作品タイトル不明
ピーシス領動乱 ③
新たな門出なんだから、カツで 験(げん) 担ぎだ。
ていうか、私が食べたいだけなんだけどね、トンカツ。
クリームコロッケも食べたいけど、トンカツも食べたい。
お塩で下味を付けるだけになるけど大丈夫だろう。
タイム以外にお肉の臭みを消すための香辛料を見つけられていないから、コロッケを先に揚げなきゃな。
コロッケまでお肉臭くなっちゃう。
「・・・パンはどうかな? 固くなってても良いから、たくさん欲しい」
「大丈夫でしょう。本邸は人数が多いですし、戦時の物資集積機能も有りますから、パンの作り置きもしているはずです。足りなければ私たちで焼きますよ」
言い切るマーシュさんも頼もしい。
パン粉が欲しいんだよね。
揚げ物の美味しさは衣がキモだと私は信じている。
パン粉って、どうやって作れば良いんだろう? おろせば良いのか。
固くなったパンの方が削りやすそうだけど、生パン粉? とかが存在するのだから焼きたての柔らかいパンでも削れないことは無いはずだ。
「・・・“おろし金”―――、ううん。目の粗いヤスリって有るかな?」
「ヤスリって、大工道具のですか?」
ヨシ。通じた。
おろし金は通じなくても、風ジェットカッターの説明をするときに、お母様と話していて「ヤスリ」で意味が通じたから、こっちの世界にもヤスリは有るはずだと思ってたんだ。
「・・・パンを細かく削りたいんだよね。厨房でヤスリって使うことある?」
「使いませんよ。ヤスリは大工道具ですから」
やっぱり、おろし金は無さそうかな。
「・・・借りられないかな? 新品で売っている鍛冶屋が有るなら、買ってもいいけど」
「大工道具なんて、鍛冶屋に注文して作って貰うものですよ」
ふぅん? オーダーメイドなのか。
オーダーメイドなら、おろし金も作れる?
大鋸(おおが) みたいな専門的な大工道具も、普通はオーダーメイドなんだっけ。
どこかで、そう聞いた気がするけど、確認したことが無いから実際にどうなのかは知らないな。
そもそも、大きなノコ刃の両端に取っ手が付いた大鋸なんて二人で使うものだし、ボッチだった私には縁の無い文明だった。
「・・・じゃあ、また、日を改めて注文するよ」
「では、本邸の大工道具の中から借りてくれば良いのですね?」
「・・・うん。ヤスリの洗浄は私がするから」
マーシュさんの再確認に頷いて返す。
おろし金だけじゃなく、生パスタに備えて延ばし棒も欲しいな。
木工製品だから、そっちは大工さんに発注することになるのか。
「クリームソースは、以前と同じ材料で良いのでしょうか?」
レヴァイアさんからの問いに頷く。
追加要求も有るけど、基本的には、それで良い。
イノシシ肉を使えるのなら、出て来るのは私の顔よりも大きなブロック肉だろうから、一部をミンチにしてコロッケの具に入れても良いな。
他の具は玉葱と人参で良いか。
全部、みじん切りで炒めてホワイトソースに混ぜ込もう。
レヴィアさんに教えて貰った野菜の名前を記憶から引っ張り出す。
「・・・シーヴァとカロタに、あと、卵も欲しいかな。衣を付けるから」
「衣・・・。服、という意味ですか?」
揚げ物が無いなら、衣という概念が無くても不思議は無い。
食べれば分かることだし、ヤル気を出して貰うことの方が重要だ。
ヤル気を出して貰うには、こう言えば良い。
「・・・食感がサクサクで美味しくなるんだよ」
「集めて参ります。無ければ鳥を締め上げてでも生ませますとも」
ヤル気マンマンになったレヴィアさんと頷き合う。
「・・・そんなところ、かな」
「「「承知しました!!」」」
打ち合わせを終えて、三人が足音も無く、静々と、それでいて走るようなスピードで散っていった。
ヤル気が有るのは良いことだ。
私としても、約束事の一つを消化したことで気持ちが少しだけ楽になる。
ロス家の三人娘と入れ替わりに、ルナリアを囲んだピーシーズが私の下へやってくる。
「フィオレ!」
「・・・お待たせ。ルナリア」
いつもなら片手を挙げて挨拶したり、ハイタッチしたりするんだけど、今は出来ない。
視線が定まらないルナリアも分かってくれている様子で、そのことには触れてこないな。
朝の様子で面倒くさそうだから全力でスルーする方針か。
イレギュラーは有ったけど、一先ず、無事に立ち会いを終えて、今日、ピーシス家委任統治領へ来た目的は、ここまでのところは達成したと考えて良いだろう。
「なんか、土術式が上手くなってない?」
「・・・こないだの大穴と併せて、多少はコツを掴めたから、かな」
以前、土魔法のコツで、ノイエラさんが「魔力を地面に浸透させてから」と教えてくれたことを思い出す。