作品タイトル不明
血のチカラ ⑰
「今日、捕れた獲物は、鹿が5頭とイノシシが1頭だったか?」
「・・・はい。でも、お爺様は私たちが血を飲んで倒れた獲物は別々のものだったと」
「そうですわね。3人とも、それぞれ自分がトドメを刺した獲物でしたわね」
「ふむ。他に気付いた共通点や相違点は有りそうか?」
「無いと思いますわ」
ふぅん? 自分がトドメを刺した獲物の血を飲んだときだけ、熱さを感じるのかな。
それって、自分で狩った獲物の血を飲むと、体内の保有魔力が増えるってことでいいのかな?
なんだか、ゲームシステムの経験値に似てる、かな。
寄り集まってゲーム機で遊ぶ日本の元・同級生や施設の子供たちの姿が思い出される。
私自身は興味が無くてゲーム機に触ったことも無かったけれど、施設の他の子どもたちが、そんな話で盛り上がっていた気がする。
ん? そう言えば、さっき、「エゼリアさんたち」って言った?
「・・・テレサ。もしかして、エゼリアさんたちも血を飲んだ?」
「フィオレが倒れた直後に試飲したディーナさんが、最初にお酒みたいだと言いだして、ルナリアが倒れた直後に試飲したアンリカさんも同意していましたわね」
「あいつらも飲んだのか。どういう流れで、あいつらが飲むことになったんだ?」
状況が見えないようで、お師様は首を捻る。
「フィオレのときと、ルナリアのときのトドメを手伝ったのが、ディーナさんとアンリカさんだったから、でしょうか。アンリカさんは、ディーナさんの話を聞いて興味を持った様子でしたわ」
「・・・ディーナさんは、私が倒れなくても飲む気だった」
「ディーナが?」
叱られるのかな? って、心配になった。
怪訝そうだけど、お師様ならディーナさんの気持ちを分かってくれるはず。
「・・・お師様に付いていくのに、血を飲んで強くなれるなら、飲むって言ってた」
「あいつめ」
軽く目を瞠った後、お師様が目元を緩めて小さく笑う。
良かった。叱られそうな感じじゃないね。
お師様はテレサへと視線を戻した。
「殿下のときは誰が手伝ったんだ?」
「エゼリアさんですわ」
「だとしたら、エゼリアも自分が手を貸した獲物の血を飲んでいるだろう」
「・・・エゼリアさんも?」
「そういう面白そうな場面で、あいつが黙って見ているわけが無い」
「・・・納得した」
たぶんだけど、お師様も私と同じ仮説を立てているっぽい?
もしかしたら、エゼリアさんもかな?
エゼリアさんたちの証言を聞き取れば、仮説を補強できるかも。
でも、何千年、何百年もの歴史の中で、知られていない情報なんてことが有り得るのかな?
こっちの世界にも血を料理に使ったブラッドソーセージが有るって、ルナリアが言っていたしね。
獲物の血を飲んで魔力保有量が増加するのが確定情報なら、放っておく手は無いんだけど。
実証できれば、ウォーレス家の戦力補強に活かせそうだけど、お師様的にどうなんだろう?
テレサは魔力が増えたことを秘密にしておきたい様子だし、今ってバルトロイ様がウォーレス領に居るから知られると拙いんじゃ?
口を開きかけたら、私たちの後ろで衣擦れの音が聞こえた。
「うーん・・・」
お師様を見たら頷いてくれたので、ベッドの枕元へ近づいて覗き込む。
怠そうに呻いたルナリアの瞼が薄く開く。
「・・・ルナリア。起きた?」
「はっ! フィオレ!」
私の顔を認めてパチッと目を見開いたルナリアが、勢いよく体を起こす。
「「あうっ!!」」
ゴチン! と、額に衝撃を受けて、目の前が火花でいっぱいになった。
よろよろと後退った私は立って居られず尻餅をついた。
どったんばったんと聞こえてくるので、ルナリアものたうち回っているらしい。
「・・・痛ったたた・・・」
「何をやっているんだ、お前らは」
痛くて顔を上げられないけれど、お師様の呆れ声とテレサの笑い声は耳に入ってくる。
おでこを押さえて呻いていると、いくらか落ち着いたらしいルナリアの声が降ってきた。
「ふぃ、フィオレ。あなた、大丈夫なの?」
「・・・ルナリアこそ。体調は?」
ベッドの上に正座して涙目で額を押さえているルナリアに聞き返すと、少しだけ考える素振りを見せた後、ニコッと笑う。
「良いわね!」
だろうね。その様子で体調が悪かったら、びっくりだよ。
「おはようございます。ルナリア」
「おはよう、テレサ!・・・あれ? わたしの部屋だわ」
名前を呼ばれてテレサの姿に気付いたらしいルナリアは、ニコッと笑い返した後、周囲の景色にも気付いたようだ。
お師様がルナリアを手招く。
「ルナリア。立てるなら、ちょっと来い」
「あ。おはよう、叔母様!」
ベッドの上から飛ぶ勢いで降りたルナリアがトコトコとお師様の傍へ近寄ると、レーテさんが私の椅子の隣にサッとルナリアの椅子を用意してくれた。
運動系がダメなだけで、侍女としての能力には問題が無いらしい。
というか、エゼリアさんたちの能力がズバ抜けているだけで、レーテさんが特別に劣るわけでは無いのかも。
ハイスペックな人たちに囲まれているとモノサシが狂うもんなあ。
「ああ、おはよう。いつもと体調が違う部分は有るか?」
「胸の辺りがポカポカするかも?」
レーテさんに目線で謝意を示したルナリアは、質問に首を傾げる。
ルナリアの胸に手のひらを翳したお師様が頷く。
「ふむ・・・。やはり、お前も明らかに魔力が増えているな」
「魔力が? 何?」
軽く肩を竦めたお師様は私を見た。
「問題無さそうだな。フィオレ、後で説明しておいてやれ」
「・・・分かった」
頭上にクエッションマークを幻視させるような表情のルナリアを、椅子に戻った私はヨシヨシと撫でる。
「ねえ、叔母様。わたし、どうしてわたしの部屋に居るの?」
「魔力酔いでひっくり返って運ばれた。お前ら、三人揃ってな」
「わたし倒れたの? ええ? テレサも?」
倒れたという結果には反応しても原因の方は綺麗にスルーする辺りがルナリアらしい。
「フィオレが説明してくれるなら良いや」みたいな割り切りがルナリアの中に生まれている気がするなあ。
「フィオレが分かってるなら自分は分かってなくても良いや」に進化すると困るから、ルナリアが道を誤らないように気を付けておこう。