軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊種 ㊹

「・・・どういう理屈で―――、って考えられる原因なんて魔力しかないよね」

「“魔獣は魔素から生まれ出ずる”、ですか」

ケイナちゃんが学説の1つを口にした。

古くさい言い回しだけど、私が教わったものと中身は同じだ。

そこで、ふと気になったことが有る。

「・・・アレって食べて大丈夫なんだろうか」

「今さらじゃない?」

「・・・それもそっか」

バッサリと切り棄てられたけど、ルナリアの言う通りだ。

このシカたちはハイブリッド大豆みたいに遺伝子操作されているわけでもないし、アメーバだってプラナリアだって今日も地球のどこかで大量に分裂しているのだろうしね。

無性生殖したアメーバやプラナリアを補食したところで、捕食者が健康被害を受けているわけでもないだろう。

哺乳類の私は有性生殖が常識だと思っているから分裂増殖に疑念を抱いてしまうだけで、無性生殖による分裂増殖は人為的なクローン体とは全く違うものだ。

見た目、AとBに分裂したからといって、どちらかがクローン体というわけでもない。

無性生殖の場合はBが存在せずAとAの2つに増えただけなんだから。

ミミズのA氏だって真ん中でブチッと引き千切ればA氏が2匹に増えるだけで、どっちのA氏を捕食しても魚は健康被害を受けたりしない。

思うところがないわけじゃないけど、害がないならシカが分裂した程度は重要じゃないね。

「・・・だったら、どんどん増えてくれれば良いや」

「それで良いんですか?」

早々に合格判定を出した私にケイナちゃんが首を傾げた。

原因の解明はしなくて良いのか? って意味かな。

安定的な供給を維持するために原因の解明はしたいけど、私の中で優先順位が低いってだけなんだよね。

正直、他にも急がなきゃいけない案件は、たくさん有るし。

「・・・お肉は多ければ多い方が良いんだよ」

「お肉に拘りが有るんですね」

ご飯は大事だと即答すれば、誤解を招くような理解が返ってきた。

それは違う。

「・・・お肉だけじゃないよ? お野菜も増やすし農地もどんどん増やすんだから」

「そう言えば、エライワーを育てようとしていましたね」

発芽準備に助言をくれたケイナちゃんにも私の意図を分かっておいて貰った方が良いね。

採掘場のシカと直接の関係はないけど、目指す未来が理解できていればケイナちゃんたちも安心感が違うだろう。

「・・・王国内も一枚岩ってわけじゃないから、ウォーレス領から豊かにするんだよ。ウォーレス領が豊かになったのを見れば他領も続こうとするだろうからね。自分たちも豊かになって、それを奪おうとする外敵が来るなら内輪揉めしてる場合じゃなくなるでしょ。王国内が結束すれば、神教会にだって対抗できる」

「防衛のために豊かにするのですか」

驚いたようにケイナちゃんが私を見た。

新たな武器の開発には協力してくれるとテツさんもレイクスさんも言ってくれたけど、それだけじゃ足りない。

武器や魔法の開発は硬軟の“硬”。

食料生産や産業育成は硬軟の“軟”。

あらゆる手段を講じて王国を防衛する。

「・・・そうだよ? 王国が豊かになれば、また欲の皮が突っ張った敵が来ると思うけど、豊かにならなくても敵は攻めて来るからね。どうせ来るのなら豊かにならないと損じゃん」

「そういう考え方も有るのですね」

ケイナちゃんが納得顔で頷く。

「・・・だからお肉も大事。獲れれば獲れるほど良いんだよ」

「それなら原因の解明は重要なのでは?」

今度はストレートに来たな。

考察の棚上げを許さないケイナちゃんの指摘に、痛いところを突かれた気分になる。

「・・・そうなんだけど、するべきことが山積みで手が回っていないんだよね」

「では、私たちもお手伝いした方が良さそうですね」

遠回しに逃げず正直に白状すれば、ニコリと笑ったケイナちゃんが自発的に協力を申し出てくれた。

「・・・うん? お手伝い?」

「兄様。この採掘場の魔素はどうなっていますか?」

何する気? と思えば、ケイナちゃんからレイクスさんに質問が飛んだ。

目を輝かせて囲いの底を覗き込んでいたレイクスさんが首を傾げる。

「魔素? 全体のかい?」

「魔獣は魔素から生まれているのだろうと予測が立ったのですから、環境を確かめる必要が有りませんか?」

「そうだね。その通りだ」

ニコリと笑い返したレイクスさんが囲いの外も見回し始めた。

魔力が見えるレイクスさんに「環境を確かめろ」と要求するってことは、ケイナちゃんの中で何か仮説が有るんだろうか?

「環境?」

「・・・ふむ?」

ルナリアも首を傾げている。

この採掘場といえば、岩塩鉱床が有って、シカが増殖して、バンダースナッチも安定的に獲れる。

そこから私が推論を立てていたのは、採掘場周辺の森がダンジョン化してるんじゃないかってことだったよね。

そして、ケイナちゃんたちのこの行動。

「・・・ああ。本当に迷宮化しているのかを確かめてくれてるのか」

「あ。そっか。魔力が見えるんだものね」

ダンジョンは自然の魔素が溜まった場所に出来るって説が有るんだっけ。

確か、そう教わったはずだけど、ダンジョンだと確定すれば、採掘場でシカが獲れ続けることが確定する。

確定情報は計画を立てる際の前提条件になるのだから、戦略的にも重要だと。

ケイナちゃんとレイクスさんは情報の見極めで私たちに協力してくれているわけだ。

忙しさにかまけて後回しにしていた私たちに代わって情報を集めてくれるのは、それだけでも有り難いことだよ。