せ」

「フレイア、今後のこともある。ワールターは同席させたほうが良いんじゃないか?」

「ふむ。それもそうか」

一礼したメイドさんたちが、音も無く退室して行った。

フレイア様が 主(しゅ) ? ソファーに座っている位置もフレイア様が真ん中だし。

ハロルド様の一歩斜め後ろに立ったワールターさんが、ルナリアを見て目を細める。

「フレイア様。発言の許可をいただけますか?」

「構わん」

やっぱり、フレイア様が主だよね? フレイア様の隣に直属の上司が居るのに良いの?

ワールターさんが、ルナリアに向き直って胸に右手を当て、目を伏せた。

「先ずは、お嬢様、お帰りなさいませ。無事のご帰還を、お喜び申し上げます。そして、マーサの不義を見落としましたこと、深くお詫び申し上げます」

首を振ったルナリアが、ワールターさんを見上げる。

「もういいわ。マーサのお陰で、わたしはフィオレと出逢えたのだし」

「寛大なお心、ありがとうございます」

「ねえ、ワールター。・・・マーサたちは?」

諦観を湛えた目で問う。

沈痛な面持ちのワールターさんが、ルナリアの目をしっかりと見た。

「昨日、トーマスの遺体がナーガ川の河畔で発見されました。今は、ユーエンとマーサと三人一緒に安置しております」

「やっぱり・・・」

ルナリアの顔が、泣き出しそうに歪む。

「・・・トーマスさんって?」

「ユーエンとマーサの一人息子だ。まだ3歳だったか」

ごくりと、私の喉が鳴った。

「・・・殺された、んだよね?」

「首を絞められたようでな。首の骨が折れていたそうだ」

「・・・そう」

ルナリアを暗殺するために、何の罪も無い幼児まで苦しめて殺したのか。

ますます、許せないな。

殺したルナリアのお兄さんたちから人間の尊厳まで奪おうとしたことも許せないし。

柄にも無く頭に血が上りかけた私の頭を冷やしたのは、ワールターさんだった。

「フィオレ様」

「・・・え? 私?」

落ち着きのある真摯な目で見つめられて、思わず背筋が伸びる。

「お嬢様をお救いいただき、本当にありがとうございました。マークス様のことも」

「・・・お礼なんていい。ルナリアに会えて、私も助けられた」

老執事さんが、ゆっくりと首を振る。

「いいえ。マークス様の死が確定した以上、ルナリア様は、我ら、ウォーレス家の希望。ウォーレス家家臣一同を代表して、心よりお礼申し上げます」

こうまで言われての謙遜は、失礼にあたるだろうね。

「・・・分かった。受け入れる」

「ありがとうございます」

深く腰を折って一礼したワールターさんに、私も会釈で返した。

「オジギ・・・。二ホン人の習慣だったか」

「・・・そうだね」

フレイア様の問うでもない問いに、敢えて私は答えた。

驚きの色を織り交ぜながらも、ハロルド様の目が私を真っ直ぐに見ている。

「フィオレ。君はチキュウ世界から召喚されたのかい?」