軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊種 ⑥

「大切にされていますね」

朝食を終えて食堂から廊下へ出ると、ケイナちゃんが笑い掛けてきた。

言い負かされて丸め込まれたお爺様たちとお父様は、迎えに来たワールターさんに捕まって執務室へ連行されて行った。

お婆様たちとお母様はエゼリアさんたちを引き連れていて、私たちはミセラさんたちとサーシャさんたちを引き連れている。

朝食中、気配を消すように静かだったクァタルさんたち冒険者パーティーは、廊下へ出た途端、ホッとしたように溜息を吐いていた。

クァタルさん自身はアスクレーくんを迎えに来たエウリさんたちに捕まって、激励するようにバシバシと背中を叩かれまくっている。

エウリさんたちとクァタルさんは所属部隊が違ったことも有って親しいと言うほどではなかったけど、面識は有ったらしいよ。

ルナリアと私を迎えに来たネイアさんとオーリアちゃんは、ここのところ部下との親交を深めることに努めているようで、食事時の護衛に就くことがなく兵舎でピーシスガードと一緒に食事を摂っている。

ピーシーズの9人は小隊長と分隊長を務めることになるんだけど、分隊の下に最小グループの班を組成するから班長を決めなきゃいけないんだよ。

ずっと傍に居てくれたピーシーズが忙しそうなのは少し寂しいけど、軍隊というものはピラミッド型の縦割り組織だからね。

おおよそ10日後にピーシーズの4人が王都から帰ってくるまでは、ネイアさんとオーリアちゃんの2人で2個小隊40人を指揮しなきゃいけない。

みんなが大変なのは分かっているから、組織固めが終わるまでは寂しいだなんて我が儘も言えない。

ミセラさんたちとサーシャさんたちが居ないと人手が足りなくて、ピーシーズの組織固めも大変だったはず。

サーシャさんを捕まえて取っ掛かりを作ってくれたノーアの大手柄だよ。

そのノーアにはディディエさんとダーナさんが付いていてくれているから、本当に助かっている。

ほんの3ヶ月ちょっと前までは森で1人だったのに、ずいぶんと私の周りにも人が増えたものだよね。

そして、また1人、こうして私の大切な人が増えた。

日本で暮らしていた頃には友人と呼べる親しい人の1人も居なかった私にとって、人生で3人目のお友だち。

ケイナちゃんに笑い返す。

「・・・それを言ったらケイナちゃんだって」

「私ですか?」

首を傾げるケイナちゃんに視線で示す。

私たちの視線の先に居るのは、フィティオスさんとアルケマイオスさんを引き連れてテツさんと隣り合って廊下を歩くレイクスさんだ。

「・・・レイクスさんは責任と権限を弁えた人だもの。責任をケイナちゃん1人に背負わせたくなかったから、無理を押して出てきたんじゃないかな」

「そうかも知れませんね」

集落に残ったエルフ族の人たちも、テツさんという常識では測りきれない人が居るからレイクスさんを送り出せたんだろう。

そして、レイクスさんと結びつけてテツさんを繋ぎ止めていたのがケイナちゃんなのだろうと、何となく分かる。

ケイナちゃんにとってのテツさんは、私にとってのルナリアとお母様を足したような存在なんじゃないかな。

「おはようございます」

厩舎前の広場へ出ると、馬たちと一緒にピーシスガードとアスクレーくん部隊が待ち構えていて、3個小隊をまとめていたジアンさんに出迎えられる。

何かもう、錚々たる面々だよね。

ちょっとやそっとの敵に襲われたって、負ける気がしない。

「皆、ご苦労。出発するぞ」

「「「「「はっ!」」」」」

今日も総大将を務めるお母様の号令に、みんなが騎乗する。

今朝は猟師さんたちの荷馬車が先行して採掘場へ向かった後だから、私たちは全員が騎馬だよ。

テツさんたちの足りない馬は領軍の軍馬を貸し出すんだけど、何が驚くってレイクスさんとフィティオスさんたちの3人だよ。

馬に乗ったことがないというレイクスさんたちは、貸し出された軍馬たちと見つめ合って何やらコミュニケーションを取っていたと思ったら、ヒョイと鞍に跨がって、軍馬たちはレイクスさんたちが手綱も握っていないのに、トコトコと歩いてきてケイナちゃんたちの馬の後ろに並んだ。

「・・・何、アレ?」

「何がですか?」

私が絶句していると、ケイナちゃんが首を傾げる。

「ケイナも何で手綱を握っていないの?」

「この子たちはお願いすれば乗せていってくれますから」

当然のように返された答えに同意するように、ケイナちゃんの馬がブルルと返事する。

つまりそれは、馬と話し合ってあるから馬を操縦する必要が無いと?

「ええ・・・?」

「・・・うーん。そんな感じかぁ」

恐るべし、エルフ族のコミュニケーション能力。

乗馬訓練でそれなりに苦労もお尻の痛い思いもした私たちにとっては、羨ましくも絶句する話で、ルナリアも目を真ん丸にしていた。

悲しいかな、双方が人語を話して言葉が通じるはずなのに、エルフ族と最も言葉が通じないのは人間同士なんだよね。

「あっ! ほら、あれがフィオレ池よ!」

領主館を出て馬列が大通りを北上している途中で、ルナリアが右手を指す。

畑のド真ん中でキラキラと風に水面を揺らしているのは、巨大スライムを倒そうとして私が空けた大穴だ。

のし掛かる土の圧力で押し出されたのか、地中の帯水層を通ってきた地下水は地表近くまで水位を上げていて、大穴から溢れた水は新設された用水路をサラサラと流れて城壁内の農地を潤している。

数十メートルも横幅が有る手形を眺めたケイナちゃんが首を傾げる。

「面白い形をしていますね?」

「・・・ああ、うん」

ただの大きな手形だから、そんなに面白いものでもないと私は思うけどね。

誰だ? あんな水溜まりに私の名前を付けたの。