軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊種 ㊴

「・・・テツさんが信じてるものって、何? 絶対的に信頼しているものは?」

「俺が信じてるものか・・・。信頼っていうなら、コイツだろうな」

少しだけ考えたテツさんが私に示して見せたものは、ギュッと固めた拳だった。

「・・・ゲンコツかぁ。テツさんが熊に殴られても平気なのって、“それ”じゃない?」

「んん? こんな奴にゃ負けねえ、とは心のどこかで考えていたのかも知れねえが、意識したことはなかったな」

チョイ悪系? だもんなぁ。

殴れば解決するって考えてる節も有るし、“強さの象徴”ってイメージなのかも。

「・・・さっきも言ったけど、魔法ってね。心の在り方―――、イメージを具現化するものなんだよ。魔力が応えてくれているとも言えるのかな。テツさんぐらい強ければ魔法に頼る必要は無いのかも知れないけど、覚えておいて。魔法の可能性は無限なんだよ」

「無限ねぇ?」

むっ。信じてないな?

これからもどんどん危ない場所へ踏み込んで行こうって人が、強力な手札に成り得るものを信じないってどういうこと?

ケイナちゃんも居るんだから、手札は多い方が良いでしょうに。

懐疑的に思っていることを隠さないテツさんの目をジッと見据える。

「・・・大げさな言い方だと思うかも知れないけど、どんなことだって起こり得るのが魔法だよ。上手く具現化するかどうかはイメージ次第だけどね。より明確に、より具体的に、起こると信じれば起こるのが魔法。困ったことになったときには思い出すと良いよ」

「起こると信じれば、か。覚えとくよ」

ヨシ。最終的にはテツさん次第だけど嘘を吐く人ではないと思うから、ケイナちゃんのためにも自分の中で折り合いは付けるだろう。

獣人族3人組にも目を向ける。

「・・・みんなもそうだよ? 出来ないなんてことは絶対にないからね。ヒマなときや手が空いているときにコツコツ練習すること」

「「「はい!」」」

ヨシヨシ。頑張るんだよ?

お昼を食べた後も魔法の練習に当てて、生活魔法レベルだけど“光”と“水”の術式も使えるところまでテツさんを鍛えた。

野営時に使える魔法を、ってテツさんからの要望に応えたチョイスなんだけど、一応、ケイナちゃんに頼り切りなことを申し訳なく思っていたらしいよ。

元々、生活魔法は使えていた獣人族の3人には、防御術式を覚えさせるために放出量を増やす特訓を施した。

一方、ケイナちゃんに視て貰いに行っていたお母様たちの方は、それぞれ憑いている精霊がいることが分かったエゼリアさんたちが盛り上がりまくっていた。

頑張っても精霊を目視するところまでは至らなかったみたいだけど、自分に付いている精霊が見えない人は珍しくないらしくって、ケイナちゃんから精霊に話し掛けるときの呪文を教わっていた。

夕食時まで魔法の練習を続けて、ついに夜が来る。

「ちょっと眠いかも・・・」

「・・・何か有ったら起こしてあげるから、寝てて良いよ」

「うん」

いつも夜9時―――、8の鐘には就寝しているルナリアに晩ご飯後の夜更かしは無理、ということで、例によってルナリアを私の背中に固定して、魔力の手でダイレクトにキャットウォークへ上がる。

“光”の術式を頭上に浮かべたケイナちゃんたちも階段を上って追い付いてきた。

ケイナちゃんも少し眠そうかな。

「フィオレは眠くないのですか?」

「・・・私はちょくちょく勉強で夜更かしすることも有ったからね。日付が変わるぐらいまでは平気だよ」

朝も早いし睡眠不足で注意散漫になると命に関わるから、控え目にはしてるけどね。

夜更かしが癖にならないように見張りも付いてるし。

日本に居た頃に較べれば、超健康的な生活リズムだよ。

「勉強ですか?」

「・・・文字とか地図とか歴史とか色々とね。早く覚えるのにルナリアが寝てから勉強してたんだよ」

夜更かしの理由を答えれば、納得顔のケイナちゃんがテツさんに目を向ける。

「そう言えばテツさんも文字の勉強をしていましたね」

「文字が読めねえと依頼書も読めねえからな」

へー。ちゃんと裏でも努力してたんだね。感心感心。

よくあるフィクションだと、“翻訳魔法を貰ったから文字も読めるし書けます~。”なんて言ってるけど、もしも知らない言語を魔法の力で読めたとしても、知らない文字を普通に書けるなんて有るわけないだろって、いつも思う。

読めることと書けることは別モノだよ。

現実というものは、そんなに簡単なものじゃない。

文字を書けなきゃ社会生活に支障が出るに決まってるんだから書き取り練習をするよね。

私だってメッチャ勉強したもの。

そういった意味でもテツさんの行動にはシンパシーを感じる。

「・・・そうそう。状況を把握しようにも、文字が読めないのは致命的だものね」

「だよなぁ。宿屋の看板も読めねえんだぜ? 読める文字が1文字もねえのが、これほど不便だと思ってなかったぜ」

そうそう、って、あれ?

「・・・言葉も全く違うのにケイナちゃんたちとは話せたんだね?」

「ケイナんちの爺さんが翻訳魔法を掛けてくれたんだよ。今は教材が手に入ったから発音も練習してるぞ」

有るんだ!? 翻訳魔法!

すごいなエルフ族!

驚いたけど、エルフ族のレアリティを上げれば上げるほどケイナちゃんたちが危険になるから黙っていよう。

壁に耳あり障子にメアリーだからね。

大陸中から注目を集めているウォーレス領には、あちこちからメアリーが送り込まれて来ている可能性が有るんだから、情報の取り扱いには気を付けなきゃ。

くだらないことを考えていると、思惑通り少しだけ動揺が収まってきた。