軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

猫耳ニンジャ爆誕 ①

実験を含めた「日課」を終えた私たちがレティアの北門へ戻ってくると、トンネル状の城門を潜った向こうの町の中が何だか騒がしい気がする。

私たちの顔は知れ渡っているので、挨拶されることは有っても当然のことながら止められることは無いから、馬の足を止めて城門の監視当番に当たっていた領軍の兵士さんを捕まえる。

「・・・何か有ったの?」

「ああ、いえ。西部地域からの移民―――、避難民でしたか。ご領主様の命で輜重部隊が連れ帰って来たのですよ」

「・・・おっ、来た。―――、どこに行ったか分かる?」

「ご領主代行閣下に報告するとのことでしたので、領主館の訓練場では無いかと」

「・・・ありがとう。行ってみるよ」

お礼を言うと、笑顔で首を振った兵士さんが検問業務に戻っていく。

緊急事態では無くて安心した。

西部からだと、お母様からの手紙とか預かって無いかな?

馬の腹を両踵で優しく蹴って領主館への帰路に戻る。

ニヨニヨと緩みそうになる顔を引き締めるのに苦労していると、馬に揺られながら首を傾げていたルナリアのジト目が飛んできた。

「ねえ、フィオレ? 避難民って?」

「・・・ふっふっふ。新しい労働力だよ」

提案した「引き抜き」が採用されていたはずだけど、西部地域の状況が分からないからルナリアたちに、ちゃんと話してなかったんだっけ。

「ふぅん? 良いことなのよね?」

「・・・良いことだよ。これからウォーレス領は、もっともっと強くなるんだよ」

「そうなのね!」

あ。考えるのを止めたな?

私のポジティブな答えにルナリアの表情が明るくなった。

ルナリアの機嫌が良くなったと思ったら、今度はテレサからジト目が飛んできた。

「フィオレ・・・。やり過ぎは止めて欲しいのだけれど、お父様が許可しているのなら、話は付いているのよね?」

「・・・付いてるよ。王宮も塩とお肉で黙らせた。―――ハロルド様とアレイオス様が」

素晴らしき 哉(かな) 、「丸投げ」。

そう言えば、王宮やウォーレス家の挙兵に不安を訴えた他所の領地を黙らせたことは、テレサが居ない場の雑談で聞いたんだっけ。

説得と調整に苦労しただろうお二方には、心の底から感謝しか無い。

私の簡単な説明程度では思考を止めることが無いテレサは眉を顰める。

「領民を引き抜かれた西部は、これから、どうするのかしら・・・」

「・・・元々、西部は人の数が多すぎたから、丁度良くなると思うよ。具体的には、人が減った分の土地で軍馬を生産させることになった、って聞いたけど」

「軍馬を、ですか?」

そこまでの提案は、私はしなかったから、ハロルド様かお母様の提案なのだろう。

西部地域と同じく国境地帯で有事に備え続けてきたウォーレス領では軍馬生産が盛んで、この軍馬生産は、実用面での軍事的需要に応えるだけでなく、取引価格の「単価」が非常に大きい。

単価が大きいと言うことは「利幅」が大きいと言い換えることが出来る。

さらには、城壁で囲って守らなくても馬という「資産」を有事に逃がすことが出来る。

このことは、私がレティアで暮らすようになった頃にお母様から教わったことで、常に「脅威」に晒され続けてきたウォーレス領が積み重ねてきた、生き残るための知恵なのだ。

「なるほど・・・。これといった特産品が無い西部地域は、小麦の生産に偏っていて過剰生産気味でしたし、確かに丁度良いのかしら」

「・・・過剰生産は良くないね。単価が下がるし、儲からなければ経済構造が脆弱になる」

「そうですわね。経済が脆弱ゆえの“融和派”ですし」

テレサと一緒にルナリアも納得顔で頷いている。

「小麦ばっかり食べていたら、力が出ないわ!」

「・・・そうだよねえ。その通りだよ」

ルナリアの答えに私は大きく頷く。

バカっぽく聞こえるかも知れないけど、これが非常に大事。

食べ物は命の次に大事だよ。

食べ物と寝る場所さえ有れば、大抵、何とかなる。

故郷を追われて落ち込んで居るであろう「避難民」の人たちにも、本当に大事なものが何なのかを分かって貰って、「移住民」になって貰わなければ。

「でも、軍馬生産はウォーレス領の財政の柱では無いのですか? 西部地域でも生産させては、ウォーレス領の財政に響きませんか?」

うんうん。テレサは賢いから、メリットだけじゃ無くデメリットにも気付く。

「・・・もしも、だよ? 何かの疫病なんかで南部地域の馬が全滅したら、どうする?」

「王国として、困りますわね」

危険回避(リスクヘッジ) は大事だよ。

大地震と大津波に襲われた地域が全滅しても他の地域で生産と流通を維持する考え方は日本でも活かされて、某国の研究所から漏れ出した細菌兵器という噂も有った感染症が全世界規模で蔓延したときに戦争が重なって、世界中の国々が化石燃料の調達に困窮したときに、エネルギーの調達先を世界中に分散して持っていた日本だけが、大きな影響に直撃されること無く、ほぼ無風状態だった。

あれは、「凄い」と心の底から思った。

「意志決定が遅い」とか「他国に較べて動きが遅い」とか批判されがちな、日本の行政が勝利した瞬間だったのだろう。

こっちの世界だと、自然災害よりも隣国が攻めてくるとか内戦が起こるとか、戦争の方が身近かな。

「・・・生産地を分散しておくのも大事なことだよ」

「収入が減る分はどうしますの?」

「・・・直ぐには減らないよ。ウォーレス領の馬は良い馬だもの。それに、収入が減るまで何もしない、なんてわけ無いよね?」

そのために引き抜いて貰った避難民だ。

いわば、避難民は材料で、材料を上手く使えば地域も経済も発展させられる。

ウォーレス領は“魔の森”という手付かずの宝の山を持っていて、宝の山を発掘する労働力を手に入れたのだから、短期的な産業発展も進められる。

そう。短期的にはね。

治癒魔法術師の量産も、最も効率的に進められるのはウォーレス領だと自信を持って言える。

政治的カードとして治癒魔法術師養成の情報を公開しても、毒と魔獣というキモの部分は“魔の森”という地理的条件が揃ってこそ成り立つ。

大陸中に情報が普及しても、この領地を守り続ける限りウォーレス領の優位は残り続ける。

いけない。

悪い笑みが隠せていなかったかも知れない。