軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊種 ⑦

「アレって、どうやって出来たんだ?」

「こう、ドカーンッと魔力の手で叩いたのよ!」

「“魔力の手”ねぇ?」

頭上から腕を振り下ろす身振りを添えたルナリアの説明に、テツさんはよく分かって居なさそうに首を傾げている。

魔力の手をニュッと伸ばしてテツさんの目の前でヒラヒラと振って確認してみるけど、うん。やっぱり見えていないね。

魔力の手が見えているレイクスさんは微妙そうな表情で水溜まりを眺めてる。

「アレって、そんなことも出来るんだ・・・」

「・・・難しいことじゃないですよ。防御術式で殴ったと考えれば簡単でしょ?」

魔力が見えるレイクスさんの言う「アレ」とは魔力の手のことだろう。

ツッコミを入れてみれば、レイクスさんは不思議そうに首を傾げる。

「防御術式は動かないよね?」

「・・・動きますよ? 動かないものだと考えるのは、ただの思い込みです」

「思い込み・・・」

おや? 飲み込みにくそうにしてるね。

柔軟なタイプかと思っていたけど意外と頭が固い?

いや。常識が理解を邪魔してるのかも。

レイクスさんも真面目なネイアさんや頑固なアリアナさんと同じ感じかな?

でもまあ、ネイアさんやアリアナさんに数々の魔法を教え込んできた私にしてみれば、すでに通った道だよ。

「・・・例えば、私がレイクスさんの思いもよらない魔法を使ったとしましょう。それは、そういうものなんです。目の前に存在しているのだから、そういうものだと逆に思い込めば良いんですよ」

「うーん・・・。随分と乱暴な論理だと思うけど、理には適ってるのかな? 僕らは物心ついたときから周囲の誰かが術式を使っている姿を目にしているからねぇ」

私は脳筋学習法の効率が良いと伝えたかったんだけど、レイクスさんは“常識”を日常生活で学んだ生活習慣のようなものだと言いたいのかな?

だから、“防御術式は動かないものだ”と考えるのは仕方のないことだと?

脳筋学習法と日常から学んだ常識。

ボタンの掛け違い感のようなものを感じるね。

そんなに違いの有るものには思えないけど、まあ良いや。

その論法に乗ってあげようじゃないの。

「・・・そうそう。赤ん坊は言葉を覚えるときにどうしますか? 家族の話し声を聞いて、話している姿を見て覚えるんですよ。論理は必要無いとまでは言いませんけど、最初は“そういうものだ”と理屈抜きで受け止めた方が早く覚えると思います」

「言われてみれば、確かにその通りだね」

否定しない方向から攻めてみればレイクスさんが揺らぐ。

ボタンの掛け違い感は、ここかな?

「・・・発想の転換ですよ。どこに焦点を絞って物事を見るかの違いだけで、物を見る角度が変わったから見え方が変わっただけです」

「角度の違い。見え方が変わっただけ・・・、か。なるほどなぁ」

フォーカスの当て方やピントの絞り方なんて言い方をしても伝わらないと思ったから、どこかで読んだことの有る言葉を並べ立ててみれば、レイクスさんが陥落した。

どこの誰が言った言葉かは知らないけど、地球人類の概念は異世界人にも通用したよ。

ありがとう。地球人類。

あなたたちの叡智は、インターネットに触れられなくなった今でも私を助けてくれている。

地球人類の叡智に論破されたレイクスさんが馬に揺られながら思考の淵で水泳を始めたので、そっとしておく。

喋っている間に城壁の北門を潜って町の外へ出ていた。

巨大慰霊碑を右手に見ながら街道の角を曲がって直線道路へ入る。

「森を拓いているのですね」

「・・・騎士や治癒魔法術師を育てる学校の建設用地だよ」

ケイナちゃんの呟きに釣られて視線を向ける。

直線道路左手の養成施設建設予定地は、こうして見ると結構な範囲が更地になってるね。

農地開拓の土壌改良に使う腐葉土の搬出も農家さんたちが進めてくれている様子で、道路面よりも更地の方が地面の高さが低くなっている。

かなり土が減ったね。

この土壌の減少を資源の喪失と見れば自然破壊のようにも思えるけど、有用な森の土の上にそのまま建物を建てる方が資源の浪費だと考えることも出来る。

地下の頑丈な地盤まで基礎を伸ばして支えるのに新たな土を大量に生成して埋め戻した上で固めるんだから、栄養豊かな腐葉土を大量に搬出しても特に問題は無いよね。

「治癒魔法術師ですか」

不思議そうにケイナちゃんが首を傾げた。

私たちの意図を理解すればエルフ族も協力してくれたりしないかな?

エルフ族は地球的なイメージに 違(たが) わず魔法のエキスパートみたいだし、協力を取り付けたい。

お互いに、何が出来るか、何をしようとしているか、どんな協力が出来るかを知っておくことは、とても大事なことだろうしね。

これは未来の話だ。

私たちが何を計画しているかを話しておくべきだろう。

「・・・神教会の資金源なんだよ。光魔法の技術を神教会が独占しているから、治癒魔法の面でも神教会に逆らいにくい国が多いんじゃないかと疑うところも有ってね。だから、治癒魔法術師をどんどん増やして、神教会の資金源と影響力を丸ごと削り取ってやろうとしてる」

私の説明に頷きつつも、ケイナちゃんは納得がいかない様子。

「光術式と治癒術式は違うものだと思いますけど」

「・・・だよね!? アイツら、きっと、みんなが治癒魔法がどんなものかを知らないからって騙してるんだよ。どっちかと言えば、治癒魔法って時間魔法に近くない?」

光魔法と治癒魔法は違うものだと私も感じていたけど、有識者の追認を得られた。

私の仮説にケイナちゃんが頷く。