作品タイトル不明
精霊種 ㊳
「・・・テツさんは、先ず認めることじゃないかな。他の3人も、苦手意識が足を引っ張ってるんだと思うよ」
「苦手意識ですか」
問い返してきたイカウさんに頷いて返す。
「・・・魔法ってね。心の問題が大きいんだよ」
「俺自身が出来ないと思い込んでいるってことか?」
「考えたこと無かったニャ」
テツさんだけでなく、ミャウラさんも信じ切れない感じっぽいね。
「・・・心の深い場所に有る苦手意識なんて自分で分かると思う?」
「分からないかも知れません」
内省する様子でクァタルさんが呟く。
もうちょっと理論の補強が必要かな?
「・・・例えばね? ワナを仕掛けるときには、木の枝とか障害物を置いて獲物の行動を誘導したりするんだよ。野生動物だと障害物を退けたりせず避けて通るし、人間なら退ける。いちいち“どうしようか?”なんて考えていないよ」
「ああ。本能ってヤツか」
具体例を挙げれば、理解を示してテツさんが頷く。
「・・・苦手意識も本能の1つだよ。“出来る”と知って、慣れてしまえば苦手意識も無くなるものだけどね」
「確かに、そういうものだろうな」
生まれて育ってきた過程で、誰だって体験したことは有るはず。
”無意識領域”というものは”本能”と言い換えても良いだろう。
”慣れ”というものは”無意識領域への移行”と考えて良いはずだ。
赤ちゃんは掴まり立ちから覚えてバランスを取れば上手く立てることを知り、歩くことを覚えれば苦手意識もなく2足歩行を始める。
最初は上手く走れなくても、体が覚えれば走れるようになる。
克服した苦手は苦手ではなくなって意識しなくなる。
中学生の頃にアルバイトで勤めに行っていたスーパーマーケットでも、カサカサと這い寄ってくる黒っぽい虫に最初は悲鳴を上げて逃げ回っていたオバサンだって、ベシッと叩き潰したりを繰り返している内に平気で踏み潰すようになっていた。
思い当たる経験が有ったのか、テツさんだけでなく、他の3人も頷いている。
「・・・だったら魔法も“そういうものだ”と思い込めば良いんだよ」
「思い込む、ですか」
ここまで言ってもイカウさんの呟きには自信の無さが滲み出ている。
もう一息って感じだけど、なかなかしぶといね。
だったら攻める角度を変えようか。
「・・・やって貰った方が早いかな」
「俺か?」
グリッと顔を向ければ、ロックオンされたテツさんが首を傾げる。
「・・・例えばテツさん。指先を尖ったもので怪我したことない?」
「そりゃあ、もちろん有るぞ」
だろうね。
無菌室で大事に育てられたのでもなければ、怪我をした経験ぐらいは有るはずだ。
「・・・血が出たよね?」
「そうだな」
「・・・それって皮膚に穴が空いて、体内の血液が漏れ出しちゃったわけだよね」
「おう。そうだな」
しつこいぐらいに確認して、“出た”という事実を意識させてみる。
「・・・指先からでも“出るものは有る”んだよ。怪我をしなくたって、指先にも毛穴は有って汗をかくでしょ? 出ないなんてことは絶対にない。手汗だって、余程じゃないと出てきているのは見えないでしょ。目に見えていないだけで“魔力だって出る”んだよ」
「そういうもんか」
意識付けを繰り返した上で体験して貰うよ。
「・・・指先の毛穴から出た手汗が100円ライターの可燃性ガスだと思って火を点けてみて。テツさんの指先は100円ライターなんだよ。漏れ出したガスに着火装置の火花がパチッと散って、ポッと火が点く。ほら、やってみる!」
「お、おう」
考える余裕を与えず“やれ”と圧力を掛ける。
勢いに負けたテツさんが圧力に流されて指先を見つめ始めた。
「・・・火が点く~。火が点く~。100円ライターだよ~。火が点く~」
「ライター・・・。うおっ!?」
耳元で囁き続けていると、テツさんの人差し指の指先から2センチメートルほど離れた宙空に、ライターの火を思わせる小さな炎がポッと灯った。
「・・・ほら、点いた」
「「「おお~」」」
どうよ? 私の言った通りになったでしょうが。
テツさんがいきなり魔法を成功させるとは思っていなかったのか、獣人族の3人が驚嘆の声を上げた。
「ほほぉ―――う。本当に火が点くんだな」
誰よりも驚いているのはテツさん自身のようで、目を真ん丸にして自分の指先を見つめている。
実体験すれば本当の意味で理解できるでしょ。
「・・・これが魔法。テツさんも魔法が使えるんだよ」
「なるほどなぁ。思い込みか」
事実を突き付けてあげれば、納得顔でテツさんが呟いている。
ふむ・・・。
ほんの小さな“火”の術式で素直に感心しているテツさんと、巨大熊のパンチを食らっても平然としていたテツさん。
どうにも落差が大きすぎるように思えるね。
この落差って何だろう?
魔法がイメージを実現するものだと定義して、強烈な熊パンチを跳ね返していたテツさんのイメージって何だったんだろうね?