作品タイトル不明
精霊魔法というもの ㉚
「・・・なんで呼び方が違うんですか?」
「あれを作ったのはお祖父様よりもずっと古い時代のエルフ族なんだけど、魔法術式を使う犯罪者を安全に拘束するための魔法道具だったんだよ。それをヒト族は奴隷に言うことを聞かせるために使った」
辟易したようにレイクスさんが首を振って、お祭り騒ぎになっていた私の頭がスゥッと冷める。
警察官が装備している手錠みたいな使い方をするための魔法道具だったんだね。
警察官は被害の拡大を抑えるために手錠を使用する。
バカとハサミだ。
同じ使用方法でも悪意の有る使い方をしたのは、あの連中。
「・・・また神教会―――、いいえ。西方諸国のヒト族ですか」
「そうだね。人を人とも思わない連中に魔法道具を与えたのが間違いだった」
当時、まだ生まれていなかったはずのレイクスさんが、悔いるような表情を浮かべている。
問題の魔法道具を手にしたことによって、神教会や西方諸国の欲深い連中が実行した悪行が有るものね。
「・・・奴隷制ですね」
「うん。エルフ族には奴隷を用いる文化は無かったからね。まさか、人攫いの道具として使われるとは思わなかったそうだよ」
現代地球で言えば炭素繊維技術やドローン技術やAI技術みたいなものだね。
民生技術が軍事利用スピンオンされた実例は多々あるし、どんなものだって悪意の有る使い方をしようとする連中は現れる。
自分たちの技術を悪用されて自分たちが滅ぼされそうになったことは悲劇としか言いようがないけど、過去のエルフ族を責められるものではないし、責められるべきは悪人たちだ。
特に排他思想を持つ宗教は、悪事を悪事だと思わないのだから始末が悪い。
「人でなしのクズどもめ。度し難い奴らだ」
「・・・ほんとにね」
吐き捨てるように言うお母様に私も全面的に同意する。
フレーレリアが奴隷制の被害者だった私としては絶対に許容できるものじゃないしね。
肩の力を抜くように溜息を吐いたレイクスさんが、目を細めて私たちを見る。
「刻印術式を学びたいなら教えてあげても良いけど、どうしよっかな?」
「・・・ゴーレムの作り方でどうですか? ケイナちゃんにも精霊魔法を教えて貰ったお礼に“魔力の手”を教えます」
タダで頂戴、とは言わないよ。
一蓮托生になるんだから私は出し惜しみをするつもりも無いし、魔石使用法も教えることになるだろうと考えてもいる。
取引のような形になるけど、こうした方が乗りやすいだろう。
出会ったばかりの相手に虎の子の技術を提供するには、周囲を説得できるだけの大義名分は必要になるんじゃないかな?
レイクスさんと一緒に、突然名前を挙げられたケイナちゃんも首を傾げる。
「魔力の手、ですか?」
「・・・ケイナちゃんは魔法術師だよね? 自分の身を守る手段は必要だろうし」
友だちであり同志でもある、ともなれば、ケイナちゃんもテレサと同じく守護対象だ。
レイクスさんが「手・・・?」と怪訝な表情になっていて、テツさんも「アレか・・・」と何かを思い出してるっぽいけど、私は何も見なかったし気付かなかった。
何としてもケイナちゃんを守るし、ケイナちゃん自身にも自衛手段を持って貰う。
レイクスさんとテツさんの反応をチラッと確かめたケイナちゃんが私へ視線を戻してくる。
「良いんですか?」
「・・・テレサにも教えるから、2人で頑張って覚えると良いよ」
みんなで触手をウニョウニョさせようね、という思いを込めて、ニコリと笑い掛ける。
「ええ・・・? ケイナも“あんなの”出すの?」
「・・・見た目が悪いのと、ケイナちゃんが無事に帰ってくるの、どちらが良いですか?」
あんなの、とは酷いな。
真面目な顔で訊いてみれば、複雑そうなレイクスさんも頷く。
「そりゃあ、無事に帰ってくる方が良いけど・・・」
「・・・どうせ、目には見えませんよ?」
「それもそうだね」
ヨシ。勝った。
見えるのはレイクスさんだけでしょ? という暗示は、ちゃんとレイクスさんに伝わったようだった。
じゃあ、後はレイクスさんの返事待ちだ。
「・・・それで、ゴーレムの作り方はどうします?」
「良いよ。アレ、気になってたんだ」
コテリと首を傾げて見せれば、レイクスさんも頷いた。
ホクホクしている私との取引が決着して、諦めたように息を吐いたレイクスさんがお母様へと目を向け直す。
「それで、血の効果だったね?」
あ。脱線しちゃったけど、そっちの話も有ったね。
レイクスさんの視線を受け止めたお母様が頷き返す。
「我々の方では、自ら手を下した魔獣の体内保有魔力の一部を血と共に摂取しているのではないかと考えているが」
「僕らの見解も同じだよ。自身で手を下した魔獣の魔素を取り込むのではないかと推測している」
お母様とレイクスさんの見解は、ほぼほぼ同じかな。
お母様は「一部」と注釈したけど、レイクスさんは注釈無しか。
でも、血を摂取した側の体内保有魔力の増加量や魔獣の体内保有魔力量を数値化出来ない以上、答えは出ないよね。
あー、いや。今、話してるのは“体内保有魔力の活性化”現象のことで、増加量の話じゃなかったね。