軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊魔法というもの ㉙

「しかし、空間に作用するのは闇術式なのだろう? なぜ、奴らの召喚術式が闇術式ではないと言える?」

「例えば、この背嚢さ」

レイクスさんは椅子の足元に置いていたリュックサックを手に取って私たちに示す。

あれって、森でレイクスさんたちが背負っていたヤツだよね。

「ニホンの言葉では“ 魔法の鞄(マジックバッグ) ”って言うんだっけ?」

「・・・ま、マジックバッグ!? そそそそ、それって、見た目よりも沢山のものが入ったり!?」

まさかのファンタジーアイテム名に耳を疑った。

私のテンションが爆上がりする。

前のめりになった私にレイクスさんが感心した顔を向けてきた。

「勇者クツキとテツの他に貸したことがない魔法道具なんだけど、やっぱり性能まで知ってるんだね」

「ああ、レイクス。そりゃあ違うぞ。“知ってる”っつーか、日本の創作物―――、作り話では一般的な夢の魔法道具なんだ」

それどころじゃないから聞き流しかけたけど、何が「やっぱり」なのかと思えば、テツさんがパタパタと手を振ってレイクスさんに解説してくれた。

「あれ? そうだったの? テツは驚かなかったから知ってるのかと思ったよ」

「いやいや。俺も驚いていたからな? 地球にゃ魔法がねえんだから」

「そう言えばそうだったね。作り話かぁ・・・」

レイクスさんが複雑そうに首を傾げる。

たまたまエルフ族が実現していた魔法道具に、私たちが想像する空想上のアイテムそのものの現物が有ったってことかな?

考えてみれば地球人の妄想力って凄いよね。

見たことも無いものを空想して、さも実在するかのように一般知識化するんだから。

世界が違っても同じようなものを考え出して実現してしまったエルフ族も凄いけど。

歴史上、全く違った場所で近似するものを想像、あるいは創造する偶然は地球でも起こっていたし、人間って不思議だよね。

何かもう、テンションが上がったまま下がらないよ。

黙って聞いていたお母様が記憶を探るように視線を彷徨わせる。

「確か、対魔族大戦当時の従軍兵士が遺した手記に、そんな魔法道具の記述が有ったな。眉唾だと考えていたんだが実在していたのか」

「魔族領域への逆侵攻軍だね。この背嚢はその複製品だけど、これってね、“闇術式”で空間をずらしてバッグの内側の空間を広げてるんだよ」

レイクスさんによる技術的な解説に私のテンションがレッドゾーンに突入する!

空間をずらす!?

「・・・ふおおおおっ!! 闇魔法には、そんな使い方が!? 言われてみれば、空間に作用するんだから有り得るよね!! 物流革命が起きるよ!!」

「落ち着け。話が進まん」

お母様に窘められたけど、それでも興奮が収まらない!

「・・・だってだって! 小さな鞄に荷馬車1台分の兵站が入ると考えてみて!」

「ふむ。なるほどな。―――それで?」

隣の席に座るお母様に鼻息も荒く訴えかければ、おでこを指先で押し返された。

お母様に視線を向けられたレイクスさんが真面目な表情に戻る。

「連中がこういった魔法道具を持っていると聞いたことは?」

「無いな。勇王国の部隊と交戦したことも有るが、普通に輜重部隊を連れて―――、ああ、そういうことか。だから、神教会は闇術式の知識を持っていないと言えるわけだな」

納得顔でお母様が頷く。

えーっと? 光魔法の―――、治癒魔法の技術を独占して勢力拡大に利用してきた神教会が闇魔法の技術を持っていれば、同じように利用しないわけが無いってことかな?

マジックバッグに使われている闇魔法の技術を使えば物流面から世界を征服できる可能性も有るんだし、神教会が持っていれば使わないわけはないよね。

ん? 闇魔法?

神教会って闇魔法の魔法道具を使ってなかったっけ?

アレだ。あの魔法道具。

そこで思い当たった。

「・・・あっ。そうか。空間をずらす? アレってマジックバッグと同じ理屈なんだ」

「アレ、というのは?」

闇魔法の具体例に1人で納得していると、レイクスさんが私に目を向けてくる。

「・・・神教会勢力が送り込んできた暗殺者が持っていた魔法道具が手元に有るんですよ。景色が揺らいだように見えた場所から攻撃して来たのは、そのずらした空間の中に潜んでたってことだよね?」

「あの遺物が有ったか。そうすると、奴らも闇術式の技術を持っている可能性が残るな」

意見を求めて視線を向ければ、お母様が渋い顔になった。

レイクスさんが私たちの顔を見比べる。

「手元に有るの? どういう機能を持つ魔法道具か、僕が確認してみても構わないけど」

「そうしてやってくれるか。国王陛下からフィオレが研究の許可をいただいてな。ウォーレス家の本拠地、レティアの領主館で現物を保管している」

レイクスさんの申し出をお母様が受け入れる。

神教会が闇魔法を持っていればロクな使い方をしないだろうからね。

王様たちが心配していたように、アレが遺物か複製品かの鑑定をして貰えるだけでも助かるよ。

他にも有ったな。

アレだ、アレ。

「・・・えっと。なんて名前だっけ? 闇魔法といえば、奴隷の首に付ける魔法道具も保管してるよね?」

「“隷属環”かな? あんなもの、まだ使ってるんだ?」

「・・・“れいぞくかん”?」

聞き慣れない名称を呆れ顔のレイクスさんが口にして私の頭が傾ぐ。

私が欲しかった答えをお母様が口にする。

「“奴隷環”のことだろう」

「ああ。ヒト族はそう呼んでいたんだっけ」

レイクスさんが嫌悪感を顕わに眉を顰める。

テツさんも嫌そうに顔を顰めている。テツさんも知ってるんだ?

・・・ふむ?