軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊種 ①

翌朝、レイクスさんたちを採掘場へ案内するために私たちは遅めの出発となっていたので、ルナリアの脇腹を鷲掴みして起こした私は久しぶりに早朝の基礎訓練に勤しんでいた。

1月下旬と言えば日本でなら一番寒い季節で、さらに日の出前の時間帯ともなれば一番冷える時間帯なんだけど、温暖なウォーレス領においてはそこまで冷え込まない。

いつもなら護衛のピーシーズも一緒に走るんだけど、今日はディディエさんたちとサーシャさんたちが一緒に走っている。

いつも色々と下準備をしてくれているミセラさんたちは、私たちを起こした後、ディディエさんたちに護衛をタッチ交代してどこかへ姿を消していた。

「今日は採掘場で泊まるんだっけ?」

スッスッハッハッと呼吸を繰り返す合間に言葉を紡ぐ。

昨夜の晩餐時にみんなが話していたことを思い出そうと、私と並んでジョギングしているルナリアが首を傾げている。

私たちもずいぶんと基礎体力が付いたようで、早くも2周目に突入しようとしているのに、ほとんど息が上がってこない。

「・・・そうだよ。お母様だけじゃなくお婆様たちも同行されるそうだから、みんな羽目を外し過ぎないようにしないとね」

「でも、セリーナお婆様もご一緒されるとは思っていなかったわ」

意外そうにルナリアが白んできた空を見上げる。

まあ、普段だったら、確かにね。

採掘場でシカの観察だなんて、お母様やシェリアお婆様やアスクレーくんなら兎も角、セリーナお婆様は深く興味を持たなそうでは有る。

ただし、それは「普段だったら」だ。

今のウォーレス領には、セリーナお婆様が強い興味を持っているだろうイレギュラーな人たちが居るじゃん。

「・・・そう? セリーナお婆様らしいと思うけど」

「ええ~? そうかしら」

私が指摘してもルナリアは思い至らないみたいだね。

セリーナお婆様がいる場面でなら不注意だと叱られそうだけど、今は居ない場面なんだから答えを教えても構わない。

「・・・だって、エルフ族との接点だよ? 今後、技術的な根幹を握るのが目に見えているエルフ族との関係を、誰よりも先に深めておける機会をセリーナお婆様が見逃すわけがないと思わない?」

「そっか! 有りそう!」

分かってくれたか。

セリーナお婆様の考え方なら、真っ先に掌握してしまうことに価値を見出すはず。

マスコミだって経営者だって投資家だって情報に価値を見出す。

なぜなら、他者に先んじて情報を知ることこそが“最も楽に勝つ”方法だからだ。

社交の世界で生きてきたセリーナお婆様にとって、“情報”そのものに価値が有るんだよ。

恐らく、“情報の中身”に対する興味はそれほどでは無いと思うよ?

でも、私に関する情報でお母様をコントロールしようとしたカレリーヌ様の一番弟子なんだから、きっとセリーナお婆様は情報に価値を見出してるんだよ。

魔獣の生態という世界を揺るがしかねない最新情報に触れられるかも知れないチャンスでも有るんだし、興味を持たないなんてことは無いだろう。

「・・・それに、セリーナお婆様はケイナちゃんに社交を教えようと考えてるんじゃないかなぁ。シェリアお婆様は作法を教え込むつもりだと思うし」

「うわ~・・・。ケイナ、大丈夫かしら」

お婆様たちは手を抜くような人たちじゃない。

詰め込み教育が行われるのだろう状況を想像したルナリアが情けなく眉尻を下げる。

分かる分かる。ルナリアも厳しく躾けられていたみたいだしね。

私はお母様の手前、社交は免除と言われたけど、シェリアお婆様のお眼鏡に適うようにと作法の詰め込み教育を施された私も辛かった。

アレをダブルで食らうとなれば、ケイナちゃんの心配もするよ。

ただ、ケイナちゃんには是非とも頑張って貰いたい。

「・・・大変だろうけど、悪いことじゃないと思うよ? 社交だって作法だって身を守る手段の1つなんだから、ケイナちゃんも覚えておいて損はないよ」

「社交って身を守ることになるの?」

ルナリアが目を丸くして私を見る。

なんで不思議そうに言うかな。

「・・・そりゃあ、なるよ。テレサだって擦り寄ってくる王宮貴族を上手くあしらって騙されないようにするために、社交を頑張って覚えたんだろうし」

「ええ~? テレサとケイナじゃ立場が違わなくない?」

ルナリアの考えも分からなくは無いけどね。

元王族でもケイナちゃんは亡国のお姫様で、テレサは現役のお姫様だ。

国そのものがなくなったのだから、ケイナちゃんの立場は平民階級ということになる。

難しいのは、平民階級でも現実の立場は重要人物のままってことだよ。

「・・・魔法道具を作るんだから、寄ってくるのは貴族だけじゃないと思うよ?」

「貴族以外?」

ルナリアが再び首を傾げる。

地球の―――、特に自由主義社会の感覚では当たり前なんだけど、厳然たる身分階級制度に守られていて飛び込み営業なんてものを見たことも無い貴族令嬢には分かりにくかったかな?

「・・・商人とか、絶対に寄ってくるよね」

「ああ~。有りそう」

答えを示せば、市場へちょくちょく連れて行っていたルナリアも理解する。

貴族家のお買い物は基本的に信用の置ける決まった商会から購入するものだ。

対して、市場でお菓子の買い食い常習犯となっているルナリアは領民たちからも人気で、あれやこれやと売り込みを受けた体験を持っている。

エルフ族は生産者側の立場になるから、たくさんの商人や商会から「買わせろ」と買い付け攻勢を間違いなく受けるはずだ。

そこに身分階級バリアーは存在しないんだよ。

むしろ、ウォーレス家がバックについて身分階級バリアーの内側に入れて守らないと、有象無象が家まで押し掛けておちおちしていられない状況になるだろう。

家に押し掛けるだけなら、またかわいいもので、ケイナちゃんを誘拐してエルフ族に言うことを聞かせようとする不埒者が出てくる可能性が高い。

さらに厄介なのが、その不埒者が資金力や影響力の有る大商会や貴族家だろうことだ。

怒らせると恐いウォーレス家の庇護下に置いておかないと、きっと道も歩けなくなるよ。