軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

特務魔法術師の弟子 ②

「イカレたガキめ・・・!」

「何だと?」

ルナリアへの罵倒に、目を怒らせて低く唸ったハロルド様が今にも剣を抜きそう。

憎悪を滾らせた目で男はハロルド様を睨み返す。

「ウォーレスのような狂人どもはリテルダニア王国に不要なのだ! 見ろ! こんな小便臭いガキでさえ、人間を殺しまくって平然としている!」

「・・・ルナリアを悪く言ってるみたいだけど、それ、私のことなんじゃ?」

崩落に巻き込まれたのとワナに掛かったので、やっぱり何人か死んだっぽい?

男の目が私に向く。

「なんだ? この汚いガキは?」

「・・・ワナを仕掛けたのは、私。ルナリアはお手伝いしてくれただけ」

「ハッ! こんな貧民のガキに、あれほどの罠を張れるわけがあるか!」

鼻で笑われた。ちょっとカチンと来ちゃったな。

貧民で悪かったな。

その浮浪児に、あんたたちはコテンパンに 殺(や) られたんだよ。

「・・・聞いて良い? 崖で足を滑らせて何人死んだ? 崩落で何人か埋まったのかな? 木杭が刺さった人はまだ生きてる? 自分のワナで何人を仕留められたか興味あるんだけど」

「なっ!? はぁっ!?」

男が目を剥いた。

へえ? やっぱり崩落現場のワナにも掛かってたか。

自分の口角が引き上がるのを自覚する。

私が仕掛けたワナだって納得した?

ルナリアたちを騙して暗殺しに来ておいて、鈍臭い自分たちが逆に殺されたからって、ルナリアを責めるのか。

ブービートラップってね、“間抜けワナ”って意味だよ。

もう、目の前の男が、私の目には生ゴミにしか見えなくなっていた。

「・・・あなたたちがルナリアを襲ったときに、現場からルナリアを連れ出したのも、私。間抜けな能無しが、ルナリアに言い掛かりを付けるのは止めて欲しい」

「こ、このガキィ! ―――ガッ!」

一転して顔を真っ赤にして激高しようとした男が、ゴツッ! っと私の視界から消えた。

男の顔が有った場所に代わりに有るのは、女性らしく、すらりとした 御御(おみ) 足(あし) 。

横っ面を蹴り飛ばされ、吹き飛んで俯せに倒れた男の所へ、腰のサーベルを抜き放ちながらつかつかと歩み寄ったフレイア様が、淀みない腕の振りで2閃する。

倒れ込んだ男を取り押さえに行き掛けた騎士様たちが、巻き添えを食らいそうになって危うく飛び退いていた。

「―――ギャアアアアアアッ!!」

1閃するたびに、縛られた男の両腕が、両脚が宙に舞って、一拍して絶叫が森に響いた。

「うがあああああああああっ!!」

両肘の上と、両膝の上。フレイア様が剣を握っていない側の手を軽く振っただけで、4ヶ所の斬り口にボッと燃え上がった焔が血液と肉が焼ける臭いを周囲に振り撒く。

焼き潰されて血管が詰まったのか、傷口から噴き出していた鮮血が止まった。

「ピーピーと、やかましい」

「―――グハッ!」

無くなった両腕と両脚をばたばたと振り回している俯せの男の腹を蹴り上げて、仰向けにひっくり返したフレイア様が、サーベルの切っ先を男の鼻先へと突き付けた。

「―――ヒッ」

「簡単に死ねると思うなよ? 私は治癒術式も使えるから自害は許さん。ルナリアの件、マークスの件、全てを話すまで、何度でも癒して、何度でも斬り刻んでやる」

奥底に激怒を胎んだ絶対零度を下回るフレイア様の冷ややかな深緑色の瞳が、絶叫するほどの激痛を忘れさせるぐらいに男を凍り付かせる。

「・・・うわぁ・・・」

格好いいんだけれど、あまりの早業と容赦無い行動に、私もちょっとだけ引いた。

ルナリアなんて、目を見開いてガクブルしている。

鼻先に突き付けるって言うか、もう鼻の頭に切っ先が刺さってるよね?

青くなっている騎士様たちは、もちろん、キレかけていたハロルド様も引いている。

縛られて跪かされている他の男たちなんて、青も白も通り越して脂汗まみれの顔色が土気色になっている。

欧米系は目よりも口元で感情を表すと言うけれど、そんなことは無い。

“目は口ほどに物を言う”という日本の諺は、十分に欧米系にも当て嵌まるよね。

それとも、目の光だけで心情を読み取る日本人の感性が特殊なんだろうか?

「連れてこい!」

「「「「「は、はっ」」」」」

ブチ切れたフレイア様が手足を失くした男の首根っこを掴んで引き摺って行き、フレイア様から命じられた騎士様たちが大慌てで残りの男たちを引っ立てて行った。

ここから先は「大人の時間」だそうだ。

成仏しろよ? いやいや、成仏させてもらえないってフレイア様が言ってたね。

ハロルド様は、騎士様たちに忙しなく指示を出し、指示を受けた騎士様たちが馬の鞍に飛び乗って駆け出して行く。

敵はコーニッツ・ムーアの両家。

非常勤の兵力の招集に、武器や防具の手配。

馬の飼葉や兵糧の手配。

親族と思われる名前が次々に挙げられて、マークス様発見の伝令。

戦争が始まるんだなあ、って空気は分かるんだけど、子供である私たちはすることが無くてヒマになった。

「・・・仕方ない。昨日仕掛けたワナでも見に行こう」

「ええ・・・?」

「・・・行かない?」

「行くけど」

「・・・じゃあ、行こう」

ルナリアの手を引きながら、木漏れ日を見上げる。

終わったなあ。

本当に濃い数日間だった。

戦争って言われても、現代日本人メンタルの私には実感が無いんだよ。