軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

特務魔法術師の弟子 ①

「・・・掛かってる」

「ほんとうね! やったわ!」

「ほほう。かなりの深手を負ったと見える」

ルナリアは飛び上がって喜んでいるし、フレイア様も悪戯に成功した子供みたいな笑みを浮かべている。

発動済みの振り子ワナの木杭は何本かが失われており、若木の枝葉やストッパー周辺の落ち葉には、べったりと血痕が残っていた。

運が悪い野生動物が掛かったのかと疑ったけど、木杭を縛っていた蔓を断ち切っている断面は鋭い刃物で切断されたものだし、トリガーを踏んだであろう靴跡がしっかりと残されていて、掛かったのは敵兵だと判断された。

洞の樹から崖の崩落跡までの道のり、すでに数か所の未作動ワナを作動させて処理し、興味津々の騎士様たちにワナの仕掛け方のコツなどの質問に答えながら来たのだが、今までの落下ワナや落とし穴は空振りだったんだよね。

現場に残された血液の量からワナによる傷の深さを想像したのか、騎士様たちは静かになってしまった。

フッフッフ。まだまだ、こんなものじゃ無いよ? 敵兵をビビらせるのに最大の威力を発揮したワナは崩落現場に仕掛けたヤツだったし。

まあ、「仕掛けた」って言っても枝を1本置いただけなんだけどね。

「・・・おお」

「これは・・・すごいわね」

遠目に確認して、間近にまでは見に来られなかった倒木のアレだ。

木々の間を抜けて崩落跡の目と鼻の先まで来ると、私たちが上り下りしたときよりも樹間に見える現場が明るくなっていて、追加で薙ぎ倒された木々と押し寄せた土砂で私たちは森から出られなかった。

フレイア様から、呆れたような視線が飛んできた。

「お前、一体、何やったんだ?」

「・・・障害物を避けたら倒木が転がるように誘導はしたけど、ここまで派手になるとは思ってなかった」

樹間から垣間見える崩落現場は、中ほどに有った3メートルの段差が無くなっていて、少なくとも厚さ1.5メートル以上の岩石と土砂が新たに崩落した様子が伺われた。

「敵が掛かったかどうかは確認のしようが無さそうだな」

「・・・うん。まだ崩れるかもしれないから、近付くのは危ないと思う」

騎士様たちは、突入を命じられなくてホッとしているようだ。

何人、埋まってるかな? と楽しみにしていたのだけれど、確認も出来なくて残念だよ。

「崖下のワナも埋まっちゃっているみたいだし、解除する手間が省けたわね」

見上げるルナリアにフレイア様が肩を竦めて返したので、同意したのかな?

「・・・じゃあ、任務完了で良い?」

「おう。ご苦労だった」

ルナリアと二人してぐりぐりと撫でられた。

日が昇ってからそう経っていない内に松の樹まで私たちが戻ってくると、騎士様たちの数が一段と増えていて、人が増えているのに昨夜よりも静まりかえっていた。

みんな、殺気立ってる・・・?

気にした様子も無いフレイア様に付いて騎士様たちの中へ入っていくと、人の輪の中に険しい表情をしたハロルド様が立っていて、縛られた数人の男たちが跪かされているのが見えた。

つかつかと歩み寄ったフレイア様を、ハロルド様がチラリと見る。

「戻ったか」

「おう。こいつらか?」

「間違いないと思うが」

ハロルド様に手招きされたルナリアが、感情の無い人形のような顔でハロルド様の隣に立って、男たちを見る。

私やルナリアって、まだ小さいから、地面に座った成人男性の前に立っても、大して目線の高さが変わらないんだよね。

つまり、座った相手に睨まれると、下から睨み上げる目線と、まともに目線を合わせることになる。

ルナリアが心配だから、私もルナリアの傍に寄り添った。

近くまで来たら、男たちの顔がよく見える。

ああ、この真ん中のコイツ、あのときの指揮官っぽい奴だね。

凍てつくような眼差しで男の顔を見下ろすフレイア様が、スゥッと目を細める。

「お前の顔・・・、見覚えが有るな。2年前、ムーアの屋敷を焼きに行ったときに、守備隊に居た奴だろう」

「―――くそっ・・・」

顔を逸らして悪態とか、それ、認めたようなもんだよね?

「ルナリア?」

ハロルド様に問われたルナリアが頷く。

「こいつらよ。この男が、わたしの目の前でマーサとヘンリーを殺したわ」

「そうか」

静かに頷いたハロルド様の身体から、怒りのオーラが噴き上がったように幻視した。

憎悪に満ちた目でルナリアを睨み付ける男が舌打ちする。

相手から危害を加えられる状況じゃないと分かっていても怖いよね。

力が入ったルナリアの手をそっと私が取ると、ルナリアは男から目を逸らさないまま、微かに震える手でキュッと私の手を握り返してきた。