軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

社交界の首領・叔母様襲来 ⑮

「で。どうなの?」

「・・・どう、って。何が?」

「許婚ですわよ。い・い・な・ず・け」

流れ的に、その話だろうと思ったら、やっぱり、その話だった。

ルナリアは私がどう思っているかが気になったみたいだけど、テレサは恋バナ的なノリかな。

5歳にして女子力の差が―――、いや、何でも無い。私は何も気付かなかった。いいね?

ミリア叔母様たちと一緒にレティアの町へ帰還した私たちは、午後の予定に遅れたことを、しっかりとお説教された。

ミリア叔母様がお婆様に取りなしてくれたお陰で直ぐに解放されたけど、説教される原因が採掘場に突撃してきた叔母様たちだったのだから、そこは「お説教はそのへんで」と取りなすのでは無く、「この子たちに責は無い」と取りなして欲しかった。

そして、メイドさんの口からお婆様からの正装命令を伝えられた私は今、テレサとルナリアと3人でメイドさんたちの手による洗浄を受けている。

キラキラした目で私を見ても何も出て来ないよ? テレサ。

「・・・いや。別に」

そのうちウォーレス血統の中からお相手が決められる、とお母様から聞いていたから、許婚というものに対して私に感想のようなものは無い。

指名されたのはアスクレーくん、だっけ?

むしろ、大人しそうな子だけど、ウォーレス領で大丈夫? と、心配になるぐらい。

さっきだって、生態観察日記を手渡した途端、床に座り込んで読みふけり始めたものだから私の部屋に放置して少し市場を覘きに行ったほどで、インドア派―――、というよりも、あれはオタク気質なのか?

熟成された香ばしい喪女である私にショタの許婚とか、どう反応すれば良いのか分からないし。

私の頭の中には、お母様からの“紅蓮”修得命令のことしか無くて、どうイメージを構築したものかと、それ以外のことを考えているリソースは無いんだよ。

まあね。お兄さんのアレースくんも、アスクレーくん共々、賢そうな子だなあ、とは、思っていたよ。

あんまりにも賢い子だと、私の記憶に関する秘密に勘付かれても困るし、出来れば、ウォーレス領らしい脳筋さんがお相手の方が安心だけど、私に選択権は無いし、意見するつもりも無い。

お婆様たちがアスクレーくんに決めたのなら、それでいい。

それだけだ。

私には嫌も嬉しいも無いし、上手く付き合っていけるように努めるしかない。

湯浴みが終わったら濡れた髪を乾かされて、寄って集ってお化粧までされそうになったので丁重にお断りした。

お稚児さんや七五三じゃあるまいし、5歳児にお化粧とか要らないよね。

微妙に伸び始めていた毛先も手入れされて、完全無欠のお姫様カットが復活する。

ミリ単位の前髪の長さでメイドさんたちが睨み合って互いに身構え始めたものだから、宥めるにも身動きするなと言われるし宥めるのが大変だった。

すぐに拳で決着を付けようとするのは私の心臓に悪いからね?

エゼリアさんたちのような女性騎士ではない、ただのメイドさん同士で止めようよ。

最近はお母様みたいに乗馬服姿がデフォルトだったから、ドレスを着せられるのは久しぶりかも。

背中の半ばで切り揃えられた髪は、リボンで纏めることも無く背中に流したまま。

血の色が染みついて紫色っぽくなっていた髪は、毎日洗浄されていると、いつの間にか青みがかった元の色に戻っていた。

赤系が好みのルナリアと黄色系が好みらしいテレサ。

水色と青の中間色ぐらいの脛丈ドレスを着付けられた私が3人で並ぶと信号機みたいになる。

こっちの世界に信号機は無いから、遠目にも判別しやすくて良いんじゃないかな。

腐ってもジェントルメンの卵たちがレディーを見間違うことは無いと思うけど、色で見分ければ万が一にも見間違わなくて便利なのだろう。

「・・・改めまして、フィオレ・ピーシスと申します」

「アスクレー・ファーレンガルドです」

カーテシーで挨拶した私に、左手を腰に、右手を胃の辺りに添えたアスクレーくんが礼で返してくる。

照れているらしいアスクレーくんは、ちょっとだけ顔が赤いかな。

「「・・・・・・・」」

会話が続かないので目線で救援を求めると、生暖かい目で見守っていた皆さんが苦笑しながらテーブルへ誘ってくれた。

ハインズ様夫妻にお爺様夫妻、叔母様夫妻に子供たちが5人。

いつもよりも多い人数がテーブルに着く。

お祝いムードで和やかに、上品な笑い声が絶えない食卓だった。

夕食のメイン料理は、今日、叔母様たちの目の前で獲ってきたシカのモモ肉ステーキだった。

血抜きをしっかりして有っても、シカ肉にはお肉に独特のクセが有って、厨房の料理人さんたちが香草を上手く使ってお肉の臭みを消してくれていた。

モモ肉って聞くと日本だと牛のモモ肉のイメージが有って、しっかりと中まで火を通すとお肉が固くなりそうに思うけど、隠し庖丁でも入れてあるのか、分厚い肉厚でも、それほど咀嚼に苦労することも無く、美味しく頂けた。

ウォーレス領の面々と叔母様はペロリと平らげていたけど、まあまあゴツいステーキだったから、叔父様とアレース・アスクレー兄弟はお肉の量を持て余し気味だったみたい。

なお、テレサと私もペロリ派である。

私は兎も角、テレサまでペロリと平らげているのには、叔父様も驚いていた。

お母様も言ってたけど、魔法を使うとお腹が減るんだよ。

体内魔力と腹時計には何かの因果関係があるのかもね。

誰も戦争の話には触れなかったけど、今のウォーレス領は、岩塩に干し肉に物流に、と、話題には事欠かない。

兄弟とも言葉を交わす機会が何度も有ったから、2人も馴染んできたみたい。

特にアレースくんは、「お兄様」と呼ぶと目に見えてご機嫌になるんだよ。

男兄弟しか居ないのが原因かなあ。そんなにチョロくて良いのか?

お母様とハロルド様が居れば、もっと明るくて楽しい晩餐だったはずなのに。

お母様、大丈夫かなあ・・・。

数日中には私が送った「新しい干し肉」が届くはずだから、お母様の気が紛れてくれれば良いな。