軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

社交界の首領・叔母様襲来 ⑦ ※ミリア面

「こんな前線の拠点では、まともなベッドも無いでしょうし、お湯も使えないでしょうに」

「・・・横になれれば眠れますし、川で水浴びぐらい出来ます」

「川で・・・。風邪ひくわよ? 食事はどうするの?」

「・・・火を熾せば暖を取れますし、塩もお肉も有るのだから食事には困りません」

指摘する度に、ポンポンと反論が返ってくる。

この感じ、懐かしいわね。

他人の目など歯牙にも掛けず、目的を達成するためなら手段を選ばない。

「子供の頃の姉様に似ているとは聞いていたけれど、本当に昔の姉様と話しているみたいだわ・・・。もう、そっくり」

「・・・ありがとうございます」

溜息雑じりに言ったら、嬉しそうに微笑んで返してくる。

「褒めてないわよ?」

「・・・そうなのですか?」

残念そうな顔をしないでよ。

意図的にやっているのかと思ったら、これは天然ね。

心理戦では無く、本心で言っているのは分かった。

姉様の教育方針も有るだろうから無理強いはしたくなかったけれど、大人の強権で押し通すしか無さそうだわ。

「貴女の邪魔をしたいわけじゃ無いけれど、ルナリアちゃんとテレサ様まで真似したがるでしょう? 今日のところはレティアへ帰りなさい」

「・・・そっか。ルナリアたちが・・・」

フィオレの目に理解の色が浮かんだと思ったら、即座に次の手を考え始めたようだ。

さしずめ、ルナリアたちを説得して自分だけ採掘場に残る言い訳かしら。

定めた目標を諦めず、思考を止めない。

これはセリーナ様も気に入るわけね。

自然と私も笑みが浮かぶ。

「気に入ったわ。私も説得に協力してあげるから、母様たちとも相談しましょう」

「・・・分かりました。今日は、帰ります」

さりげなく「今日は」を強調してくる辺り、しぶといわね。

ほんと、姉様みたいだわ。

鉱山見学を堪能したアレイオスたちが戻ってくる。

口元に浮かべている柔らかい笑みは、いつもと変わらないけれど、頭の中では色々な算段を立てているのだろう。

「どうだった? アレイオス」

「うん。有意義な視察だったよ」

問題は無さそうだから、逼迫領地との条件交渉の試算でもしているようね。

ウォーレス領からの岩塩供給量は敵の策略を無効化できるかどうかに直結する。

無事に兄様たちから託された仕事を果たせそうだと胸を撫で下ろしていたら、次男のアスクレーが駆け寄ってくる。

本の虫で内向的なこの子がこれほど活発に行動することは珍しい。

「母様。ここには魔獣が居るそうです。見せて貰いに行ってきて良いですか?」

「魔獣ですって?」

「・・・バイコーンです。飼育しているわけでは無いですが、居ることは居ます」

フィオレに確認の目線を送ると、平然と返してくる。

アレイオスも驚いたようで、目を剥いている。

「バイコーンは危険な魔獣だぞ」

「・・・普通のシカと変わらないですよ?」

驚いた私たちの常識が間違っているかのように、フィオレだけでなく、ルナリアやテレサ様も平然と頷いている。

兄様からの手紙で食肉の量産に成功したとは聞いていたけど、食肉用の畜産に成功したのでは無く、魔獣の繁殖に成功したという意味だったらしい。

「それは流石に、私も興味が有るわね」

ここ1年ほどの間、“魔の森”の魔獣棲息域の分布に変化が生じていることは、ファーレンガルド領でも把握している。

ウォーレス領周辺とファーレンガルド領周辺では棲息している魔獣が違うから同列に考えることはできないが、魔獣に対する対処方法の情報は決して他人事では無い。

バイコーンの繁殖場所を見るには、高さ20メテルの足場に登る必要が有ったのだけれど、これでも私は“辺境”生まれの“辺境”育ちだ。

姉様たちに森を連れ回された経験も多々あるのだから、足場ぐらい、どうってことは無い。

尻込みする使用人たちを地上に残して、私たち一家は足場を登った。

「うわぁ・・・」

呆れて思わず声が漏れた。

高さ20メテルの囲いの向こう側には、出入口が無い地上で暢気に歩き回っている魔獣の姿が有った。

逃げようとするでも無く、荒ぶるでも無く、十数頭ものバイコーンが三々五々に 彷徨(うろつ) いている。

「・・・これでも、今日は出荷済みなので3分の1ぐらいまで減っているんですよ?」

「出荷済み、って何?」

頭が痛くなってきた。

この子は本当に魔獣を家畜程度にしか考えていないようだ。

呆れを露わにした私に抗議するように、フィオレは言葉を重ねる。

「・・・朝になったら勝手に増えているので、間引きする意味でも、半分以上は処理するようにしています」

「増えるの?」

「・・・はい。最初は1頭だけでした」

魔獣の生態は、ほぼ何も分かっておらず、謎だらけなのだ。

増えすぎた魔獣の駆除も各領の重要な仕事の一つで、領軍を派遣する費用や、負傷者や犠牲者への保障は、領の財政を圧迫する要因の一つでもある。

生態を解明できれば後手に回ることなく効率的に対応できるようになるかも知れない。

そう考えれば、フィオレの行動は無駄では無いのだ。

「仔が居るように見えるけど、毎日、仔を生むのかしら」

「・・・仔を生んでいる様子は無いですね。あの仔ジカも明日の朝には成獣になっていると思いますし」

「明日の? どういうことかしら」

意味が分からない。

生まれて1日で大人に育つ生物など、見たことも聞いたことも無い。

大して深刻そうに見えない様子でフィオレは首を振る。

「・・・分かりません。“魔獣は成長が早い”と記されている文献も有るようですし、そういうことなのでは?」

そういうこと、って、どういうこと?

停止しかけた思考を無理やり動かす。