軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊種 ⑲

「それで王家に代わって領土の端から反対側の端まで軍隊を出してたのか?」

「・・・先日の内戦当時は、お母様が国の要職に就いていたんだよ。まあ、発端がルナリアと私だし、ウォーレス家が出兵を決めた“物証”も私だし」

事情の一部を話すとケイナちゃんが怪訝な表情になる。

「フィオレが物証?」

「・・・色々と有ってね」

「そうね。色々と有ったわ」

私が言葉を濁すと溜息雑じりにルナリアも答える。

あの内戦に至る経緯と事件が有って私はルナリアやお母様に出会えたし、テレサとも出会えたわけだけど、私にとってもルナリアにとっても、内戦終結までの一連の出来事は、あんまり気持ちの良いものじゃないからね。

みんなが辛い思いをしたし、苦しんだ。

折角、私が 暈(ぼ) かしたのに、勘の良いテツさんがツッコんでくる。

「クァタルが嬢ちゃんを知っていた件と関係が有るのか?」

「・・・ウォーレス領にもピーシス領にも、銀髪の人たちがたくさん居たでしょ? あの人たちって侵略戦争で勇王国に滅ぼされた旧エクラーダ王国の民だったんだよ。クァタルさんも旧エクラーダ王国の騎士だったらしくてね」

そう。クァタルさんがこの場にいるから、あんまり詳しく話したくなかったんだよ。

この話は宣伝に使われたから、レティアの町で私にまつわる噂話を訊き集めれば、すぐに知られるだろう。

それでもだ。

攫われたフレーリアは1000キロメートル以上もの距離を奴隷として運ばれてきた。

故郷から遠く離れた異国の地で、ひもじさと失意と悲しみと苦しみの中で亡くなったのだろうことを思うと腹立たしさを抑えきれなくなる。

だけど、怒りに任せてエターナさんを責めてしまったときの悲しそうな顔を思い出すと、私が心情を口に出すこと自体が罪を背負わせる結果になるのだと意識してしまう。

ほらね。ギシッと歯噛みしたクァタルさんが目を怒らせる。

「フィオレ様は、暗殺された旧エクラーダ王国の第三王妃、オルレーシア様の忘れ形見なんだ。オルレーシア様はオレの故郷、エリステ公爵領の御令嬢だった」

「そういう縁なんだね」

察してくれたらしいレイクスさんが陰鬱な息を吐き、ケイナちゃんも表情を曇らせる。

「では、フィオレも?」

「・・・ケイナちゃんと同じだね」

うん。亡国のお姫様。 外側(ガワ) のフレーリアはね。

中身の私は頭のイカレたド底辺女の血を引く一般人だったけど。

「そういうことでしたか」

「・・・色々と事情も有って私はお母様に引き取られたけど、私も同じだから、気を使わず普通に接してくれて良いよ」

「分かりました」

“対等で良いよ”という私の気持ちは伝わったようで、表情を緩めたケイナちゃんが頷いてくれる。

そうは言っても、どう見ても私よりも年長者だろうケイナちゃんに最低限の敬意を表して「ちゃん」呼びは譲れない。

レイクスさんたちに対しては丁寧語で話しているのも同じ理由だよ。

肩書きとしては私の方が上になっちゃってるから、この辺、ややこしいんだよね。

場の空気を切り替えるように、レイクスさんが明るい声で話題を戻す。

「しかし、凄いね。本当に安全な形で間引き方法を確立してるんだ?」

「治癒術式の訓練にもバイコーンを使うのよ!」

「「「「「ええ・・・」」」」」

明るい声でレイクスさんに乗っかったのに、ルナリアの発言にみんなが引いた。

ちょっと待って。その反応は心外だな。

不満を籠めて反論する。

「・・・だって、怪我人がいないと治癒魔法の訓練ができないじゃん」

「それは確かにそうだ」

でしょ? 首を傾げつつもレイクスさんが同意する。

同じように首を傾げているテツさんが、さらにツッコんでくる。

「魔獣を訓練に使うってのは、具体的にどうやるんだ?」

「バジリスクの毒で眠らせるのよ!」

ドドーンと平たい胸を張ってルナリアが答えたけど、残念ながら、それだけだと具体的な答えにはなっていないと思うよ?

「マジか。バジリスクってのは触角ヘビだろ?」

「毒で眠るの? 永久に、じゃなく?」

さらなる衝撃を受けた様子でテツさんとレイクスさんがドン引きしている。

触角ヘビの毒は暗殺なんかの後ろ暗い用途にしか需要がなかったみたいだけど、駆除した魔獣の毒を有効活用して治療の練習をしているのだから、私たちには後ろ暗いところなんてない。

「・・・麻痺効果が有るんですよ。嗅がせる時間を調整すれば死にません」

「へぇ? 触角ヘビの毒は神経毒なんだな」

ドン引きから立ち直ったらしいテツさんは、早くも感心した声に変わっている。

「・・・揮発性の有る毒でね。臭いを嗅ぐだけでも麻痺の効果が有るし、肌に触れても、触れた部分が麻痺する。体内に入らなくても触れている時間が長くなると死ぬよ」

「ははぁ。麻酔効果が有るってことか」

現代地球の知識を持つテツさんが納得顔で頷く。

まあ、生体実験だけどね。

凶悪犯罪書を使った人体実験もして貰ったし。

全身麻酔も生体実験も普通のこと、というか、人の命を救うために”動物”の命を実験に使うことは、文明と技術の発達に資する尊い犠牲だよ。