作品タイトル不明
精霊信仰 ⑩
「・・・あのね。他者の魔力には干渉出来ない、って言うよね?」
「魔法術式の基礎知識ですね」
「・・・アレね。“生きてる相手の”って但し書きが付くと思うよ」
採掘場での特訓と、アンリカさんの治療と、王妃様の治療と、ディディエさんたちの治療とで、確信が深まった。
私は暗に「世界中が信じ込んでいる定説が間違っている」と言ったわけで、その意味を正確に理解したらしいジアンさんが、難しい表情になる。
「ちょっと待ってください。それが事実であれば、魔法技術の歴史に遺る大発見の偉業になるのでは?」
「・・・そうなの?」
おや。偉人になれると?
まあ、今でも「異人」だけど。
「魔力に関する知見の根底がひっくり返ります。然るべき手順を踏んで公表すれば、間違いなく、フィオレ様のお名前が魔法史に刻まれますよ」
「・・・ふーん。そんなの、どうでも良くない?」
いや。マジで、どうでも良いな。
それで西方諸国や勇王国の連中が攻めて来なくなるならメリットだけど、私にはデメリットになる状況しか思い浮かべられない。
むしろ、積極的に攻めてくる理由を増やすことになりかねなくない?
「途轍もない栄誉だと思いますが」
「・・・大々的に発表したら、敵にも知られちゃうんでしょ? どうせ、その内、広まるものだと思ってるから出し惜しみをするつもりは無いけど、敵が技術を得るまでの猶予は長い方が良いと思ってるよ」
私にとっては、個人の栄誉よりも王国やウォーレス領の安全の方が重要だよ。
ジアンさんが眉間を険しくして思案顔をする。
「そうですね。その辺りは、またご相談させてください」
「・・・分かったー」
粘るなあ。
真面目くんか? 真面目くんだったな。
政治的利用の他に名声なんて使い道が無いじゃん。
もう王様から"銘”を貰ったし、それで十分じゃないの?
気のない返事に私の心情を感じ取ったのか、小さく息を吐きながらジアンさんがこめかみを揉む。
「で。“生きている相手の”とは、どう言った意味なのでしょうか?」
「・・・文字通り、“生きている相手の”魔力だと干渉を受け付けないんだよ」
即答すると、数秒間の黙考の上で、ジアンさんは正答に辿り着く。
「つまり、“死んだ生物の魔力”であれば干渉できる、と」
「・・・そういうこと」
私の答えに、ジアンさんは左手に握り込んでいた魔石へと目を落とす。
「なるほど。確かに、“死んだ生物の魔力”ですね」
「・・・でね。ジアンさんには、先ず、魔石の魔力の“質”と、自分の魔力の“質”の違いを認識して貰います」
ここからが、ジアンさんがすべきことだね。
「質・・・、ですか」
「・・・そう。具体的には、自分の魔力を魔石に伸ばして、魔石の魔力の中に入り込む訓練だね」
「それに、どう言った意味が?」
想像し辛かったかな? もうちょっと補足説明を入れておくか。
「・・・それってね。自分の魔力と魔石の魔力の境界線が無くなるってことなんだよ」
「境界線が・・・」
うーん。もう一押し?
ジアンさんは真面目な人だから、常識として記憶した固定観念の壁を乗り越えるのに、お母様よりも心理的障壁が高いのかも。
「・・・ジアンさんは“紅蓮”を使える?」
「はい。習得しております」
「・・・だったら、自分が“紅蓮”を何発撃てるか分かるよね?」
気付いたらしいジアンさんの目が大きく見開かれる。
「境界線が無くなることで、回数の制約が無くなると」
「・・・いくらかは消耗するから、無限に、では無いけどね」
魔石の魔力を使用する行為そのものにも魔力は消費されるから、体内保有魔力の消耗はゼロにまではならないけど、消耗量は体感で生活魔法レベルぐらいには抑えられる感じだと思う。