軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊種 ②

「・・・あ。ミセラさんだ」

「何してるのかしら。あれ」

ジョギングを終えてクールダウンの柔軟体操も終えたので、朝食前に浴室で丸洗いされるべく訓練場を後にする。

厩舎前の広場に出ると、食料庫の前に集まっている数人の人影が目に留まった。

人影の内の1人は、たぶん背格好からミセラさんで間違いないと思う。

他の人たちは下働きをしてくれている領民たちじゃないかな。

「・・・何だろうね」

「行ってみるわよ!」

「・・・ああ。うん」

仕事の邪魔をするつもりは無いけど、まだ朝早いからね。

いつもの日常業務とは違うことをしていればルナリアが興味を持つのも仕方ないかな。

ゾロゾロと武装メイドさんたちを引き連れて近寄っていく。

「・・・ミセラさん」

ミセラさんは気付いていたのだろうけど、しゃがみ込んで何かを弄っていた下働きさんたちは声を掛けられたことで私たちの接近に気付いたようで、慌てて立ち上がる。

「「「「「おはようございます」」」」」

「・・・おはよう」

「ええ! おはよう!」

身分階級制度がない現代日本の常識を持っている私だけでなく、お嬢様育ちのルナリアも下働きさんたちに横柄な態度を取ったりしない。

お給料で雇われて雑用や力仕事を引き受けてくれている下働きさんたちが居てはじめて、私たちは快適な生活ができているのだし、領主一族だから、雇用主だからと偉ぶったりするルナリアじゃないからね。

「ルナリア様。フィオレ様。もう終わられたのですか?」

「6周も走ったわよ!」

領民たちと挨拶を交わしている私たちを、目を細めて見ていたミセラさんに、ルナリアがドヤ顔で自慢する。

「・・・今日はお客様を採掘場へ案内するからね。無理はしなかったよ」

「良い判断かと」

私たちの答えにミセラさんが頷く。

まだまだ走れる余裕は有ったけど、大事なお役目の前に疲れてしまっては本末転倒だもの。

そんな失敗をお婆様たちに知られたら、「物事の順序が分かっていない」と確実にお説教を聞くことになる。

ミセラさんに褒めて貰って嬉しくなりながら本題の用件へと話題を戻す。

「・・・それで、何か有ったの?」

「以前、お預かりしたタネを、ご指示通りにそろそろ水に漬けるべきかと相談しておりました」

下働きさんの説明に、私が出した指示だと思い出す。

「・・・ああ、えーっと。エライワーか」

エライワーって呼ばれている植物はオリーブのこと。

タネから外した果肉を絞ってみたら、ちゃんと油が採れたと聞いたし、オリーブで間違いないはず。

しばらく冷蔵しておくように指示してたんだっけ。

タネを冷蔵庫で冷やしておくのは、オリーブ農家さんの動画か何かで見た発芽方法のコツだよ。

冷蔵することで冬の寒さをタネに経験させて、植え付け時に暖かくなることで春の訪れをタネに気付かせるとか何とか、そんな意図だったはず。

私が指示を出したのは大晦日で、新年のご祈祷が始まる前だったから、もう1ヶ月近く経っている。

冷蔵期間としては十分じゃないかな。

今はまだ真冬だと言っても、雪が降ることも有る四国地方でもオリーブは育つからね。

日本のオリーブオイル生産1位でブランド化に成功している小豆島は香川県だったかな。

うどん県はうどんだけじゃないんだよ。

そんなうどん県よりもリテルダニア王国の気候は明らかに温暖なんだから、今から植え付けたって早すぎることは無いはずだ。

「・・・うんうん。良いと思うよ」

「そうですか。安心しました」

私の答えに下働きさんが表情を明るくする。

ミセラさんに相談を持ち掛けたのは、この人っぽいね。

「・・・水に浸ける前にね。ちょっと手間なんだけど、この殻の尖った部分をナイフで削り落としてくれるかな」

「承知いたしました」

硬い殻付きのタネを指し示して細かな注文を付ける。

下働きさんの承諾と入れ替わりに、今度はダーナさんが小さく手を挙げた。

「あの、フィオレ様。殻の先を削り落とすことには、どういった意味が有るのですか?」

「・・・正直、知らない。知らないけど、そうした方が発芽しやすいって聞いたことが有るんだよ」

「「「「「ほーう」」」」」

下働きさんたちが感嘆の声を上げて、ダーナさんもディディエさんもフムフムと頷く。

「そういうものなのですね」

「・・・栽培に成功してタネが大量に手に入るようになれば、本当かどうか比較実験してみれば良いよ」

「「はい!」」

2人は農業担当だからね。

是非とも品種改良や生産性向上の研究に邁進して欲しい。

「あら?」

一件落着かと思えば、聞き馴染みが有るとまでは言えないけど聞き覚えの有る声が耳に届いた。

声の主を探して目を向けてみれば、護衛の男性を連れたケイナちゃんだった。

この護衛の人はアルケマイオスさん、だったかな?

「・・・あ。おはよう、ケイナちゃん」

「おはよう!」

「ルナリア、フィオレ。おはようございます」

挨拶を投げ掛けると、ニコリと笑って挨拶を返してくれる。

歩み寄ってきたケイナちゃんにルナリアがニッと太陽みたいに笑い掛けた。

「よく眠れた?」

「実は、お借りした部屋のベッドが柔らかすぎて落ち着きませんでした」

ケイナちゃんが恥ずかしそうに苦笑する。