軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

流通阻害無効化作戦 ⑩ ※アンサンブルキャスト面

「兄様も。ぜんぜん王都に来ない、って、アレイオスが拗ねているわよ」

「分かった。世話になるとしよう」

ハロルドにとって、ミリアの夫であるアレイオスは、騎士団時代には後輩として可愛がっていた、今では親友の一人だ。

何らかの謀が有るのだろうと分かっては居ても、久しぶりに友の顔を見られると思えば自然と頬が緩む。

「ハロルド!」

「ウルガン隊長! セクト隊長! お久しぶりです!」

ネルドとベルーサーに連れられた偉丈夫二人から掛けられた声に、ハロルドが下馬する。

王都騎士団時代に世話になった大先輩たちと、ガシリと握手を支わし、力強く肩を叩かれる。

直接、顔を合わせるのは5年ぶりぐらいだが、変わらぬ姿に安堵する。

人間の衰えは早い。

子供の成長が早いように、少し見ない間に、恩人が衰えを理由に表舞台から降りることも多々有るのだ。

切った張ったの危険な務めだからこそ、互いの無事が嬉しい。

「ハインズ殿は壮健か?」

「今もマルキオ殿と二人で領主代理を務めてくれて居ます」

「そうか。お二方とも、気を取り直してくれたのだな」

「はい。娘たちのお陰で」

方面隊隊長クラスは、父ハインズが鍛えた世代で、ハインズの末子であるハロルドからすると父親と同世代と言っても良い年齢なのだ。

数多くの死線を潜って、なお、生きて帰って来た老将たちには、自分たちが持っていない経験という武器がある。

経験だけは、どれほどの才能を持とうとも、一朝一夕で得られるものでは無い。

全盛期よりも、いくらか衰えたとしても、まだまだ父たちにも現役で居て貰わねば困る。

「ルナリア嬢、だったな。無事で何よりだった」

ハロルドの娘と言えば―――、老兵たちの目線が馬上のフレイアへと集まる。

「特務殿―――、は、そう久しぶりという程では無いな」

老兵二人が馬上を見上げてニヤリと笑うと、フレイアは肩を竦めて返した。

老兵たちが声を低くする。

「ハロルド。・・・マークスのことは、残念だったな」

「とうの昔に覚悟は出来ていたことです」

「そうか・・・」

「よくぞ、今まで耐えた・・・」

ネルドと同じく、ウルガンにとっても、セクトにとっても、ハロルドが亡くした息子は自分たちの孫のようなものだ。

悲しみと共に、行き場のなかった怒りがこみ上げてくる。

この2年間、歯噛みしていた雌伏の時に、終わりが訪れようとしている。

「ハウマン隊長は?」

「ドネルク閣下と共に王城でお待ちだ」

「承知した」

ハロルドは、騎士団長閣下とハウマンと共に「お待ち」なのが誰なのかを察する。

「特務殿。お主もな」

「分かっている」

仕事モードになった老兵たちの全てを見通すような視線に臆することもなく、フレイアも頷く。

南部方面のネルド、東部方面のウルガン、北部方面のセクトに、西部方面のハウマン。

特に、騎士団長と共に王城で待っているのがハウマンである時点で、すでに王国は西部国境地域一帯が戦火で焼けることの覚悟を決めているのが窺える。

後は、どこまでやるのか、どこで止めるのか、を、決める話し合いというわけだ。

「ウォーレス卿。咎人どもの受け渡しは、王城にて行う」

「はい。そのように」

ハロルドの返事を確認して出迎えは馬上へと戻り、ハロルドは再び進軍の号令を発する。

暫くして王都の南門を潜るハロルドは胸中に懐かしさを覚える。

成人して直ぐから十数年間、王都騎士団の正騎士として治安と防衛に励んだ日々も、もう十年以上も昔のことだ。

500キロメテルもの距離は実家のウォーレス領を継いだハロルドにとって、軽々に来られるものでは無い。

この城門を前に潜ったのは、マークスの失踪で王宮貴族どもと散々に揉めた2年前以来だ。

第3城壁から第2城壁へと続く大通りを凱旋パレードさながらに進み、第2城門を潜る。

雑然とした第3街区に較べて第2城壁内の第2街区は建物の敷地が大きくなって、上品さが漂う街並みになってくる。

これは第3街区が平民の住まう一般街区で、第2街区が裕福な平民の住まう上流街区だからだ。

大通りの正面に見えてきた第1城壁の向こう側は貴族階級の王都邸が立ち並ぶ第1街区―――、貴族街区となる。

地形の関係で少し歪な同心円状の中心に、一際高くそびえ立ってるのがリテルダニア王国の中枢で有る王城だ。

第1城門を潜ると、珍しいことに、各家の邸宅の敷地内から行軍を眺めている人々の姿が大勢見える。

貴族や貴族家の使用人は、普通、一般平民のように野次馬で人垣を作るような真似はしない。

にも関わらず、これだけの見物人が戸外に出ているのは、“融和派”と“保守派”の勢力争いに大きな波紋を投げ掛けた罪人の処遇に関心が高いせいだろう。

比較的、険のある視線が多く感じるのは、王国内における勢力分布に因るものだ。

王国内の派閥の割合は、“融和派”、“中立派”、“保守派”が、おおよそ三分の一ずつに分かれている。

王都に居住する貴族で最も多いのは“中立派”で、王宮に勤める法衣貴族―――、いわゆる文官である。

王宮に文官として勤める領地貴族も、それなりに居る。

ミリアの夫であるアレイオスが、それだ。

ファーレンガルド侯爵家・現当主のアレイオスは、“保守派”寄りの“中立派”に属している。

ウォーレス領から離れられなかったハロルドと同様に、“融和派”も“保守派”も地方に領地を持つ領地貴族が多いため、王都邸に居住している者は、そこまで多くない。

それでも、ここまで負の感情が発露するのは、物事の善悪が問題では無く、“中立派”までもが「自身の平穏を脅かされる」と感じている、「他人事」、「無関心」が原因であることは明らかだ。

王国の危機よりも、保身。

ここまで腐ったか、との思いがハロルドの胸中に満ちる。

ハロルドが王都騎士団に所属していた頃にも特権階級の権威を笠に犯罪や横暴を繰り返す悪党は居たものの、暫く距離を置いて離れてみれば、王都の醜悪さが良く分かる。

フレイアが容赦無く強権を振るって断罪を執行するのも無理は無い。